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推理と検証の連続〜伊藤若冲の作品復元に向けて〜

異才とも言われ、その色遣いもひときわ目を惹く伊藤若冲の作品。
十二万の升目描きで、昭和8年、図録に写真が掲載されて以来、行方不明になった幻の作品。「釈迦十六羅漢図屏風」

その幻の作品を復元する様子が先日、日曜美術館で取り上げられていた。
手がかりは、小さなモノクロの写真一枚。
若冲研究家、デジタルとアナログの専門家がタッグを組んで、その復元作業に取り組むことになった。

○見えない線から、元の姿を探る
本体を揺らすことによって音を出す錫杖(しゃくじょう)は、杖のような長いものが一般的である。あるメンバーは羅漢が持っているものは錫杖ではないかと思ったが、よく見ると丸みがある。そのため、その法具が何かがわからず、解決の糸口が見出せなかった。だが調べていくうちに、丸錫杖(まるしゃくじょう)なるものがあるとわかり、自分の直感に間違いはなかったと確信したそうだ。

○ 若冲の他の作品から手がかりを得る
特に、同時期に制作されたものや、同じ主題を扱ったものをよく調べることで、失われた線や事物の色を探っていた。私はその様子を見てこれらの作業はとても困難な道を一つ一つ確かめながら、歩みを進めることに似ていると思った。
まるで、名探偵の推理のようだ。

○デジタルの強みを活かす
デジタルのリタッチを使うと、彩色に時間がかからず、また修正も容易になる。
ただデジタルで描くと、実際書いたものとは雰囲気が異なる。番組の中では、紙に染み込んだ絵の具のニュアンス〜「和じみ」〜を取り入れ、デジタルの平板になりがちな風合いに肉筆らしさを取り込もうとしていた。またの絵の具の材料解析もデジタルの強みだとわかった。

○デジタルとアナログのよさを複合する
モノクロ写真の明度から、元の色を探る試みも同時になされていた。
東京芸術大学の日本画修復のチームが、実際に描いたものをデジタル化して
色を比較検討することも行われていた。私は、お互いの強みを活かす手法に
感心した。

○番組を視聴して思ったこと
『はっきりと写っていない小さなモノクロ写真から、縦183センチ、幅601センチメートルの屏風を復元すること』

誰が聞いても実現不可能と思われ、プロジェクトに2年間の長きにわたって専門家集団が時間を費やしたことに驚いた。またそれぞれのエキスパートが力を結集したときの凄さに圧倒された。

プロジェクトチームも、【復元】に完璧はありえないと考えている。
若冲研究の辻惟雄(のぶお)さんは、この作品が世に出ることによって、いろいろな議論が活性化するのを期待していると述べた。まさしく皆がこの作品の存在を知ることになったことが、大きな功績の一つであろう。

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7月21日 日曜日 午後8時から NHK教育テレビで再放送があります。
興味のある方はご覧ください。

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