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小説 ひよこ第12話~初恋暴走編5~潜入

「師匠も結婚したので僕も結婚しようと思います。」電器店裏のただの倉庫、師匠工房に来ている。師匠お手製の小さなキッチンもある。

「残念ながら法律で無理だな。」

修理した引き取り冷蔵庫から、コーラを取り出しながらニヤケ顔の師匠が鼻で笑う。
ちょっと自慢気で軽くムカつく。最近師匠は、デレてたるんでいる。ラジコン大会の成績も奮わないと聴いていた。
師に出されたコーラを飲んで平常心を取り戻し、相談に来たことを思い出した。

「結婚の約束をしてしまいました。では今後どうすれば良いですか?。」

「………。すまん、状況がまだ把握出来てない。
話を戻す、整理しよう。」

「………。誰と?!!!。」

あれからカオルコお姉さんと時々廊下の自販機前のソファーで二人で話した。
お姉さんの好きな男は【サトウとしお】と言う名前で企画部測量科という部署に居る奴だと解った。

(おのれ薫子お姉さんを泣かせやがって、許せん。【シュガー&ソルト】の分際で!。)

その頃は毎週水曜日に英語塾に通っていた。
その帰り道、師匠の工房に来た。

師匠の奥さんが来て、ハンバーガーとポテトを僕と師匠に配り自分もパイプ椅子に座った。奥さんの手作りで美味しい。コールスローサラダも付く。何度かご馳走になっていた。毎週水曜日の夜は師匠の電器店工房で夜ご飯をご馳走になる。
望んだのは僕でなく師匠だった。頼まれた、師匠の若奥さんが寂しく無いように。子供の練習にもなると言う。失礼だと思う、僕は小6でもう大人の初歩だ。子供は弟だ。

「それでどうなったの?。」
若奥さんが聞いた。この電気店には奥さんが3人いるので呼名が難しい(僕的に)。
ハンバーガーをモグモグしながら続けた。
「カオルコお姉さんは会社の受付になって、シュガー&ソルトがもう会社では話しかけるなと言ったんです。」
「なんで?。」
「受付は会社の華だからな。引いたのか?……コイツの話だけでは状況が正確には解らんが……」
全員モグモグしている。
師匠がポテトを軽くふって答えた。
若奥さんが居るといつもカッコつけとる。

「なんにしても、女性を悲しませては駄目です。お母さんが前に女性を大事にしないと一生後悔する。って言っていました。」
「あら、カッコいい。私も結婚相手を間違えたかしら。」「おい、おい。俺は大事にしてるぞ!。」

新婚さんは時々二人の世界で会話を始める。僕はコーラを口に運んだ、甘たるかった。

「どっちにしろ。もう少し情報を集めて、アドバイスしないと危なっかしいな。若い女性はどんな行動に出るか解らん。まあ、ウチも人の事は言えんが……。」

「あと言っとくが結婚は無理だぞ。いくら何でも早過ぎだ。またお母さん悩んで大変だぞ!あきらめろ!。」

夜もふけてその週の水曜食事会は終わった。

翌日病院に行くと薫子お姉さんは来なかった。
代わりに薫子お姉さんのお母さんが来て、風邪で寝込んでいると教えてくれた。
僕は風邪ではないと思った。もう猶予は長くないかもしれない。僕は決めた。

次の日金曜日、僕は学校から帰るといつものように町に向かった。病院の前を通り過ぎ、薫子お姉さんの会社に向かった。

薫子お姉さんの会社は建設業で看板に大きく鹿と書いてあった。(うちは狐だぞ、舐めんな。)家業の大工組は母のデザインのワッペンを作業着につける。それは母の想い出の北海道の北キツネの絵柄だった。

受付を外から覗くと薫子お姉さんがいた。
僕は裏の入り口を探してビルに入り込んだ。前にも話したけれど昭和は警備がゆるゆるだ。
廊下の案内板で企画部を探す。3階の手前だった。
早足でうつむきながら廊下を移動し、3階の企画部と表示のあるドアの前に立った。

(白黒付けてやる!。)
少年の日の初恋は斜めに暴走をしはじめていた。




(第2稿(後書き追加)。急転の6へ続く。)
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この年になって初恋の話は小っ恥ずかしいので、
この章は足早に投稿お送りしております。
昭和は案外色んなことが適当で、
戦争時代の記憶も多くの人にまだあり、
まだまだ未成熟な男中心な考え方の社会でもありました。また高度成長期でもあった日本社会は日々成長や挫折を繰り返しつつ、新たな社会の仕組みを模索していました。
死はまだ美しいモノとの考え方も残っており、突然命を断って大騒ぎになる有名人などもおられました。なぜ生きるのかは人の永遠のテーマですが、これを口にする事は、ある種の危険のサインでもありました。

僕の決断はこんな勘と時代背景、世の中の雰囲気を子供心に感じていたのだと言い訳を屁理屈で記しておきます。

駄文でございますがご興味ございましたら、スキなどご検討頂ければ幸いです。m(_ _)m

宜しくお願いいたします。





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