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KTA-Cycle:Knowledge-to-Action-Cycle;知識翻訳(K2P)に特化したフレームワーク

学問の要は活用にあるのみ。活用なき学問は無学に等しい。
福沢諭吉

毎日、勉強を続けているが、その何%を患者さんに届けられているだろうか。
この部分は、とても切実な問題で、そこを軽視しているようでは、無学に等しい。
以前、「学習する医療システム(Learning Health System: LHS)」についてnoteを書いた。

✅ LHSの概要
- LHSのコンセプトでは、エビデンスの生成がそれ自体の目的ではなく、エビデンスを生成するための努力に加えて、健康を改善するためにエビデンスを適用するための努力も同様に重視しなければならない。
- また、LHSとは、個人や集団の健康を改善するために、日常的かつ継続的にデータを生成し、そこから学ぶことを目的とした事業体を広く定義している。

LHSがカバーする領域はデータ収集(P2D)からエビデンスの生成(D2E)、エビデンスの知識化(I&E-E2K)からその実践(K2P)、と多岐に渡る。
その領域の中でも、とくに重要視され、多く研究が行われている分野がK2P(Knowledge to Practice ≒ Knowledge to Action)である。
言い換えれば、研究室と臨床現場のギャップである。
このギャップに対し、どのような思考の枠組みをもち、どう解決していけばいいのか。
今回は、K2Pだけに特化したフレームワーク『KTA-Cycle』に関する2本レビュー論文を、実践に向かうほどには、しっかりとまとめみたい。

📕 今回まとめた文献(1) Moore, et al. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation (2021): S0003-9993(21)00144-1. >>> doi., (2) Graham, et al.  Journal of continuing education in the health professions26.1 (2006): 13-24. >>> doi.

▶︎K2Pに特化したフレームワーク:KTA-Cycle

まずは、KTA-Cycleをめぐる背景について、以下のミニレビューを読んでいただきたい。

✅ ミニレビュー:KTA-Cycleをめぐる背景
- 研究結果が実践、プログラム、政策などにタイムリーに反映されないことが一因であり、世界では毎年7,600億〜9,350億ドルが無駄になっている📕Shrank, 2019 >>> doi.)。
- Morrisらの報告によると、研究成果が実際に使用されるまでに17年以上かかることがあり、さらに、患者や一般市民が健康研究の潜在的な利益をタイムリーに享受できないことが強調されている(📕Morris, 2011 >>> doi.)。
- 理学療法とリハビリテーションの分野では、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士は、いくつかの状況で意思決定の指針として研究エビデンスを使用することがあるが、日常的には使用していないことが示されている(📕Jette, 2003 >>> doi.)。
- 世界保健機関(WHO)では、以上のような状況を「Know-Doギャップ」(研究から得られた知見を行動に移さないこと)と呼んでいる(📕【WHO】2018 >>> site.)。
- このKnow-Doギャップを埋めるために、さまざまなモデル、及びフレームワークが報告されている。
- その中で、1985年以降に発表された実装フレームワークの中で最も頻繁に引用されているのは、KTA(Knowledge-to-Action Cycle)である(📕Graham, 2006 >>> doi.)。

▶︎KTA-Cycleの構成要素

KTA-Cycleには、知識創造ファネル(漏斗)アクションサイクルの2つの構成要素がある。
知識創造ファネルは、知識の探求、知識の統合、知識ツールと製品(例:診療ガイドライン)を含む漏斗として概念化されている。
アクションサイクルは、新しい実践を導くための以下7つのフェーズで構成される。
(1)問題の洗い出し、Know-Doギャップを見極める、知識の特定、確認、選択を見極める
(2)知識を現場の事情に合わせる
(3)知識活用の障壁・促進要因の評価
(4)介入策の選択、調整、実施
(5)知識の利用状況を把握する
(6)成果を評価する
(7)知識の活用を持続させる

以下の図はKTA-Cycleを示したものである(ここ、かなり頑張りました💪)。

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各段階を結ぶ双方向矢印は、各段階が順次、同時に、あるいは反復して行われることを示す。
以下、各構成要素ごとに主要なポイントをまとめていく。

▶︎知識創造ファネル

知識創造ファネルとは、一次研究と合成研究を消費者が使いやすい知識ツールに流し込むプロセスのこと。
19の研究が知識創造ファネルについて報告していた。

📗 知識創造ファネルの活動:文献統合、調査、ガイドライン作成(すなわちKTツール)、2日間の継続教育コース、オンライン教育モジュールの開発など。

▶︎アクションサイクル(1)問題の洗い出し、Know-Doギャップを見極める、知識の特定、確認、選択を見極める

30 件の研究がこのフェーズの活動について報告していた。

📗 Know-Doギャップ評価の方法:非公式または公式の討議、カルテ監査、参加型調査、および/または調査
📗 知識の特定と選択を実施する方法:診療ガイドライン、コンセンサスに基づく勧告、教育プログラム

▶︎アクションサイクル(2)知識を現場の事情に合わせる

24件の研究が、知識を現場の事情に合わせることについて報告された。

📗 臨床現場における適応のプロセス:必要な適応についての臨床家との話し合い、エビデンスに基づく実践行動の現地適応リストの作成、必要な適応を特定するための参加型調査、半構造化面接、実践勧告や文書の改訂、消費者のニーズや地域社会の状況への適合に焦点を当てた修正
📗 学術的な環境における適応のプロセス:教員が選択したエビデンスを反映させるために学科固有の KT 手順を改訂、消費者向けのウェブベースのツールおよびリソースの開発、多様な利害関係者グループ向けにエビデンスを調整し、様々な形態のメディアを用いて普及させること、および臨床家に焦点を当てたオンライン教育資料および症例ベースの学習セッションを作成すること

▶︎アクションサイクル(3)知識活用の障壁・促進要因の評価

30件の研究が、知識活用の障壁・促進要因の評価について報告された。

📗 障壁としてよく挙げられていた項目:時間、知識・技能、信念、診療報酬や費用に関する問題、実施しようとする診療の優先順位が低い、あるいは競合するもの、環境的状況(設備、スペースなど)と資源など
📗 促進要因としてよく挙げられていた項目:臨床医の役割としてKTが含まれていること、組織やリーダーのサポート、臨床医の前向きな視点、関連する知識ツールの利用しやすさ、臨床医とKT戦略を共同開発する機会、指導・サポートの利用が可能であること

▶︎アクションサイクル(4)介入策の選択、調整、実施

28件の研究が、介入策の選択、調整、実施について報告された。

📗 一般的な介入策:教育セッション、リーダーシップ戦略、文書変更またはフォーム、オピニオンリーダーまたはチャンピオンの使用、実施を支援するオンラインプラットフォームの開発、監査とフィードバック、およびメンタリング
📗 障壁を対象とした介入策の選択:12 のプロジェクトでは、KT の介入は特定の障壁を対象とするように選択された。4 件の研究では、KT の介入に対する障壁をマッピングするための枠組みを使用した

▶︎アクションサイクル(5)知識の利用状況を把握する & (6)成果を評価する

21件の研究が、(5)知識の利用状況を把握する & (6)成果を評価することについて報告された。

📗 知識の利用状況を把握する方法:事例研究のレビュー、専門家による継続的な監督・監視、直接観察、会議での議論、カルテ監査、プロセスツール、アンケートまたは調査、ウェブサイト解析、自己報告書
📗 成果を評価する方法:インタビュー、調査またはアンケート、フォーカスグループ、カルテ監査、治療記録に関する雑誌および/または臨床医の報告、患者機能測定、観察、参加型研究、患者報告アウトカム測定、パイロットプロジェクトの評価

▶︎アクションサイクル(7)知識の活用を持続させる

21件の研究が、知識の活用を持続させることについて報告された。

📗 計画されたが完了していない持続可能性のための活動:持続可能性の障壁の評価、障壁を対象とした介入の選択、モニタリング、プロセスの持続可能性の評価
📗 完了した持続可能性活動:プログラムを運営するボランティアの研修、試験的プロジェクトの継続的な資金提供、試験的プロジェクトの成果を基にした新サービスの開発、プロジェクトのために開発した特定の文書の使用、新しい文書形式の使用に対する正式な承認取得、図表監査、専門家との継続的指導、研修資料の開発、プロジェクトの資料のウェブサイト掲載、関係者によるシンポジウム、補助金終了時のKT、地域社会の参加

▶︎まとめ:KTA-Cycleの使い方

以上のように、KTA-Cycleは7(アクションサイクル)+1(知識創造ファネル)に区分される。
このような区分があると、何が良いだろう?
『選択と集中が可能になる』
例えば、職場メンバーが8人いて、全員が「K2Pに取り組もう!」といって、その全範囲に向けて動いたとする。
すると、どうなるか?
①探求分野の重複可能性、②意見の不一致、③未探求エリアの出現
以上のような問題が出てきて、結局、現実を変えることができない、となる。

一方、7+1の区分がK2Pという全体に対して漏れなく、重なりもなかった場合、①〜③の問題は起こり得ない。
8つの分野に対して責任者を一人ずつ立てて、その一人の責任者が最終判断を下すことによって。
さらに、広大な全範囲に手を出して「薄く広く」なりがちな探求エネルギーを、8箇所のどこかに選択&集中させることで、狭く深いアイデアが創出される可能性が高まる。

自動車エンジンにおいてこれをやったのが人見光夫氏(マツダ)であり、彼の率いるチームはスカイアクティブエンジンを完成させた。
彼は自動車エンジンの改善における要素を「排気損失」、「冷却損失」、「ポンプ損失」、「機械抵抗損失」の4つに分類し、さらにその制御因子を「圧縮比」、「空燃比(比熱比)」、「燃焼期間」、「燃焼タイミング」、「ポンピング損失」、「機械抵抗」の6つに集約した。
そして、各個人のエネルギーをこのどこか一箇所に絞り、最良の探求を求めた。
今回、K2Pという広大な全体に対して、KTA-Cycleの7+1が明らかになったことは、この「選択と集中の事業チームづくり」を可能にさせる。
LHSを校正する5つのフォルダのうちの1つ『K2P』のフォルダに、『KTA-Cycle』を大切に保存した。以下の言葉を肝に銘じ、実践に突き進む。

答えは必ずある
人見光夫

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