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クソ真面目「この曲は似ていると思いますか?」

Juice WRLD の代表曲Lucid Dreamsが、ポップパンクバンドYellow CardのHolly Wood Diedに似てるとして10月に訴えられていたらしい。どうやら今は解散している模様。

https://www.digitalmusicnews.com/2019/12/10/yellowcard-juice-wrld-lawsuit-hold/


記事によると、Yellow Cardのメンバーが原告のようで(もう解散しているのでレーベル名義でない?)Juice wrld本人(作曲者としてJared Higgins名義)、及びTaz Taylor(プロデューサー), Kobalt Music Publishing(レーベル), Interscope Records(レーベル。Juiceの所属はこっち)が被告となっている。Yellow Card側は「Lucid DremasはただのエモラップではなくHolly Wood Diedの核心部分を甚だしくコピーしている」として著作権侵害を主張している。

アメリカの著作権法はわからないけれど、日本法で言えばおそらく曲のある部分のみが似ているので(下記参照)丸パクリである複製権(著作権法21条)の話ではなく翻案権(著作権法27条)の侵害であるとの主張だと思う。つまり被疑侵害著作物だとされる「Lucid Dreams」が「Holly Wood Dies」を翻案権の侵害だとすればこれは以下の基準で判断される。

「江差追分事件」最高裁判決(最高裁平成13年6月28日判決)      (1)既存の著作物に依拠し、かつ(2)その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為であること


1 似てるんすか (上記⑵の同一性及び本質的な特徴~の話)

まず「Lucid Dreams」自体が「新たに思想又は感情を創作的に表現することにより」「別の著作物を創作する」として著作物性が認められる必要があるが、これは問題ない。これを前提に「既存の著作物」すなわち「Holly Wood Dies」の「表現上の本質的な特徴を直接感得できる」ことが必要である。

似ているとされているのは「Lucid Dreams」のフックの部分(1:10~あたり)と「Holly Wood Dies」の冒頭部分だと思われる。のでそこの部分を忠実じゃないけれどわかる範囲で再現して比べてみる。

①Holly Wood Died (訴えている方)

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②Lucid Dreams (訴えられている方)

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こっちの方が音階が高い。ぱっと見でも楽譜が似てると感じる。

③同じキーに揃えたもの

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若干の音の長さ、音階に違いは見られるけれど、ほとんどの部分が同じっぽい。

キーは異なっているが、コード進行はほとんど同じであって当該部分が似ていることは否定できないように思う。けれど、ここでは曲として似ているかどうかが問題となっているのであって、この割と内省的なエモラップを聞いて爽快なポップパンクを想像する人がどれほどいるかはちょっと怪しい部分がある。ただ「Holly Wood Dies」冒頭のメロディにこそこの曲のキャッチ―さが現れていると思うので「本質的な特徴を直接感得」できるという余地もありそうだ。

2 わざとパクったんすか(①の依拠性の話)

仮に類似性が肯定されたとしても侵害の成立には依拠性、すなわちJuice WRLD自身がHolly Wood Diesを実際に参考にしていることが認められないといけない。偶然に似ている曲を作った場合にも侵害だとすれば、誰も怖くて曲なんか作らないからこのような場合には著作権法上の侵害は認められない。

ここで問題になっているのが当のJuice WRLD本人が先日急逝してしまったことである。つまり本人に尋問はもちろん訴訟外で話を聞くことすらできないので、故意にやったかどうかなんかめちゃくちゃ闇に葬られてしまった。もちろん過去の彼の発言などの証拠によって認定することはできるだろうが、Yellow Card側にとってはだいぶな不意打ちだったと思う。彼が昔からYellow Cardのファンだったとか自宅にCDがあったとか、他の曲にもポップパンク好きな要素がちりばめられていたとかそういった要素が大事になってくるんすかね。実際上記の記事によれば今のところ裁判を中断している模様。

ところで該当部分の小節が仮にここだけで人々の心をぐっとつかむものであれば、その部分にも著作物性が認められてもよいと思える。そうすれば曲全体を比べなくても該当部分の小節のみが翻案侵害の対象となって、類似性の認定は簡単なんじゃないかと思った。けど小節規模の著作物性の認定はあんまりしっくりこない。というかそもこも小説の範囲内で編曲しても新たな創作性は認められなそうだから翻案ではなくてそもそも複製の問題? 保留!

ここまで認められても「引用」(著作権法32条)などの権利制限規定に服すれば侵害は認められない。けど同規定の検討は長くなるのでひとまずここまで。まぁ引用の線は無さそうだと思う。

3いくら賠償するんすか(著作権侵害だと認められた後の話)

請求額が1500万ドル=約15億円であることも気になった。認容されるかは置いといて数100万規模の日本の著作権侵害訴訟とはピリつき方が尋常じゃなさそう。ましてや彼が先日急逝してストリーミング再生が爆跳ねしてる状況だとさらなる増額もあり得そうなのでピリ辛どころじゃない。損害額をどう計算しているのかはわからないけど、「Lucid Dreams」がバズることはYellow Card側にとっては「僥倖...!!」?。というかこれ少なくとも「Holly Wood Dies」もみんな聴くだろうし、その分は減額されたりするんだろうか。
どうなるか気になる。

Lucid Dreamsのサンプリング元であるStingの「Shape of my heart」ともなんか問題になってるらしいけれどどうなったかよく知らない。

サムネ 引用元
https://genius.com/amp/a/juice-wrld-breaks-down-wasted-on-genius-series-verified

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