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クーラーの効いた部屋で

行き場のない言葉たちはつもりにつもり、
とうとうバランスを崩してしまいそうである。

オレンジを剥いた包丁を水で軽く濯ぐと、
慣れた手つきでスクランブルエッグを作った。

欲に塗れたここの空気はなんだか甘ったるいflavorがするみたいで居心地が悪い。
粘着質にまとわりつく空気を、険しい顔で払い除けながら、僕は小さく欠伸をした。

涙で滲んだ視界の片隅に、
煌びやかな君の姿が思い起こされる。
もはや数字でしか無くなってしまった君の存在を、僕はどうしても忘れることができない。

夏のアイスは美味しい。
冬のアイスも美味しい。
故に、いつでもアイスは美味しい。

僕の頭の中はいつもこんな調子だ。

何かが始まる。
いや正確にいうと、音が聞こえてくる。
なんの音だろう。何かが始まる音だ。
これまで聞いたことのない、
言い表すのが難しい音だ。
あえて表すとしたら、「gkhoooo」という音だ。
力強さはまだない。
「gkhoooo」という音がクレッシェンドを纏って、規則正しく聞こえてくる。

このドレスもう要らないね。
君のその言葉には、たくさんの色が汚く混ざった。

綺麗だった。すごく綺麗だった。
綺麗という言葉ではもったいないほど。
壊したくなるほど綺麗で、
それでいて不快だった。

僕はクーラーの効いた部屋でアイスを食べている。
夏のアイスは美味しいね。

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