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D

 やぁ、今日は顔色が良いね。ここにくる途中でね、可愛いチワワのぬいぐるみが売っていたから買ってきたよ。茶色の毛並みが綺麗だろ。私はこの後、隣町まで行かなければならないから長居できないんだ。だから私が帰った後の君の話し相手をこのコにお願いしようと思ってね。
 
 
 
 君が産まれた直後はそりゃあ大変だったよ。君は生まれつき体が弱かったからね。医者に3ヶ月も持たないって言われた時は、私も陽子も目の前が真っ暗になった。あれが絶望ってヤツなんだね。同時に私達は呑気に絶望している時間がないこともよく分かっていたんだ。そこから2人で寝る間も惜しんで走り回ったよ。君を失うなんてとても耐えられないから。
 
 
 
 不気味な東洋医学者から怪しい発明家まで、とにかく方々当たって何か君を救う手はないか探したんだ。ほとんどがハズレだったけど1つだけ、そう1つだけ、君を助ける手段を見つけたんだ。それが君にいつも使ってるこの注射器。注射器といっても針はないけどね。代わりに先っぽには吸盤のような物が付いている。目盛りも1目盛りが365Dになってるだろ。最初は何の数字か分からなかったけど、すぐにピンときたよ。365が1単位のものなんて早々あるものじゃない。
 
 
 
 これを譲ってくれた発明家によると、この注射器は『時を移す注射器』。注射器で採られた者から時を奪い、その時を別の者に与えることができるらしい。半信半疑ながらまずは私の腕から365D採取してみたんだ。それを見てすぐにこれは本物だって思ったよ。私の体から出て来たモノは血の色とは全く違う赤色で、キラキラ輝いているような、それでいてドス黒く濁っているような、とにかく見たことのない色をしていたからね。
 
 
 
 それを君に打つのは少々勇気がいったけど私達には迷っている時間はなかった。打っても見た目は全然変わらなかったんで少し不安になったけど、医者に言われた3ヶ月を越えた時には私達は涙を流して喜んだよ。それから私と陽子は交互にDを採取して君に与え続けたんだ。
 
 
 
 私がそのことに気付いたのは陽子がDを使い果たした時。このまま私までDを使い果たしたら、その後誰が君にDを与えるんだと。そこから私は私の分のDも集めることにしたんだ。他の人間からね。少々良心の呵責に苛まれたが君を守る為だから仕方がない。
 
 
 
 この注射器は君の病気までは治せなかったけど、こうして生き続けてくれれば、いつか目を覚まして私を「お父さん」って呼んでくれる。私はその日が楽しみで仕様がない。なんとなくそれはもうすぐのような気がしてるんだ。
 
 
 
 さぁ、そろそろ行くよ。チワワと仲良くするんだよ。まずは名前を付けてあげるといい。さっきも言ったけど今日は隣町まで行かないといけないんだ。もうこの町の人間のDは全部採取してしまったからね。 
 
 
 
 
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