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溜め息発電

「これから我が国はエネルギー分野で世界のトップに立ち、国民に豊かな生活を約束する」

 このように総理が力強くスピーチした時、大半の国民はおしなべて冷笑を浮かべた。

「国土が狭く資源も乏しい我が国で何の冗談だ」「また口だけのアピールか」「まったく政治家というものは」国民は口々にそう言った。

 しかし今回の総理の発言には根拠があった。とある博士があるモノを電力に変えてしまう画期的な発明をしていたのだ。

 そのあるモノとは人間が出す『溜め息』。どのような仕組みかは公表されていないが、とにかく、その肺活量検査のような機械に溜め息を吐けば引きも切らずに電力が生み出されるのだ。

 町には至る所に簡易発電所が設置され、溜め息を吐いた者にはその発電量に応じて給金が支払われた。仕事帰りのサラリーマン、受験勉強に勤しむ学生、家事に疲れた主婦、多くの者が簡易発電所を訪れ大量の電力を生み出した。

 政府はその有り余る電力を利用し人工太陽を作り出した。国民には夜も働き勉強してもらう。これでもっと溜め息を集められる。

 そうだ、税金を倍にしよう。国民に金を持たせても碌な事に使わない。集めた税金で発電所を増やそう。これでもっと溜め息を集められる。

 そうだ、法律で家族はバラバラに住まわせよう。いやそれでは生温い。国民の会話は禁止だ。喋る暇があれば溜め息を吐かせよう。これでもっと溜め息を集められる。



 3年後、総理は博士の研究所を訪れた。

「これはこれは総理自らのお越しとは。いったいどのようなご用件ですかな」

 総理は険しい顔で俯く。

「博士、あなたの考えた溜め息発電は我が国を世界最大の経済国へと押し上げてくれた。しかし問題が生じてしまった。国民に溜め息を吐かせることばかり考えていたら、我が国の自殺者の数が年々増える一方になってしまったのだ。このままでは溜め息を吐く人間がいなくなってしまう」

「それは大問題ですな。それで私は何を?」

「はい、博士には人間の自殺を電力を変える機械の発明を考えて頂きたく…」
 
 
 
 
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