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超×2 個人的・インテリアが必見の映画

「趣味は?」と聞かれれば「インテリア」と即答する私ですが、数年前だったら「映画」と即答する洋画おたくでした。最近は諸事情あり映画をあまり見ていませんが、今回はインテリアに注目すべき映画について書きたいと思います。

注意&豆知識

最初に書かなくてはなりませんが、あくまで超×2個人的な評価となります。過去にいくつもの個人ブログで触れられてきたような王道のおしゃれ映画を紹介しても仕方ないので(と言いつつ次回で少し紹介するけど)、インテリアについては比較的ノーマークと思われ、なおかつ本編も好みのものに絞ります。そしてインテリアデザインは誰もがため息をつくようなものというよりは、私個人のツボにはまるものです。
だから、私の言うことを真に受けて映画を見て、「思ってたのと違うじゃねーか!」と怒らないでくださいネ!
とりあえず今回は3つの作品を紹介しようと思います。

あと、ちょっとした豆知識ですが、セットデザインが好みの映画は、DVDもしくはBlu-rayにたまについている特典の音声解説を聞いてみるといいかもしれません。たいてい音声解説は監督がやっていることが多いですが、セットデザインについてのエピソードを語っていたりします。
たまに、特典映像に美術担当者のインタビューがあったり、極々稀ですが美術担当者が音声解説に参加しているときもあります。
ただ、今はストリーミングで映画を見る時代で、特典に触れる機会がめっきり減りましたね…というか特典はもうあまりつかなくなったりしているんでしょうか。特典映像全盛の時代がとっくの昔に終わったことは知っていますがどうなんでしょう…よくわかりません。


パターソン (2016年)

監督:ジム・ジャームッシュ
出演:アダム・ドライバー  ゴルシフテ・ファラハニ
プロダクション・デザイン:Mark Friedberg

主人公のパターソン(アダム・ドライバー)はバスの運転手を勤めつつ、趣味である詩作をしながら毎日穏やかに生きています。事件らしい出来事は、この作品ではほとんど起きません。住んでいるところ(主人公と同名のパターソンという地名)は若干治安が悪そうで、家は多分築十何年みたいな中古っぽい小さな一軒家で、特に素敵というわけではありません。パターソンはこの家で、奥さんのローラ(ゴルシフテ・ファラハニ)、そして自分に全く懐かないブルドッグと共に暮らしています。
こちらに少しだけ家の画像があります。

ローラは美しく、でもちょっと不思議な女性です。日中は働くこともなく家にいて、DIYに精を出したり、ローンで買ったギターの練習をしたりしています。そして家の中は完全にローラの城という感じで、彼女の趣味でまとめられています。
目下ローラは「白黒パターン」にドはまりしており、シャワーカーテンに黒い模様を手書きしたり、服装もいつも白黒、焼くカップケーキも白黒のデコレーションという徹底ぶり。
でも同時に、気まぐれな女性でもあるようです。白黒に凝っているわりに、家の壁はリビングが濃い水色、キッチンが明るい黄色とヴィヴィッドです。おそらく自作したであろう白黒模様のカーテンの上には、明るいチェックのカントリー調?のカーテンボックスがあり、カーテンの雰囲気と全く合っていません。ローラは白黒に凝る前は、カラフルで可愛らしいデザインにはまっていたのかもしれません。
壁にはおそらくローラが描いた、愛犬の肖像画が二つ飾ってありますが、二つは画風が全く違います。
キッチンのキャビネットも白黒に塗られていますが、よくみるとまだ途中のようです。いつ続きをやるのかはよくわかりません。
ローラは凝り性だけど完璧主義ではなく、中途半端でもあまり気にしないタイプなのでしょう。
と、家のインテリアデザインが住んでいる人の性格をよく表しているのがパターソンの家です。こういうセットデザインがまさに私の好みです。

例えば住人があまり掃除が好きじゃなければ部屋はどこかごちゃっとしているでしょうし、住人にお金がなければ家具が安物だったり、中古品だったりするでしょう。そんな風に、この空間でちゃんと人が生活していると感じられるようなリアルな部屋が見たいんですよね。洗練された見かけのものだけが、良いセットデザインとは限らないと思うのです。
あと、言葉で説明する代わりに(もちろん台詞からもローラのパーソナリティーは推測できますが)、インテリアデザインという視覚情報から、登場人物の人となりを想像するのもまた映画の楽しみの一つと思います。そして、監督や美術担当者、その他スタッフが細かいところに思い巡らしセットをデザインしていくのだと思うと感動します。

そしてローラを何よりも尊重し、家が着々とモノクロに侵されていっても文句の一つも言わず、しかし密かに戸惑った表情を見せるパターソンが良い味を出しています。

ハイ・ライズ (2015年)

監督:ベン・ウィートリー
出演:トム・ヒドルストン ジェレミー・アイアンズ
プロダクションデザイン:Mark Tildesley

1970年代のイギリス、主人公のラング(トム・ヒドルストン)はエリート医師で、ロンドン近郊にある40階立ての高層マンション(ハイ・ライズ)に引っ越してきます。このマンションはスーパーやスポーツジム、プールも完備された、その当時ではおそらく最先端の、快適そうな集合住宅ですが、住んでいる階によって強固なヒエラルキーが存在しています(現代の日本でいうタワマン族みたいなもの)。
しかし部屋のデザインは最上階のペントハウス以外はあまり変わりはないようです。
家具がまだ運び込まれる前の空っぽのラングの部屋は、モダンmeetsアバンギャルド?といいますか…洗練されたインダストリアル??とも言えそうな…リビングにある壁や柱の質感が独特でかっこいい部屋です。70年代の設定のわりに、がっつりミッドセンチュリーというデザインではなさそうな。音声解説では「ル・コルビジェやブルータリズム建築をミックスしたデザイン」と言っています(どっちも聞いたことあるけどよくわかってない…)。

Blu-rayについている冊子より

インテリアというよりは建築だけど、こちらでもビジュアルが見られます。

そしてその同じデザインの部屋を、家族構成やライフスタイルによって、住人がおのおの自分好みのインテリアに仕上げているところが見ていて楽しいです。音声解説によると部屋は一つのセットの使い回しで、住人によって内装だけを変えたそうです。
しかし肝心の主人公はいつまで経っても荷ほどきもせず、部屋の壁にペンキもまともに塗れないのですが…でもまあこれは、しょうがないのかなぁ(思わせぶり)。

この映画は、後半以降住人達がマンション内に引き籠ることになるため、ほとんどの出来事が室内で展開されるわりに、室内をじーっくりと写すわけではありません。おそらくセットデザインにもこだわりがあるだろうに、さらっとカメラを移動させるあたりがある意味贅沢な撮り方ですね。

この映画はとにかく映像のセンスが良くて大好きなのですが、プロの批評家と一般の観客共に評価が低いという異常事態が起こっています。才能のある監督に、一流の役者を揃えれば普通どっちかは高いのでは…??
映画の後半はもうインテリアがどうのこうの言ってられない、すさまじくカオスなディストピア展開になっていくのですが、この辺りで拒否反応を示す人が続出しそう。


七年目の浮気 (1955年)

監督:ビリー・ワイルダー
出演:マリリン・モンロー  トム・イーウェル
アートディレクター:George W. Davis  Lyle R. Wheeler

言わずと知れた、マリリン・モンロー出演の名作コメディ。
主人公は1950年代のニューヨークに住むごく普通の、どちらかというと冴えないサラリーマン、リチャード(トム・イーウェル)。奥さんと息子が夏の避暑で地方に行っている間、うだるように暑いマンハッタンで一人仕事に励んでいます。

こちらのサイトに結構画像がありました。

リチャードと家族が住んでいる家は三階建てのこじんまりしたアパートです。元々はメゾネットだったようですが、大家さんが一階と二階をつなぐ階段部分を板で仕切って、一階を主人公一家に、二階を別の人に貸しています。よって、主人公一家のリビングには「どこにも続かない廊下」という不思議なものが存在します。この階段には本がディスプレイされていて、本棚代わりになっているようです(リチャードは零細出版社勤務)。
そして二階の住人が夏の間だけ、自分達の部屋を芸能関係の女の子(マリリン・モンロー)に貸したため、一時的に独り暮らしのリチャードは普段全く縁のない、若い美人に遭遇することになります。

リチャードの奥さんは高層マンションに憧れているようですが、リチャードは(そして私も)今の部屋だって十分素敵で快適だと思っています。
おそらく当時のアメリカの典型的な、都会住まいの中流家庭の部屋といった雰囲気が良いんですよね(実際に知っているわけではないですが…)。作り付けの本棚に本や雑誌がぎっしり並び、蓄音機にレコード、窓付けのエアコン、部屋の隅にはバーワゴン、そして何気にグランドピアノも置いてあります!あと床には子供が放置した、すごく履き心地の悪そうなローラースケートが転がっています。都会なので郊外の家のように広くはなく、家具同士の間隔が少し狭いですが、個人的にこのくらいの広さが丁度良いです。
一階なので庭つきで、テーブルと椅子が置いてあるくつろぎスペースにもなっています。
あとあまりインテリアに関係ありませんが、この建物には管理人さんがいて(常にタンクトップ姿のおっちゃん)、絨毯を干すとか、上から落下してきてきたトマトの鉢の後片付け(!)とか、住人の代わりに雑用を済ませてくれるサービスもあるんですよ。

この時代の日本人は、ライフスタイルも豊かさもおそらく全然違ったのだろうな、と当時に思いを馳せずにはいられません…日本の庶民はエアコンもローラースケートにも縁がなかったでしょう。この映画のインテリアは、同時代の日本人が決して体験することのなかったまるで異空間であり、博物館の展示のように興味深いと思うのです。

この映画は原作が舞台なのもあるのか、ほとんどのシーンが主人公の部屋の中で撮られています。そしてリチャードがとにかく部屋の中をうろうろうろうろしまくっているので、主人公のあまりの落ち着きのなさに笑いつつ、セットデザインも存分に楽しめます!

よし、長くなったのでこの辺にしておきましょうかね。次は誰もが納得するであろうおしゃれ映画を、さくっと紹介していこうと思います。今回紹介したのは何と言いますか、「インテリアデザインを見る映画」と認定されていないものという気がするので。

それではまた。

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