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超個人的・インテリアが必見のドラマ シャープ・オブジェクツのレビュー

トップ画引用元: HBO Sharp objects  
今までインテリアに注目すべき映画について記事を書いてきましたが、今回は1つだけ、テレビドラマについて書きたいと思います。
過去の記事はこちら↓


今回は前半にインテリアについての所感。後半にネタバレなしレビュー。インテリアよりレビューの分量多めです。今後はインテリアに関係なく映画のレビューもしていこうかなと思っています。
今回のレビューにはメンタルヘルスや病気の話が含まれます。苦手な方は避けてください。


シャープ・オブジェクツ (2018)

制作:HBO
監督:ジャン=マルク・ヴァレ
出演:エイミー・アダムズ パトリシア・クラークソン エリザ・スカンレン
プロダクション・デザイン:John Paino

プロダクション・デザインに関してはこちらにかなり詳しい記事があります。ヴィジュアルを見てみたい方もどうぞ。

このドラマはアメリカ中西部の田舎町で起こる少女の連続殺人事件に関するミステリー。ジャーナリストであるカミール(エイミー・アダムズ)はこの事件を記事にするため、事件が起きた地である故郷に帰省します。

カミールの母・アドーラ(パトリシア・クラークソン)は町の主な産業である養豚場のオーナーであり、実質町の支配者です。カミールの実家は何世代にも渡って受け継がれた古い豪邸で、この家にアドーラと継父アラン(カミールはアドーラの前夫との子供)、父親違いの妹・アマ(エリザ・スカンレン)が暮らしています。

豪邸のインテリアにはあまり興味がない私ですが、この家は豪邸と言ってもヨーロッパのお城とか、シリコンバレーのIT長者の成金豪邸とかよりはだいぶ現実感があります。あくまで画面越しの印象ですが、独特の臭いが鼻につき、空気が淀んでいる感じ。この家にはのどかな田舎の素朴さと、トラディショナルで重厚な雰囲気が共存しています。

玄関にはフランスから直輸入したという美しい壁紙が貼ってあり、アドーラの寝室の床はなんと象牙で出来ています。現代なら違法ですよね?確かアドーラの祖母の代からの部屋だとか。

ドラマ内で、この家はかなり重要な舞台です。この家のふとしたもの達が、カミールの記憶と結び付いています。象牙の床しかり、幼い頃から真空保存されている子供部屋しかり、玄関ポーチに置かれた揺り椅子しかり、他人の目には美しかったり、ノスタルジックだったりするインテリアや家具を目にするたびに、カミールが負わされた過去の傷がうずきます。そして母アドーラとの変わることのない関係性も、彼女のの古傷を容赦なくえぐります。
この過去の回想シーン又はフラッシュバックでは、過去と今の家の内装の違いも見られます。何しろ古い家ですからね。アドーラの寝室以外は後から建て替えられているらしいし。
あと、アマはこの家の精巧なドールハウス(多分◯分の1に縮小されたような超本格派のやつ)にちょっと普通じゃないレベルで執着しており、アドーラが内装を変えるたびに、ドールハウスもそれを忠実にコピーします。


ネタバレなしレビュー

前はアマゾンプライムで無料で見られたこのドラマは、今は有料になっているようです。最近初めてレビューを読みましたが、あまり評価が高くないようですね。この評価で有料となるとあまり見ようと思わないかも。
でも、アマゾンの☆ほど信用ならないものはありません。これはとても重要だから、小学生に募集する標語のお題にでもするべき。交通安全とかと並んで。
ネガティブなレビューは主に、ラストがあまり好きじゃない、ミステリーにしては先が読めすぎる、女性のエンパワーメントが描かれていない、等々。
私はもともと、ミステリーの種明かしやどんでん返しにあまり興味がないせいか、ミステリー要素である殺人事件に関して正直あまり言いたいことがありません。
私としては、このドラマは「悲しい過去と共に生きざるを得ない人間」を描いたものと捉えています。

私は去年割と深刻な病気が見つかり、手術を受けました。それ以来、有名人が自殺したというニュースを見ると非常に心がざわつきます。
生きたくても生きられないかもしれない自分に対し、問題なく生きられる身体を持ちながら、生きたくなかった人達。
何と勿体ないことをと思う一方で、心に止めておかなければならないのは、自死した人達が抱えていたものは、私のように手術で取り除くことができないものだったということ。
カミールの抱える傷も、そうしたものです。
いやそもそも、ある程度の時間を生きてきた人間ならば、自死に至るほどではなくとも、大なり小なり傷を抱えているのではないでしょうか?
普段は日々の忙しさや、ちょっとした幸福体験によって忘れていられるのですが、ふとした瞬間に悲しい記憶が蘇る。
私にもそんなことがあります。でも悲しい記憶よりは恥ずかしい記憶が多いかも(そんでその度に身体中を掻きむしりたくなる)。

カミールの心の傷やアドーラとの関係性は、もしかしたら一部の人(特に男性)には共感できないかもしれません。ただ、脳内の記憶と感情が結びつき、電気信号として体の内部がうずく感覚は、男も女も関係ないものでは?。
社会的なメッセージは、意外に寿命が短いものです。例えば、女性のエンパワーメントが真に実現された社会では(そうなることを切に願っています)、そういったメッセージは古くさく見えるものではないでしょうか。それに対し、記憶喪失にでもならない限り、人間が悲しい記憶から完全に逃れられる日は来ない。そういう意味でこの作品は普遍的な傑作だと思います。
それともいつかは薬や手術で可能になるのかな…部分的な記憶喪失をテーマにした映画やドラマは存在していますね。でも実現する日は女性のエンパワーメントよりも、まだまだ先だと思います。

あとこのドラマを高く評価する理由として、原作小説との相対評価があるかもしれません。
原作小説は「ゴーン・ガール」で有名なギリアン・フリンのデビュー作「KIZU -傷-」です。「ゴーン・ガール」は小説、映画共に傑作ですが、このデビュー作は私にはイマイチでした。小説ではカミールの心情を言葉で直接読者に伝えられるわけですが、どういうわけかドラマほど切実に感じられませんでした。主演のエイミー・アダムズが虚空を見つめる表情は、小説よりもはるかに多くを語っています。エイミー・アダムズだけでなく、ベテランのパトリシア・クラークソンも、新人のエリザ・スカンレンも、このドラマは女性陣が主な場面をかっさらっていき、男性陣はちょい存在感薄めです。

ここまで読んでくださった方、なんと陰気なドラマなんだと思っていることでしょう。確かに明るい話ではありませんが、ドラマ全話が同じ雰囲気ではありません。視聴者が飽きないように、話のトーンには変化がつけてあり、ラストはその最たるものです。私はこのラストの演出かなり気に入りました。
終始憂鬱な雰囲気だと、悲しみに悲しみが埋まって感じ難くなってしまいます。タイトルにもありますが、カミールの悲しみはあくまでもシャープなのです。

私はこのドラマをおすすめします。

それではこの辺で。






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