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先生の腕の見せ所「環境構成」

 前回、幼児の自発的な活動(=遊び)を引き出すために、教師には大きく2つの役割があることをつぶやきました。1つは「環境構成」、もう1つは「教師の援助」です。

 今回は、その「環境構成」についてつぶやいていこうと思います。

環境構成の種類

 広い意味で、幼児の身の回りにあるものは全て「環境」と言えます。ただ、幼児教育において、教師はその環境に「教育的価値(学びの要素)」を含ませる必要があります。

 ・・・環境の中に教育的価値を含ませながら、幼児が自ら興味や関心をもって環境に取り組み、試行錯誤を経て、環境へのふさわしい関わり方を身に付けていくことを意図した・・・

幼稚園教育要領解説』第1章 第1節 2ー(3)環境を通して行う教育の特質

 となると、ある程度分類した方が分かりやすい。なので、幼児教育業界では一般的に、「環境」は3つに分類されます。すなわち、「①物的環境」・「②人的環境」・「③空間的環境」の3つです。
 「①物的環境」は、その名の通り幼児の身の回りにある物です。積木やままごと道具のような玩具であったり、滑り台やブランコなどの固定遊具だったり、ハサミやスコップなどの道具であったりします。

黄色で囲った部分が「物的環境」。
このような構成をすると、教師が何も言わなくても、幼児が自分から竹馬で遊び始めます
虫や小動物、草花なども、「生き」や「栽培」という括りで「物的環境」に含まれます。
このような環境構成をしておけば、片付けも幼児が自分たちで行います。

 「②人的環境」もそのまま、幼稚園で出会う様々な人です。先生や友達はもちろん、担任でない職員や友達の保護者、来園する地域の方や業者の方もここに含まれます。
 「③空間的環境」は、教室や運動場のような広い空間もあれば、「読書コーナー」や「ままごとハウス」といった狭い空間、そして朝や昼、週末や季節といった時間や、天気・天候も含まれます。
 このように分類することで、より効果的な(教育的価値を内包する)環境構成ができるようになります。

雨だれでにじみ絵をして遊んでいます。
「空間的環境」はタイミングが難しく、機を逃さないために教師はいつも
アンテナを張っておく必要があります。

環境構成時の留意点① ~環境の再構成~

 環境を構成するときに、その環境に幼児が自発的に関わりたくなるようにすることは大前提として、個人的には以下の2点に特に気を付けています。
 1つ目は、「環境の再構成」です。
 環境構成を効果的に行うと、幼児はそれに関わって遊び始めます。ただ、大人もそうだと思いますが、同じ環境が続くと、刺激に慣れ、飽きがきて、遊びが停滞します。また、準備した環境への幼児の関りが、教師が意図したものとは違う方向に進んでいくこともあります。
 このようなとき、遊びをさらに盛り上げたり、軌道修正したりするために、環境と幼児の関わりをより深めるために行うのが環境の再構成です。
 再構成には、玩具や素材などの数や種類を増やしたり、幼児が使いやすいように配置を変えたり、幼児の動線を意識して障害物を取り除いたり、といったことが挙げられます。その遊びの最中に行うこともあれば、数日、あるいは数週間をかけて徐々に行うこともあります。また、教師が意図して計画的に再構成を行っている場合もあれば、「ありゃ!思ってた幼児の姿と違う!」と後出し的に行う場合もあります。
 環境は、準備して「はい終わり」というものではなく、幼児の姿やその心の動きを見ながら、流動的に変化させていく必要があるのです。

 ・・・幼児の興味や関心は次々と変化し、あるいは深まり、発展していく。それに伴って環境条件も変わらざるを得ない。それゆえ、環境が最初に構成されたまま固定されていては、幼児の主体的な活動が十分に展開されなくなり、経験も豊かなものとはならない。したがって、構成された環境はこのような意味では暫定的な環境と考えるべきであり、教師は幼児の活動の流れや心の動きに即して、常に適切なものとなるように、環境を再構成していかなければならないのである。

幼稚園教育要領解説』第1章 第1節 4-①幼児の主体的な活動と環境の構成

環境構成時の留意点② ~出し過ぎない~

 もう1つは、環境を「出し過ぎない」ということです。
 基本的に、それまでになかった新しい環境というものは幼児の興味・関心を引きやすく、それだけに遊びが一気に盛り上がります。
 ただ、あれもこれもと準備し過ぎると、幼児は消化不良を起こします。例えば、同じ日にままごとコーナーに新しい玩具が登場し、制作コーナーに折り紙が追加され、戸外には色水を作って遊べる道具が準備されると、幼児はその全てで遊びたくなります。ところが、時間にも自分の体にも制限があるわけで、どの遊びもつまみ食い程度になってしまい、環境との関りが深まりません。
 主に年度始めに、気合を入れすぎちゃった教師がやりがちな環境構成ですが、物的環境・空間的環境の構成は小出しが最適です。同時に、その環境の扱い方や片付け方などもきちんと伝えることができます。
 物的環境については、必要数「出し過ぎない」というテクニックもあります。その環境に関わりたい幼児の人数よりも敢えて少ない玩具や道具を準備することで、物の貸し借りや順番制、一緒に使う共同性といった人間関係や社会性に教育的価値をもたせることができます。

 また、発達段階に相応しい環境を構成する必要があります。例えば、私が担任するクラスでは、油性ペンは年長児になるまで準備しません。(乾かないよう)キャップを閉めることや、(写らないよう)下に敷物をすることの徹底が、年中児以下では自分たちでできないからです。幼児がもてあます環境を「出し過ぎ」てはいけません。

 さらに、『幼稚園教育要領解説』にはこのような記述があります。

 ・・・反対に、その活動にとって不要なものや関わりを整理し、取り去ったり、しばらくはそのままにして見守ったりしていくことも必要となる。

幼稚園教育要領解説』第1章 第1節 4ー②幼児の活動が精選されるような環境の構成

 いわゆる「マイナスの環境構成」というものです。
 以前、本園の公開保育に参加された先生から、「どうして砂場を開けていないのか」という質問を受けたことがありましたが、その答えはここにあります。砂場で遊ぶ以上に、子供たちに(その日は)「忍者ごっこ」をして遊んでほしいという教師の意図があったからです。平成元年度版の『幼稚園教育要領』からアップデートできていない先生は、これが理解できないようです(理由はいずれ)。

環境構成の理想形

 さてさて、このように幼児の自発性・主体性を引き出すために教師が行う環境構成ですが、環境との関りが深まってくると、幼児も自分で(自分たちで)環境を構成するようになってきます。主体性を引き出すための準備を主体的に行うというある意味理想形で、この段階まで遊びが深まると、教師が行う環境構成は、幼児が自分で(自分たちで)遊びの準備ができるよう準備しておく、というかなり黒子的な存在になります(笑)。

巧技台を運び、自分たちで「サーキット遊び」のコースを作って遊ぶ子供たち。

 また、前述の「環境の再構成」も、幼児たちの方から要望や提案が出てきて、教師と一緒に行う、という姿が見られるようになります。これまで以上に、幼児の思いや心の動きの読み取りが重要になってきます。


 環境をどのタイミングでどのように構成するか、また、再構成をいつ行うか、そして「出し過ぎない」さじ加減は?これら全てその先生の腕の見せ所です。
 以前、「教室に入るとその先生の色(個性)が分かる」と言われた大学の先生がおられましたが、まさにその通りだと思います。
 環境は、それを構成した教師に替わって幼児に様々な刺激を投げ掛け、教育的価値をもたらしています。

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