見出し画像

先生の個性が光る「教師の援助」

 「環境構成」と双璧をなす(大げさ)、幼児の自発的な活動(=遊び)を引き出すためのもう1つの先生の役割が「教師の援助」です。

 これには少々いきさつがあります。
 以前紹介した幼稚園教育の法律的存在『幼稚園教育要領』ですが、小・中・高等学校の『学習指導要領』と同様に、10年おきに改訂されます。令和5年現在は、平成30年度版の『幼稚園教育要領』が施行されていますが、ここ20年は、小・中・高等学校と比較して、それほど大きな改訂は行われていません。というのも、平成10年度版が非常に充実していて、20年度版も30年度版もそれを踏襲するかたちで、基本方針はそのままに改訂が行われているからです。
 幼稚園業界的に大きな改訂が行われたのは平成元年度版です。このとき、幼児教育は「環境を通して行う」と明言され、前回つぶやいた「環境構成」が教師の役割として非常に重要な意味をもつようになります。

ところが、そのことをあまりに強調し過ぎたせいか、現場では「幼児の自発性を尊重するために、教師は環境を構成しさえすればよく、関わり過ぎるのはよくない」、「園内の環境はあればあるほどよい(マイナスの環境構成なんてもってのほか!)」、といった考え方が横行します。何でそんな風になっちゃうんだ?と傍から見ると首をかしげてしまいますが、いわゆる「放任保育」が横行するようになります(残念ながら今でもこれを続けている園は存在します)。
 もちろん、それではいけません。そこで平成10年度版でまた大きな改訂が行われます。ここで強調されたのがもう1つの先生の役割、「教師の援助」です。教師は環境構成を行うだけでなく、幼児の自発性を引き出すために、理解者、共同作業者など様々な役割を果たして適切な指導を行うことが求められました。
 その名残は平成30年度版の解説書にも残っています。

 ・・・その際、幼児の主体性を重視するあまり、「幼児をただ遊ばせている」だけでは、教育は成り立たないということに留意すべきである。

幼稚園教育要領解説』第1章第4節 3-(7)教師の役割

教師の援助① ~モデルとして~

 そもそも、教師自身も(前回分類した)「人的環境」なわけですから、その存在そのものが幼児に多分の影響を与えます。
 園庭に水をまき、泥んこで遊べる環境を構成しただけでも幼児たちは遊び始めますが、その中に先生も入っていて、先生自身が泥まみれになって遊んでいるのを見ると、もう子供たちたまりません!汚れるのをためらっていた子たちまで遊び始めます。
 まずは幼児と信頼関係を築く必要がありますが、その上で教師の楽しむ姿や格好いい姿、手本となる姿を見ると、子供たちは憧れます。「やってみたい!」と自発性が生まれ、模倣し、遊びへと広がります。教師が「○○しましょうね」なんて主導しなくても、姿かたち存在そのものがモデルとなっているのです。
 これを逆手に取った、「反面教師モデル」というテクニックをつとむ先生はよく使います(笑)。1度は正しい姿・やり方を伝えておくことが前提ですが、その上で教師が意図的にダメなモデルを演じるわけです。例えば、危ないハサミの持ち方をしたり、玩具を片付ける場所を間違えたりします。そうすると子供たち、「先生、違うよ~!」と笑いながら突っ込みながら、「あれはしちゃいけないんだったな」と再確認します。また、教師が先に恥をかいてくれているので、幼児が本当に(不可抗力で)間違えたりやらかしたりしてしまったときに、ダメージが少なくて済みます。年中児中盤以降で有効です。

教師の援助② ~答えない応え~

 幼稚園業界で有名な本、R.フルガム著『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』には次のような一節が登場します。

 ・・・ディックとジェーンを主人公にした本で最初に覚えた言葉を思い出そう。何よりも大切な意味をもつ言葉。「見てごらん

『人生に必要な知恵はすべて幼稚園の砂場で学んだ』

 高学歴化の影響か、幼児の問いに対して正解で応える教師が多いです。「それの何がいけないの?」と言われそうですが、教師の援助としてはときに不正解です。幼児の「知りたい!」という意欲を教師が解決してしまっているからです。
 その幼児の発達段階にもよりますが、例えば虫を捕まえてきて、「先生、これ何て言う虫?」と尋ねてきたとき、多くの場合すぐに正解を知りたいわけではありません。年長児でしたら、図鑑や虫メガネを環境として準備し、調べ方や使い方を教えましょう。年中児でしたら、一緒に図鑑を開いて、あれかな?これかな?と皆で頭を抱えてみましょう。
 大切なことは、幼児自身が自分なりに答えを見付け出す過程であり経験です。最初はそれが不正解だっていいんです。一緒に正解を探していきましょう。幼児の質問に対して、「どうかな?」、「見てごらん?」と質問で返したっていいんです。そのような「答えない応え」が、これまた幼児の自発性を引き出していきます。もちろん、焦らしてばかりもいけないですし、正解がすぐに必要な場面もありますので加減が必要ですが。

 特にモデルという意味では、先生の個性が幼児に色濃く反映されます。担任の先生の言葉遣い、仕草、思考回路などなど、いつの間にか幼児に移っちゃってるというのはよくある話で(笑)、それをねらってやっている場合はいいのですが、無意識の行動や口癖なんかだったりすると気を付けないといけないですね。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?