見出し画像

初期超サイヤ人悟空の口の悪さを堪能する【ドラゴンボール考察】

悟空は劇中、クリリンを殺された怒りによって超サイヤ人へ初めて変身する。
劣勢の戦いを逆転する様は、ドラゴンボール屈指のカタルシスを得られる名場面なのだが、この最初の超サイヤ人悟空、強いだけではなく性格や口調がかなり変化する。具体的には一人称が「オラ」から「オレ」になり、普段からは考えられないほど口調が荒っぽくなるのだ。

そしてこの悟空、怒り狂っている割に妙に多弁になる上、言ってることも普段より論理的になるのである。端的に言えばなんかクールでカッコいいのだ。
これ以降は変身しても性格は変わらず、(精神と時の部屋以降は)一人称もオラのままになる。この時しか見れないのはちょっともったいないくらいなのである。

そこで今回はこの初期超サイヤ人悟空を振り返り、その口の悪さとクールさを改めて堪能していきたい。

悟空はそんなこと言わない

クリリンを殺されたことにより、悟空は「プチン」という効果音とともに超サイヤ人へ変身する。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

この時悟空は初めて自分のことを「オレ」と呼ぶ。
「理性が」「とっとと」「きえるんだっ!!!」、いずれも普段の悟空からは出てこない語彙だろう。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

フリーザの手を絞り上げながら「クズやろう」と言い放つ。かなり直接的な罵倒だ。ちなみに劇場版では兄クウラも同じようにクズ野郎と罵倒されるのだが、その前後のシーンはセルフオマージュになっていたりする。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

100%フリーザと戦う最終決戦での一言。普段の悟空なら「時間をかせがせるわけにはいかねえ!!!」になるだろう。カッペが抜けて某赤い彗星みたいな話し方になっている。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

「きさまは死ぬ これからここで・・・」直接的な殺意をフリーザにぶつける悟空。倒置法になっているのもハチワレみたいでカッコいい。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

悟空が心の中で喋ったセリフ。心の中までしっかり標準語になっている。カッペの悟空はいなかったんだ…「ココロ」の中にも…

出典:ドラゴンボール完全版22巻

界王様への一言。怒り狂ってもなお「おまえ」ではなく「あんた」に抑えるあたり、界王様を本当に敬っているのだろう。(あとでサクッと犠牲にするけれど)

出典:ドラゴンボール完全版22巻

フルパワーフリーザとの全力勝負。この「くたばれフリーザーーッ!!!!!」はベジータも一字一句違わずに同じことを言っている。

出典:ドラゴンボール完全版21巻

"!"の数すら一緒だ。超サイヤ人悟空にはベジータの怨霊、サイヤ人たちの怨霊が乗り移っているのかもしれない。

論理的すぎる悟空

この超サイヤ人悟空は口が悪いだけではない。怒り狂っている割にかなり知的に喋るのだ。
元々悟空はかなり論理的な思考の持ち主なのだが、それを言語化することは得意ではないため、理論派、頭脳派のイメージはあまりない。しかし初期超サイヤ人悟空はその言語化が非常に上手いのである。

出典:ドラゴンボール完全版22巻
出典:ドラゴンボール完全版22巻
出典:ドラゴンボール完全版22巻
出典:ドラゴンボール完全版22巻

いずれもの場面も、悟空はその時の状況や心情をはっきりと言葉で説明している。自分だけでなくフリーザの感情や状況までしっかり言葉にし、”何故そうなのか”を筋道立てて話している。言語化によって悟空が本来持っている知的さが最大化されており、非常にカッコいいのだ。

さらに特筆すべきはこの長台詞である。

出典:ドラゴンボール完全版22巻
出典:ドラゴンボール完全版22巻
出典:ドラゴンボール完全版22巻

悟空はフリーザを殺して復讐することを明言しながら戦っていた。しかしここにきて突然戦いを止めるという複雑な判断に至っている。
そのような、ある意味矛盾した心情をしっかり説明し、自分が何を思い、どう状況と心情が変化し、何故気が済んだのかをここまでクリアに言語化しているのだ。これはもう頭脳系キャラの喋りと言っていいだろう。

そんな悟空の有名なシーンをもう一つ見てみよう。

怒った悟空はフリーザに「罪も無い者をつぎからつぎへと殺しやがって」という言葉を投げかける。

それに対してフリーザは「きさまらサイヤ人は罪のない者を殺さなかったとでもいうのか?」と反論、悟空のその返答が以下である。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

「だから滅びた・・・・・・」、とてもクールな返しだ。
翻訳するならば、「サイヤ人は罪を犯した。滅びたのは必然であり、それが罪を犯したものの末路だそのような意味合いになるだろう。

それに対してフリーザはこう答える。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

「サイヤ人滅んだのは必然ではない、強者のオレが滅ぼすと決めたから、オレの気分一つで滅びるほど矮小だからだ。」フリーザの主張はこのようなものになるはずだ。

そしてそれを受け悟空はさらにこう返す。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

「サイヤ人が強者の意思によって滅ぼされたのであれば、同じようにオレ(強者)の意思できさまを滅ぼす。罪あるものが滅びる必然へはオレが導く。
悟空の言葉はこのように解釈できるだろう。

フリーザが善悪を超えた「王」の考え方をしているのに対し、悟空の考え方は司法に近い。シンプルに悪いやつは誰であっても罰を受けないといけないのである。(そして罰を受けたならば許すところも司法に近い。)

その悟空の思想は、一貫して亀仙人の教えが元になっているのだと思われる。

出典:ドラゴンボール完全版2巻

サイヤ人は不当な力で人々を脅かしていたのだから、「ズゴーンといっぱつ」かまされたのは仕方ない。だからそれはいい。だが同じように、不当な力で人々を脅かすフリーザは「ズゴーンといっぱつ」かまされなければならない。
さらに翻訳するとこんな感じになるだろう。

短い言葉にそれぞれのスタンスの違いが現れており、かなり突っ込んだやりとりである。悟空のクールさとともに、正義についての考え方が垣間見える一コマだった。

超サイヤ人は別人格になる設定だった?

さて、ここまで悟空のクールさと口の悪さを見てきたが、やはり悟空の人格はちょっと変わりすぎではないだろうか?
ただブチギレて荒くなっているだけではなく、性格や特性そのものが変わっている印象があるのだ。

このことは後に「超サイヤ人なると興奮状態になって凶暴性が増すから」と説明がされており、性格が変わったのはそのためで間違いない。これは確定である。

ただ、あくまで漫画の設定として考えた場合、もしかすると初期設定では超サイヤ人とは「本当に別人格になる」設定だったということはないだろうか?
いくつかそう考えるとしっくり来る場面もある。

例えば悟空の以下セリフである。

オレは地球からきさまをたおすためにやってきたサイヤ人・・・・・・・・・
おだやかな心をもちながらはげしい怒りによって目覚めた伝説の戦士・・・

超サイヤ人孫悟空だ!!!!!!

出典:ドラゴンボール完全版22巻

このセリフ、言っていることがちょっと客観的すぎるのである。
「おだやかな心をもちながら」「はげしい怒りによって目覚めた」「伝説の戦士」、いずれも自称というよりは他称のコメントに感じられる。
特に「おだやかな心を持ちながら」という部分は自称だとするとちょっと気恥ずかしいし、そもそも悟空が自分自身を穏やかと認識していたかというとあまり無い気がする。
「伝説の戦士」という部分も、気持ちが高ぶっているとはいえ、悟空が自分は伝説だと自称するかどうか。ベジータなら言うだろうが、悟空が言うイメージはあまり無いだろう。

また、変身前の悟空は超サイヤ人の概念をあまり理解していなかったのだが、変身後は超サイヤ人についてしっかり理解した上で説明していることもちょっとばかり不自然である。

だがそれらも、”悟空の中に眠った伝説の超サイヤ人(別人格)の遺伝子が目覚め、様々な知識や感情がインプットされたから”とすれば、なるほどなとしっくりくるかもしれない。

またもう一つ裏付けの場面として、悟飯が悟空の元を去るシーンも挙げられる。

出典:ドラゴンボール完全版22巻

悟飯が笑顔で涙を流しているこのカット。
この時の悟飯は悟空の覚醒を感じ取って勝利を確信していた。勝てるのならば(帰還手段が無いとは言え)今生の別れになる可能性はけして高くない。であれば本来は泣く必要は無いはずである。しかし悟飯は笑顔を浮かべながら同時に泣いていた。これは何故だろうか。

このことに辻褄を合わせるように考えると、悟飯はこの時、”あの優しかったお父さんはもう戻らない”ということをなんとなく感じていたのではないか?

悟空は甘さを捨てて超サイヤ人となり、守るための戦いではなく相手を滅ぼすための戦いを望んだ。それは普段の悟空の価値観ではなく、悟空が悟空であることを捨て、別人になった結果とも言える。だからこそ悟飯は悟空との別れを感じ、勝利を確信した笑顔で涙を流したのである。

もちろん実際はそうではなく、悟空は別人格にはなっていなかったし、変身が解ければいつもの悟空は戻ってきた。
しかし一説には鳥山先生はフリーザ編で連載を終わらせるつもりだったという話もあるし、もう戻れない(戻さない)つもりで書いていたとしてもおかしくはないのではないかと感じるのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?