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転倒リスクを高める4種類の薬剤

Super Human | 理学療法士/保健学博士 Ph.D.

📖 文献情報 と 抄録和訳

入院中の不適切と思われる薬剤と転倒への影響

Damoiseaux-Volman, Birgit A., et al. "Potentially inappropriate medications and their effect on falls during hospital admission." Age and ageing 51.1 (2022): afab205.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:STOPP section Kとは?
- STOPP(screening tool of older persons' potentially inappropriate prescription)とは、潜在的に不適切な薬剤処方を検出するための基準としてオランダで策定されたツール
- イベントリスク別にセクションが分かれており、セクションKは、転倒リスクにつながる以下4種類の薬剤が指定されている
1. ベンゾジアゼピン系薬剤で転倒の既往または危険性があるもの
2. 神経遮断薬で転倒の既往や危険性があるもの
3. 起立性低血圧を伴う血管拡張薬
4. 転倒の既往や危険性のある催眠剤Z剤
📕 Damoiseaux-Volman, et al. European journal of clinical pharmacology 77.5 (2021): 777-785. >>> doi.
🔑 Key points
- 潜在的に不適切な薬剤(potentially inappropriate medications; PIMs)の有病率は、STOPPで56%、STOPPセクションKで27%、STOPPFallで85%であった。
- 入院患者の転倒は16,678人中446人(2.7%)で発生した。
- 転倒に対する最も強い効果(aOR:7.9)は、STOPPの転倒に関する指定セクションKによるPIMsに見いだされた

[背景・目的] 入院患者の転倒に及ぼす潜在的不適切薬物(PIMs)の影響を調査し、STOPPFallまたはSTOPP v2の転倒に関する指定セクションKで定義されたPIMsが、一般的なツールであるSTOPP v2と比較して入院患者の転倒と強い関連を持つかどうかを確認すること。

[方法] 学術病院に入院した患者(≧70歳)の電子カルテデータセット(2015~19年)を用いた、入院患者の転倒を特定するためのフリーテキストを含む後向き観察的マッチング研究。PIMはSTOPP v2、STOPP v2のセクションK、STOPPFallを使用して特定した。まず、PIMのある入院患者とPIMのない入院患者を交絡因子についてマッチングさせた。次に、マッチさせたデータセットに対して多項ロジスティック回帰分析およびCox比例ハザード分析を適用し、入院患者の転倒に対するPIMsの影響を明らかにした。

[結果] データセットには16,678人の入院患者が含まれており、平均年齢は77.2歳であった。入院中の転倒は446例(2.7%)であった。PIM曝露と転倒の関連についての調整済みオッズ比(OR)(95%信頼区間(CI))は、STOPPセクションKでは7.9(6.1-10.3)、STOPPでは2.2(2.0-2.5)、STOPPFallでは1.4(1.3-1.5)であった。初回転倒までの時間に対する効果の調整後ハザード比(HR)(95%CI)は、STOPPセクションKで2.8(2.3-3.5)、STOPPで1.5(1.3-1.6)、STOPPFallで1.3(1.2-1.5)であった。

[結論] 我々は、適用されたすべての(デ)処方ツールにおいて、PIMsが入院患者の転倒に独立して関連していることを確認した。最も強い効果は、転倒の高リスク薬に限定されたSTOPPセクションKで確認された。この結果は、入院中のPIM曝露を減少させることが転倒予防に役立つ可能性を示唆しているが、介入研究が必要である。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

人間を、大きくハードとソフトに分けて考えてみる。

ハード:駆動される構造や機能であり、筋肉であり、筋力やバランス機能である。
ソフト:それらの構造や機能を駆動する「操縦者」であり、覚醒であり、皮質機能に近いかもしれない。

そして、結果的に「転倒」が起こった時には、その原因がハードにあるのか、ソフトにあるのかを明らかにできることは大変重要だ。
たとえば、自動車事故が「ブレーキの破損(ハードに起因)」によるか「居眠り運転(ソフトに起因)」によるかによって、対応や予防策は全く変わってくる。

そして、今回の研究において転倒リスクを高めることが明らかとなったSTOPP セクションKを構成する4種類の薬剤は、人間におけるソフトに影響を与えうるものだ。
この部分に転倒の主因がある場合、いかにリハビリにおいて筋力を鍛えようと、バランス機能を鍛えようと、転倒は起こるであろう。
起こった転倒に対して、PIMsが原因であるところを、筋力やバランス機能が原因であると見誤れば、いつまでも転倒への介入が功を奏することはない。
セラピストとして、転倒の要因の大小を把握して、適切な介入ができることは、重要なことだ。
今回の研究や、薬剤が転倒に与える影響を知ることは、とりわけ、その部分の思考過程に役立つ。

さらに踏み込む。
今回のように転倒リスクを高める薬剤を使っていたとしたら・・・、という話だ。

「だったら、危険だから歩かせないわよ。自立などさせないわよ。転んだらどうするの?」

それで、いいのだろうか?
転倒リスクに限った話ではなく、すべからく要因リスクの発見は、「やらない理由」を強化しうる
そこで考えなくちゃならないのは、『転ばないこと、無誤学習が最善なのか?』、という根源的な問いに向き合うこと。
無誤を強要すると、生き生きとした活動は無くならないか?(※1)

📕 ※1. メディケアにおいてネバーイベントに院内転倒が指定された影響
- アメリカ版の医療保険「メディケア」では、近年、院内で発生した転倒に対しては医療保険が適応されない(ネバーイベントに院内転倒が指定された)という鬼のルールができた。
- このルールによって、患者が移動量を増やし、自らよくなっていくという機会が奪われつつある、「医療者が転倒を恐れ患者の活動を促すことに積極的ではないから」と主張している質的な研究。
● Pavon, et al. Journal of the American Geriatrics Society (2021). >>> doi.

失敗できない世界は、冷たく、厳しく、よそよそしい。その世界には、挑戦や成長といったリスクを孕む事象は存在しにくい。
僕は、そんな「無誤世界」を強化することよりも、誤っても壊れるまではいかない「環境づくり」や「誤った直後の受け身技術の共有」の方が魅力的な分野に思える。
入り口を強化することより、結果の補償について、真剣に考えてゆきたい。
失敗させない、できない、許さない世界より、失敗しながら成長できる世の中の方が、自然だし、温かいし、人間的だと思う。
だって、子どもはすべからく失敗しながら成長するじゃないか。
「失敗は絶対に許さない」という親からより、
『失敗してもいいんだよ、そこから成長できるからね。』という親のもとに、成長は芽生える。

もっと苦しめ、
泥水に顔をツッコんで、
もがいて、
苦しんで、
本当にどうしようもなくなったときに手を挙げろ
その手を俺が必ず引っ張ってやるから

蜷川幸雄

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