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大臀筋強化の『3種の神器』。1週間でスクワット時の動員57%up↑

📖 文献情報 と 抄録和訳

アクティベーション・トレーニングによる体重負荷強化運動中の大殿筋のリクルーション促進

Cannon, Jordan, Beverly A. Weithman, and Christopher M. Powers. "Activation training facilitates gluteus maximus recruitment during weight-bearing strengthening exercises." Journal of Electromyography and Kinesiology (2022): 102643.

🔗 DOI, PubMed, Google Scholar

✅ 前提知識:大臀筋強化の3種の神器 (🌍 >>> site.)
1. Clamshell:腰を振らずに、上側の膝をできるだけ高く上げ、大臀筋を「前方」に絞りながら上げる。そのまま上まで上げたら、下へ下ろす。
2. Side-Lying Hip Abduction:言わずと知れた側臥位での股関節外転エクササイズ。
3. Fire-Hydrant:膝を90度に曲げたまま、片足を横に上げる。腕をまっすぐ伸ばしたまま、高く上げるためだけに体を傾けたり補正したりせず、できる限り高く上げる。足が膝より高くならないように、膝が足より高くならないように工夫する。臀部に力を入れながら上げる。足から上げるよりも、膝を上げることに集中した方が良い。

スライド2

[背景・目的] 大殿筋(GMAX)の強化は、股関節の三面的な作用を考慮し、様々な筋骨格系疾患に対するリハビリテーションや傷害予防のプロトコルの一部として提唱されてきた。しかし、股関節は関節運動に対して筋力が冗長であるため、体重を負荷とする運動でGMAXを動員することは困難な場合がある。本研究では、1週間のアクティベーションプログラムにより、機能的強化運動中のGMAXの動員をより高めることができるかどうかを検討した。

[方法] 健常者12名を対象に、両脚スクワットおよび片脚スクワットのトレーニング前後の表面筋電図が収集された。テストセッションの間に、参加者はバンド抵抗を用いた等尺性エクササイズからなるGMAX活性化トレーニングプログラムを実施した(1日2回、7日間)。

[結果] 1週間のアクティベーションプログラムの結果、両足スクワットで57%(p=0.005、Cohenのr=0.73)、片足スクワットで53%(p=0.006、Cohenのr=0.70)GMAXリクルーションが増加することが明らかにされた。

[結論] 股関節強化運動中にGMAXの利用を促進する神経筋適応を促すために、初期GMAX活性化プログラムの実施を検討する必要がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

この研究の何がすごいと思ったか!
それは、「フォームに手を加えなくても、動作の材料であるところの各筋力を鍛えるだけで動作時の筋活動動員に影響を及ぼせる」という点だ。
驚くべきことに、この研究において、スクワットの動作練習はしていないのだ。
つまり、筋トレだけでスクワット中の筋活動が57%も変わった
このことは野球選手、とくに投手への指導を専門にしている療法士、トレーナーには朗報である。
フォームに直接タッチせずに、望むフォームをとったときに動員される筋力を鍛えることだけで、フォームに影響を及ぼせるかもしれないのだから。
かもしれないといったのは、この研究において「Kinematics(スクワットのフォーム)」が示されていないからだ。なぜ示さなかったのだろう・・・。
さておき、投球動作は高度な運動連鎖を用いて高エネルギーを生み出している動作である。そのフォームの一部の歯車に手を加えると、全部がうまくいかなくなる、ことがある。
それを『イップス』と呼んだりするのだが・・・。
イップスの問題があるが故に、「フォームには着手しません」という療法士やトレーナーが多くいることは事実だ。その立場の人々にとっては、朗報だろう。

これは、極限すれば、神経筋コントロール(運動制御・運動学習)への介入をどうするのか、という大きな大きな池に一石を投じた研究だと認識している。
僕を含めて、最近の傾向としては「課題指向型エクササイズ」に光が当たることが多いと思う。ざっくり言えば、「歩きたいなら歩け。泳ぎたいなら泳げ」である。それによって、材料は勝手に収束・自己組織化され、結果的な動作能力としては担保される、という考え方。

だが、今回の研究は、課題指向型(トップダウン型)とは逆のボトムアップ型の介入によって57%動員を増やすという快挙を成し遂げている。
材料を精錬することで、皿に乗る料理に影響を及ぼせたのだ。
トマト嫌いの料理人が、最上の無農薬トマトを見て・味見して、料理に使いたくなる、ということがスクワットにおいて起こった。
このボトムアップ方向の介入を課題指向型に対して、「材料湧水型」と名づけよう。
動員されうる材料が精錬されれば、湧水が沸き上がるように、全体の結果が変わる、という意味合いで。

ここからは、同一のアナロジーをもった飛躍だ。
たとえば病院や会社をよい方向に変えようと思っとき、もしかしたらお前から変えられるかもしれない、ということ。
操縦者が変わらなくても、会社にとって材料であるお前が変わることで、組織全体に影響を及ぼせるかもしれない。
トップダウンだけが、全部じゃないのだから。

あとは、適応の話だ。
どのような場合に課題指向型が重宝され、材料湧水型が必要になるのか。
そのための評価は何か?
もろもろが整備されれば、選択肢が増える分、とんでもない結果が出るかもしれない。ここは、追求し続けよう。

泳ぎたいなら泳げ → 泳ぎに選ばれる材料を
歩きたいなら歩け → 歩きに選ばれる材料を
課題を達したいなら課題をしろ → 課題に選ばれる材料を
会社を変えるのは上層部 → 会社に選ばれる自分を

精錬しよう。材料を、自分を。
個の力。
1個の分子が構成物全体を変えていくという景色は、確かにあると信じる。

(本田圭佑選手は以前からワールドカップ優勝と言っていますが、残りのこの1年という期間で何が必要だと思いますか?)
シンプルに言えば個。
本田圭佑

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