♯17 ソーセージ天、おにぎり、赤ワイン、虚業。
はじめに
仕事をするということを整理してみた話。整理する中でソーセージ天とおにぎりと赤ワインを嗜みながら蛇行していくけれど、そのまま記載したい。
この文章は話が長くてつまらない。そんな話。
私は金融機関の端っこで約10年間くらい働いてみている。楽しくないなとか楽しいなとかはあまり考えなくなった。働いて楽しかったのは大学生の時のフレッシュネスバーガーのバイトくらい。今の仕事は、誰かのお金を動かしたり、投資先のチェックしたりしている。きっと、今の仕事は、虚業の一種なんだろう。
そんな虚業の一種を10年近くやった結論を言えば、私は仕事が比較的好きなんだと思う。決して、すごく嫌だと思ったことがないから好きなんだと思う。消極的な理由だけど、そんな気がした。
今の仕事がピアノの塾でなければいいなあと思う。元気に通って誰の役にも立ってなかったら悲しいなと思うけど、そんなことはまずないなと自己暗示しよう。
僕は妙に敏感な部分とやけに鈍感な部分がある。この意味で私は仕事が苦ではないというだけかもしれない。
職場に価値観が合わない人もいるし、価値観が合う人もいる。そんなもんだろうと思う。合わない人は合わないので関わらないようにしようとしている。身に降る火の粉を払いのける感覚。
仕事の良い部分は、何よりも時間が潰せる。別に人付き合いも苦手ではないし、適当にこなしていれば良い。糞ゲーではあるもののお金がもらえるし、お金という名の経験値のある糞ゲー。
でも、本当にそれでいいのか。
比較して、整理していこう。
(1)高島平にあったうどん屋さん。
昔、高島平に住んでいた頃、老夫婦が営む小さなうどん屋さん(正確には蕎麦屋)があった。転勤の初日食べに行ってからすごく好きになった。美味しいとかではなくその雰囲気に虜になった。今では見慣れない魚肉ソーセージ天が乗ったうどんは、すごく普通ですごく素朴で、すごく落ち着いた味がした。
時折その老夫婦が喧嘩を始めることもあり、そのなんとなくの日常が、すごく良かった。毎週土曜日の昼はそこでソーセージ天の乗ったうどんを食べるのが日常になった。喧嘩をしている老夫婦がすごく魅力的に思えた。
ある日、高島平から引越しが決まった。その少し前に、小さなうどん屋は屋号を変えていた。
新しくなったその店は少し綺麗になっていた。汚かったコップも、汚かった机も小綺麗に変わっていた。誰も吸っていなかったタバコの灰皿も片付けられていた。子綺麗さと同時に、いつも厨房にいた老夫婦から、若いマイルドヤンキーの男性と東南アジア系の女性に代わっていた。
多分味は少し美味しくなったと思うけど、きっと僕以外頼んでいないであろうソーセージ天はレパートリーから消えていた。
深い意味はなく、程なく日常のルーティンからそのお店に行くのはやめた。しばらくして、そのお店は潰れてしまったらしい。
ここから学ぶことは、美味しいとか美味しくないとかではない仕事があるということ。目に見えない味を僕は求めていたということ。
(2)津田沼にあったラーメン屋さん。
これは、さらに遡ること、浪人時代の話。
当時予備校銀座と呼ばれる津田沼には代ゼミ、河合、駿台、東進と予備校が乱立していた。もう15年近く前の話。代ゼミに通っていた僕は今では考えられないくらい真面目に勉強をしていた。
その頃月一で通った小さなラーメン屋はラーメン一杯が390円とすごく安く金のない浪人生の数少ない楽しみだった。そこで安いラーメンを美味しそうに頬張る僕に店長さんは、
『美味しい?よかったらおにぎりあげるよ。』
と僕に渡してくれた。そんな優しさが浪人生には染みた。E判定の模試の結果なんてこの優しさの前には無意味だった。
ここから学ぶことは、小さなおにぎりが大きな力を与えてくれたということ。無性の愛が支えになったということ。
(3)20代でワインバーを開店した女性
今住んでいるところの話。30代中盤の話。
都内にある小さなワインバー。綺麗な女性が1人で独立して開業したワインバー。僕より10個よりは少ないくらいの年下の女性が営む。どうやら、大学も同じらしい。周りの客は、その女性に小さくない承認欲求を満たすために、ハイソサエティな話をしていた。、
『僕は乗馬をやっていて〜』『私の企業はぁ〜』と。店員さんは綺麗に受け身を取っていた。
ここで学ぶことは、20代でしっかり開業してしっかり営業をしているということ。
おわりに
金融業とはなんだろうか。東京駅周辺のともすれば綺麗な区画で、僕は誰かを幸せにできているのだろうか。
ソーセージ天とおにぎりと赤ワインと金融、みんな違ってみんな良い。私と小鳥とすずと。直接お客様が見え辛い金融で、妙に鈍感で変に敏感な感性を携えて、明日もなんとなく頑張ろうと思う。
頑張るという価値観が消えつつある世界で、誰かのソーセージ天やおにぎりや赤ワインになれたらいいなと思った話。
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