言葉を閉ざす時 君だけにみえる景色の 淡い影 昨日の思い過ごしと やり過ごそうとしている明日の 虚ぐ波間に浮かんでいる 月の朧に 色鮮やかな夢のいろ そんなことないんだよ 粒らな君の願いごと そんなことないんだよ 微かな記憶で 僕ら生きてる 確かなものなど必要ない 揺蕩う月のひとりごと 明日になれば ビル風に乗って こんな夜は砕け散る こんな夜は砕け散る
たとえば365日、 毎朝5時に散歩するとしたら、 夏は素晴らしく輝かしいだろう。 冬は恐ろしく、しん…としながら、真空の中をひた歩くのだろう。 わたしに足があったならね。 そして、毎日同じ時間に出かけるという習慣があるんなら。 365日。 それは一瞬の中にそれだけの朝を詰め込むということ。 春と秋は割愛する。
ただ、見えなくなっただけ。 光のカタマリが 粒になって 砕け散って どこか知らない場所や 思い出の中に あまりにも小さくなって 分からないほどに この目には 見えなくなっただけ。
銀色の椰子を越え 淡い波間に辿り着く 私という境界線 夏のコトワリ雲 見えそうで 見えない あなたの瞬き 泡音の彼方 明けていく深層に 虹は写され 溶けゆく脈の 受け継がれぬ靄たちも 空を乞う 白波を超える粒たちは 時の満ち欠けを遮って 波乗り人の脇をすべり 朝と夕を駆け周る さざなみの隙間と、夏のコトワリ 陽炎の煌めきを標に 僅かな扉の、時空を圧して わたしを成す現象も あなたを象る記憶も 消えては生まれ、また消える 砂を飲む貝殻の唄
君という一縷 僕という偽り 五月雨が流してしまう 僕というゲンジツ 君っていうマボロシ 紫陽花が誘う、微睡みの中で 肌寒い朝に 夜すがらの想いを吸い込んだ毛布が 低く垂れ込むような空に 珈琲の燻りの中で 瞬く間に消えていく夢が 冷めた湯気のように 霞んでいく 明かしたいんだよ 昨日はあまり眠れなかったって まだ揺れるしだれ枝に 芽吹き疼く 仄暗い種たちに
未来を閉じ込めて その瓶に閉じ込めて 世界に蓋をして その箱に名前をつけて 扉の鍵を置いて その靴も捨てて 夢の便りを道しるべに 儚い文字の宿る先に あなたの思いは 天空から降る、雨のよう あなたの願いは 光に溶けた、風のよう 幾千万もの、あなた 何万光年もの、私たち 何も見なくていい 何も知らなくていい 世界に蓋をして その箱の名前を消して わたしを重ねて その掌に閉じ込めて 夢に溶かして 幾千万年もの
春待つ君の微かな調べに 夢の薫り 白花の月が揺らぎを超えて 波打つ鼓動に 彩を射つ ぼくは知らなかった 君が息づいていた事 君は知らなかった 何度でも蘇るという事 柔らかな靴跡と斜影の狭間で 息を忘れて ざわめいて 空を捲り 星を選んで ぼくという 揺らぎを超えて ぼくは知らなかった 世界が僕を変えるかのように 描いている手を まるで世界が僕を試すように 足掻く熱を 見上げる君を踏み分けて その呼吸に殴られる僕の 実しやかな微動に 白月の鏡は、息を飲む
君の本質に触れることなど 僕にはできない 幾重にも彩られた その表情に 吹き戻されて 僕の心もまた 幾重にも轟いて 抜け道の轍へ促される 君が通り過ぎたのは 昨日の坂道かもしれず、 あるいは、 誰もいない曲がり角かもしれず。 まだこんなに寒いのに 月夜に溶ける 月夜に消える 街灯の中、信号の向こう 光の粒が吸い込まれていく 月夜に溶ける 闇夜に消える 何もない道 それぞれの街 やわらかな灯りを しまう箱たち ささやかな光を 纏う僕たち ずっと知らないままでい
恐れもせずに ひたむきに 軽やかな輪を いくつも引いて しなやかに伸ばした指先へと、 近づいていく 世界は呼吸を繰り返す 私たちの純真を取り分けることなく 大地を叩く この音を鼓動に 恐れを知らぬ この輪舞を糧に 我を忘れて ひたむきに つま先で街を描いて 手のひらで風を起して 心は高く、高く 天を突く 奪う者は 愛を隠し 黄金の槌を振り翳した 嘆く者は 泡沫に住み 深淵に祈りを浸した 群衆は回旋り歩き 紐打つ音へ 近づいていく 金の針が夢を解いて 無人の帳
今ここに君がいなくても 今そばに手を繋げなくても 眠りの都会ですれ違う 君は誰かの瞳に映り 僕の瞳も誰かを映す 今ここに 蹲っても 月夜が朝に、砕け散っても ひしめく世界で隣り合う 憎しみは誰かの代わり 悲しみは誰かの憂い この軀を君に その空は僕に 温もりは眠りの調べ 微睡は暁月の果て 源は、 僕たちの源は。
a. わたしを不幸たらしめる其れについて わたしは其れを壊さなくてはならない 幸福になると約束した ヒトタビソレニ触れたなら 抜け殻になってしまう ヤムニヤマレズ味わったなら 何者にでもなれてしまう 其れをわたしは壊さなくてはならない わたしは幸せにならなければならない 抜け殻を夢で削り 真っ白い雪で埋め 赤々しく染まっては やがて肌らしく色づいて 春には土へ溶けるのに いつも 心至らない わたしは幸せになる必要がある わたしは其れを壊す必要がある 雪が、わたしを覆
俄かに輝いて 静かに揺らめく わたしの呼吸 温かさは、冷めるたび膨らんで 浮遊しては、大地に寄せる いつもの朝が変わるまで 瞳が解かれる日 ヒカリの中で あなたは膨らむ 無数の呼吸の果てに 囁きを耳にする 枕辺に温もりを置いて 誰も知らない 朝へ還る わたしは呼吸している 静かに輝いて 俄かに揺らめいている あなたの中で 揺らめいている
春に微熱/クボタカイ それは不意に訪れた。 何十年も待ち望んでいたかのように。 夢の中にある高揚、 喝采にも似た振動。 楽園を描いた泉に 飛び込む無重力。 景色は燦々として美しいのに、 また何か別の、 消えない光がどこまでも、 見えぬ世界の果てまで包んでいる。 何千年も待ち望んでいたかのように。 それは確かに、 躰の中枢から波紋のように広がり、 第4の表皮となり、 古えの心に灯り、 あなたを見えなくした。 イチョウ並木の陽だまり その黄金色に気づかぬ君の 少し後ろに
雨が降る 雪が降る 風が吹いて 君は飛ぶ 君が飛んだら 世界はまるく 夢より遠い御伽噺 雨は流れ 雪が募る 自分ではない者の足音 自分ではない誰かの足跡 あなたはひとり わたしもひとり 陽は昇り 月が沈み 朝と夜の狭間で 君は叫ぶ 窓を開けたら 光と闇の半分個 雲が色着きながら溶けていく 街の灯りに負けながら 溶けていく 御伽噺
真実だとしても 私の崇める道はない 本物だとしても 私が信じる罪がある 真綿の中に 林檎を埋めた いつか誰かを満たすために 真っ赤な雨が降る時には どうか、笑って
私たちは圧縮されていく 万力にかけられて 圧迫されて凝縮されて 水分と繊維に分けられて搾り出されていく 分子と分子は別れを惜しまない 甘美な果汁は かつての表皮を蔑んで 残り滓は ブラックホールへ吸い込まれ 私たちというデータは まるで別々の種のように それぞれの星になっていく 真っ赤な果実の私たちは 星と星を結んで 追憶のシナリオを描く 世界が平和でありますように 私が私でありますように 真っ赤な果実の私たちは 木漏れ陽と灼熱を求めて 夜空に物語を綴り続ける