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会話分析の威力:患者が拒否権を行使できる条件とは?

▼ 文献情報 と 抄録和訳

患者はいつ治療を拒否する権利を行使するのか?英国神経科外来診察における意思決定の軌跡に関する会話分析的研究

Toerien, Merran. "When do patients exercise their right to refuse treatment? A conversation analytic study of decision-making trajectories in UK neurology outpatient consultations." Social Science & Medicine 290 (2021): 114278.

[ハイパーリンク] DOI, PubMed, Google Scholar

✅ ハイライト
- 治療拒否権の行使は困難である。
- 意外なことに、治療拒否の試みはほとんど成功している。
- 拒否は、臨床医が患者の意見を明示的に求めた場合に多く見られた。
- 臨床医は、患者の意見を求めた場合、通常、患者を説得しようとはしなかった。
- 臨床医は、患者の選択とケア義務のバランスをとっているように見える。

[この論文の内容] 本稿では、2012年に英国の国民保健サービスで記録された神経内科の外来診察(n=224)において、患者がどのような場合に治療拒否権を行使するかを会話分析により検討した。NHSの患者には治療を拒否する権利がある。しかし、この権利を実際に行使するのは難しいかもしれないと考えるには十分な理由がある。また、意思決定の軌跡を結果まで追跡した研究によれば、臨床家は通常、抵抗から受容に転換することがわかっている。これに対して、私は、神経科医が提供した治療を患者が拒否しようとした35/40(87.5%)のケースで、処方箋も紹介状もなく、患者が去っていることを明らかにしている。この論文では、この明らかに異常な発見を説明しようとするものである。まず、私が予想した例、すなわち神経科医が患者を説得して治療を受けさせることで終わる「決闘」が、実際には例外であることを紹介する。対照的に、(試みられた)拒否のほとんどは、神経科医が意思決定の根拠として患者の見解を意図的に前景化するような方法で意思決定を開始した後に起こる、協力的なものである。また、そうすることで、神経科医は通常、意思決定を患者の嗜好に従うものとして扱い続けることも示している。したがって、私のコレクションにある軌跡は、治療を拒否しようとする試みを含むにもかかわらず、典型的な決闘にはなっていないのです。むしろ、患者は、自分自身の決断を容易にするような連続した文脈の中で治療を拒否しているのである。

▼ So What?:何が面白いと感じたか?

意思決定の共有(Shered decision making: SDM)の重要性が叫ばれている、続々と研究報告されている。

✅ 意思決定の共有(Shared decision making: SDM)
- 意思決定の共有は、医療者と患者の間の協力的なアプローチであり、利用可能な最善のエビデンスと、健康問題を管理するための患者の価値観や好みを統合するもの。
- 共有された意思決定は、患者中心のケアを強化し、患者の満足度、関与、アドヒアランス、および自己管理能力を向上させる可能性がある。
● Moore, et al. Physical therapy 98.12 (2018): 1022-1036. >>> doi.

SDMを達成する上で大きな障壁がある。
それが、「力関係」である。
例えば、上司と部下の関係性ではどうしたって力関係が出現する。
その場合、部下は上司に言いにくくなることが出てくるというわけだ。
医療者と患者の関係性においても、力関係が生じやすい。
医療者が強くなりやすいのだ。
その理由は、患者側は医療サービスに関する知識を持っていないからだ。
選択肢がわからないということは、相手に委ねる「しか」なくなってしまう。
その力関係が生じると起こってくるのが、「忖度」である。
否定的なことを言いにくい、拒否しにくい、その他の選択肢を選びにくい

その状況下においても、患者側の内心の「拒否したい」という気持ちを表出してもらうためには、医療者側からのお膳立てが必要になってくる。
「この治療を拒否したいという気持ちがありますか?安心してください。仮に拒否した場合でも、今後の治療に影響することはありませんから。」
医療者は、患者にとっては強い存在になりがち、ということを覚えておきたい。

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