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小説 (新作)ショートショート セロリ

彼が産まれる前、私は産院で妻に言った。
「たぶん信じられないくらい
可愛いのが産まれる頑張れ。」

子供は皆かわいいわよ。妻は笑う。
私は首を横に振る。

「親父がまだ勤め人だった頃の話しだ。」
「毎年慰安でみかん狩りがあるんだが、
小学生になったばかりの俺を連れて行った。」

エヴァの碇ゲンドウのようにパイプ椅子に
腰掛け出産間近の妻に話す。
「わぁ~可愛い。天使みたいな子連れてきた。」
「会社の女子社員が大騒ぎになった。」


「誰も信じないが、」
私は立ち上がって石原裕次郎みたいに
ブラインド越しに、窓の外を見た。

「子供の頃は歩いてると、」
「若いお姉さんがめちゃくちゃ寄ってきた。」

また、ゲンドウばりにパイプ椅子に腰掛けた。
「子役にスカウトされたこともある。」
妻はツバを飲んだ。
「アルバムの写真で知ってたけど、」


「あんたにその後何が起こったんや。」
「それは解らん。ただこれだけは言える。」

「あんた関係者は誰も信じないが、」
「予想では信じられんぐらいの。」
「可愛いのが来る。」


「ちなみに4年後、みかん狩りに、」
「弟を連れて行ったら、なんの騒ぎにもならなかった。と夕食で語った親父はその夜お袋にビールを全部隠された。」

「あのお父様がビールを抜かれたの。」

「ああ、大喧嘩になった。
3日間、口を聞いて貰えなかった。」

「みかん狩りの乱と我が家史では呼ばれている。」
「禁止ワードだ。」
「母の愛は等しく注がれる。」

「君も憶えておいた方が良い。」
碇ゲンドウは静かに話しを終えた。


昨日帰宅すると娘がコップを持ってウロウロしている。私を見てコイツでもいいかなって感じで寄ってきた。
「おいパパ、兄ちゃんがまた女子連れてきとる。」
「覗けはしないが、聴こうと思う。」
コップを見せてきた。

わぁーベタ。心がさわいだ。
「隊長、それは私も参加できるでありますか?。」
「うむ、許可する。急げ、コレがいる。」

娘の部屋のベットに登り、ふたりで壁にコップを押し当て耳をつける。何も聴こえない。
「微かに音楽の音がするな!。」
さすが劣化してない耳は違う。

「隊長不味いでありますか?。」
「うーん、解らん。」
「ワタクシ嫌でございます。夫婦揃って土下座して(誠意って何かね。)とか聴かされるのは嫌でございます。お願いします。隊長!。」

「意味が分からんが言っとけばいいだろ!。父親なんだから!。」

「隊長、ワタクシ最近はムシられてます!。」
「それに残念ながら専門外でございます!。」

「使えねぇな!。」
「仕方ない。家族の為に突入する。」
「ありがとうございます、隊長。お願いします!。」

娘が部屋を出ていった。
私は引き続きコップと耳を壁に押し当てる。
「ああ、しまった~。部屋を間違えた~。」

白々しい隊長の叫び声が、
コップ越しではなく、
直接聞こえて来た。

なんか揉めはじめた。
素早く移動し、娘の部屋のドアにコップをつけた。「うるせえな!。もうすぐ帰るって!。」
「なあ、帰るよな?!構うなよ!。何なんだよ、お前は!。」
隊長……。


隊長が帰って来た。
「もうすぐ帰るってさ。危なくはなかったよ。服着てた。」隊長ご苦労様であります。
「ところでさ、大丈夫そうだし、解決したから。」

「出てって。」


「ついでにこれ持ってて返しといてコップ。」
隊長は厳しかった。

こうして日々我が家の安泰は、私の知らない所で彼女達の活躍によって護られている。




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セロリお知らせ頂きました。
スキ頂きました皆様に、
御礼申し上げます!。
ありがとうございます。m(_ _)m

「おめでとう。」
「おめでとう。」
「おめでとう。」
「オメデトウ。」



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