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守護の目覚め④ 守護の熱 第二十二話

 清乃との約束の水曜日になった。試験後は、殆ど、夏休み扱いということで、人によっては、受験の為の講習に行ったり、例えば、坂城は、車の免許の合宿に行ったり、それぞれなんだろう。学校もないから、そういう意味での、人目を気にすることはない。家から、坂下までを、気を付ければいいんだ。

 夏の景色の撮影の為にということで、望遠鏡と、カメラを準備した。食事は暑いから、持ち歩いて腐らせるわけにもいかないので、近くの店で、パンなどを買って食べるからと、明海さんに伝えた。昼少し前に、家を出る。足早に歩く。坂下の分岐で周囲を見回す。誰もいない。よし、坂を上り、また、右に折れる。また、アパートの敷地前で見回して、急いでいく。カチャッとドアの開く音がした。台所の窓から、俺の姿を、清乃が捉えたんだろう。ベルを鳴らす必要がなかった。ドアが閉まると、清乃が、嬉しそうな顔をした。

「おかえりー」
「あ、ああ、うん・・・ただいま、お邪魔します」

 そうだ。今日も、金を下してきた。先日よりも、少ないが、ここにある。これでいい。

「どうぞ」
「いただきます。・・・ん、美味い。・・・なんか、すごいな、これ、午前中、作ってたの?」
「うん、久しぶりにね、頑張ったわ。まあ、お母さんのご飯には敵わないでしょうけどね」
「そうなんだ、ありがとう、でも、こんなに食えないよ」
「いいの、余ったら、即冷凍するし、暫く、私が食べるから、心配しないでね・・・雅弥は、好き嫌いないの?」
「ないよ。こないだやってくれた、トウモロコシご飯は珍しくて、美味かった」
「そうなのね。ふふふ」

 まあ、あの後、同じコロッケを食べる嵌めになった、とは言えないな。

「今日はね、出来合いじゃないのよ。うふふ。唐揚げとマカロニサラダ、私の好きで、セロリの浅漬けね。それから、筑前煮。ごめんね。鶏肉安かったから、鶏料理なんだ。茗荷と那須の炒り浸し。そんな感じかな。・・・雅弥は、お行儀がいいよね。こないだね、そう思ったの。旧家のお坊ちゃんだから、躾が厳しいのかな、とか」
「そうかな?別に普通だよ」
「ううん、食べ方で、それ、解るよ。大人でも、魚の食べ方が汚かったりね。見兼ねて、焼き魚、身をほぐしてあげたりね・・・」

 清乃の目が、俺の向こう側を見ているのに気づいた。・・・そうなんだ。その魚が上手く食べられないとか、あのヤクザの男のことだ。それに、この濃い目の味付け、きっと、あいつの好みで・・・。

「何、考えてる?」
「いや、・・・これ、多分、あの人が好きだったやつだよね?」
「そう、当たり。もう、雅弥ってば、本当に、勘がいいのよねえ」
「西の方の訛りがあったから、どちらかっていうと、薄味じゃないの、向こうの人って」
「ああ、彼は、中部辺りね。東都と西都の間の地方よ」
「ああ、そうか。味噌とか、濃い目の地域だ」
「そうそう。そういう感じなの、色々、作ってたよ。冬は、一人前の土鍋で、鍋やきうどんやったりね」
「喜んだんじゃないかな」
「そうよ、顔くちゃくちゃにして、耳まで、真っ赤になりながら食べるのよ、うふふ」

 懐かしそうにしてる。なんというか、この話題って、良かったのかな?

「私も食べようっと、今日は休みだから、ゆっくりだもんねえ」

 お袋の料理を、明海さんは、だいぶ継承していて、兄貴は勿論だが、親爺も、相当認めている。家の味というわけではないが、なんか、近い気がする。清乃のも美味いから、いい勝負だ。

「ねえ、また、作るから、何がいい?」
「ああ、だから、嫌いがないから、何でもいい。あんまり、頑張らないでいいから」
「んふふ、優しいねえ。あいつは、機嫌悪いとお膳ひっくり返すのよ、片づけが大変よ」
「激しいんだ」
「そうねえ、そんな所が気に入ってたのもあるのかなぁ・・・変でしょ?うふふ」

 箸を、綺麗な指先で操ってる。小皿に、おかずを少しずつ、持って食べている。そういう清乃の所作は、なんていうか、女性らしい感じだ。・・・例えば、あの箕沢の女子たちは、こんな感じしない。それに、明海さんとも違うんだ。泰彦が食卓にいると、お母さんになってしまうからな。

「雅弥のことも好きだからね。これから、もっと、好くなるねえ、きっと」「え?」
「んふふふ」
「え?・・・それって」
「愉しみにしてるねえ」

 なんだよ。それって。
 嬉しそうに、煮物の小さな里芋を口に頬張った。瞬間、可愛いと思った。

 同じことを、例えば、荒木田実紅がしても、俺は何も感じないが、きっと、他の奴等は見とれるのかもしれない。・・・そういうことかもしれない。

 一人でいる時は、なんで、いいのか、解らないが、こうやって、目の前にいると、感覚的に納得してしまう。

 ・・・俺は、結局は、やられてる。・・・つまりは、清乃が好きなんだ。

「食べたら、シャワー浴びる?狭くて良ければ、一緒でもいいよ」
「あ、いや、いいよ。汗臭いの、不味いだろうから、そうするけど・・・」
「そんな臭くないよ。どっちでもいいよ」

 また、味が解らなくなりそうだ。
 そうだ。あれ、渡さないと。後じゃなくて、先。何があっても、なくても、渡すんだ。事後だと、ますます、そんな感じがするから。

「清乃、まだ、仕事って、目途が立たないの?」
「うん、まあ、仕方ないかな。色々とあって、結局、あの人のこともあってね、増えちゃったって感じかな・・・」
「どうして?」
「いいの、気にしないで。あ、ご飯、お代わりする?」

 茶碗の代わりに、封筒を差し出す。

「これ、こないだ程ないけど」
「・・・雅弥」
「増えたなら、必要な筈だよ」
「あのね、あの人がいなくなったら、規定外の収入での返済が無理になったの・・・と言っても、前もそれ、できなかったけどね」
「・・・どういうこと?」
「まあ、色々とあってね。手元にあると、多分、取り上げられちゃうかな。生活費以上にね、持ってると」
「そんな、それは、返済にならないの?」
「まあ、色々とルールがあってね」
「でも、口座を別にして、積んでおいたら、ダメかな?」
「情報網がね、狭い所でしょ?銀行関係は、薹部も、東都も無理なの」
「そうなんだ。隠して、タンス貯金でも、ダメかな?」
「・・・これはさ、もう、こないだも言ったけど、雅弥が、自分の為に使わないとダメなお金だよ。・・・まあ、残りが一括に返せるならば、話は別みたいだけどね」
「・・・」
「気持ちは嬉しいわ。ありがとう。実はね、こないだの50万もタンスの中なの。手つけてないのよ・・・気にしないで。私は、たまに、雅弥が、こうやって、来てくれれば、充分なのよ」

 俺に親父程の力があれば・・・と、この時、思った。

「でも、じゃあ、タンス貯金でもいいから、受け取って。・・・時間がかかるかもしれないけど、その一括の分の一部として」

 俺は、清乃の手に、また、封筒を握らせる。

「じゃないと、来た意味がないから」
「そう?・・・じゃあ、仕方ないかな。この金額分のサービスしないと」
「・・・また、そんなこと、言わないで。金とは関係ないから」
「男前ね」
「・・・すごい、美味しかった。ご馳走様。シャワー、行ってくる」

                             ~つづく~


みとぎやの小説・連載中 「守護の目覚め④」 守護の熱 第二十二話
お読み頂きまして、ありがとうございます。
実は、このお話、次回で、第一章が、完結します。
第二章は、新年以降に投稿予定となります。

ちょこっと、どっかで話したことなのですが。
この話、実は漫画の絵コンテ、描きかけていました。
この後の展開も、絵コンテがありますが、小説と漫画だと、見せ方が違っていて、我ながら、面白いなと思っています。
漫画からの起こしが、小説になっている所もあります。
より、イメージを描きやすい方から始めるので、
多分、今回のスタートは、漫画だったのかなと思います。
今後、メンバーシップなどで、その辺りの比較などを
ご紹介できたらと考えています。

長いお話です。纏め読みは、こちらのマガジンからがお勧めです。

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