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MLOpsで紐解く、売上予測の運用手法

新規出店や商品展開を計画するチェーンストア企業は、これまでの経験や勘だけでなく、データを基にした売上予測を行うことが一般的となってきています。正確な予測は、企業の成長と競争力の向上を促進するための鍵です。

これまでのコラムでは、モデル選択から評価まで、主に開発の視点から売上予測について解説してきました。
このコラムでは、実際にどのように運用していくべきか、MLOpsに沿って解説してきます。

このコラムを通して、皆さんの業務の一助となれば幸いです。


1.MLOpsとは

<MLOpsとは>

MLOps(Machine Learning Operations)とは、機械学習のライフサイクルを効率的に管理・運用するための管理体制を築くことを指します。
機械学習チームによってモデル作成を行います。開発チームがシステムを構築し機械学習をソリューションに統合します。運用チームは実際の売上の変化や市況の変化を発見し、分析を行って機械学習チームにフィードバックします。
その情報を基に機械学習チームによるモデル改修と開発チームによるシステムの改修を行い、売上予測精度を高めていきます。(図1参照)


図1:MLOpsの概要図


<なぜMLOpsが重要なのか?>

MLOpsの導入により、モデルの開発から運用、監視までの一連の流れがスムーズになります。
特に、売上予測においては、市況の変化や消費者の動向の変動など、さまざまな要因が絡み合う複雑な現象を取り扱う必要があります。
これらの変動を迅速に捉え、モデルに反映させるためには、MLOpsの考え方が必要不可欠です。

2.MLOpsの3つの柱

<①開発>

●モデルの設計と特徴量エンジニアリング
売上予測の中核となるのは予測モデルの構築です。
これを構築する際には、データの選択や特徴量エンジニアリングが欠かせません(第2回コラム 精度改善のカギ:経験を定量化する特徴量エンジニアリング参照。

MLOpsの視点では、これらのプロセスを、再現性の担保をしながら効率的に進めることが求められます。
どのデータを用いるのか、どういった要因が売上に影響を与えているのかを検知し、その情報をモデルに学習させることで予測精度を向上させます。(図2参照)


図2 データの選択・特徴量エンジニアリング


●モデル構築と再現性
モデルの開発では、どのデータセット、どのバージョンのライブラリを用いたのか、といった情報の管理が必要となります。
これにより、モデルを再び構築する際の再現性が担保されるとともに、チーム内での共有もスムーズに進行します。
過去の経験を基に、精度向上に寄与したデータはどのようなものか、逆に精度改善の妨げになっているものは何かを見つけ出し、取捨選択してモデルに組み込むことが重要です。

<②運用>

●モデルのアップデートとメンテナンス
売上予測のモデルは、新しいデータが入手されるたび、または市場の変動などにより更新の必要が生じます。(図3参照)


図3 市況の変化に応じたデータの更新


MLOpsを活用することで、このアップデートプロセスをスムーズに行うことができるのです。
運用チームが収集した情報を、タイムリーにモデルに学習させることで、常に最新の市況を反映させたモデルとなります。
これによって、より精緻な売上予測が実現します。

<③監視>

●モデルのパフォーマンス監視
新規出店時の売上予測モデルのパフォーマンスは、一般的に時間とともに劣化するといわれています。(図4参照)


図4 パフォーマンス劣化イメージ図


なぜなら、常に変化し続ける市況を予測するためには、古いデータでは最新の市況を反映できないからです。
常に予測結果を注意深く監視し、どのようなデータが売上予測に影響を与えているのかを察知することで、タイムリーに対応することが可能になります。(図5参照)


図5 パフォーマンス監視イメージ図

●異常検知とアラート
第5回コラム(予測を外す原因の究明:母集団形成、外れ値と異常値)で触れた「外れ値と異常値」に関連して、MLOpsではモデルの異常動作やパフォーマンスの低下を自動的に検出し、関連スタッフにアラートを出すことができます。
このアラートを基に、その原因を究明し、モデル改修に反映することが可能になります。

3.MLOpsの実践方法

<自動化されたモデルの再学習とアップデート>

●新データを基にしたモデルの更新
前述した通り、売上のデータが日々更新される中、古いモデルでは予測精度が低下していきます。
新しいデータをもとに、定期的にモデルの再学習とアップデートを行い、常に最適な予測ができるように保つことが重要です。
そのためには、最新の市況を反映させたデータや、運用チームが仮説立てた売上に影響する要因を定量化したデータをモデルに組み込む必要があります。
それにより、モデルの劣化を防ぐことが可能になります。

<予測の質のモニタリングとアラート設定>

●ダッシュボードの活用
売上予測の結果やモデルの精度、その他の関連指標を一目で確認できるダッシュボードを設定することで、モデルの動向や成果を容易に把握することができます。
具体的な評価指標については、前回のコラム(第6回コラム 新規出店売上予測の正確さを測る: モデル評価指標)にて解説しています。

●パフォーマンス低下時の自動通知
指定された閾値以下の精度や異常な動きを検出した際、関連スタッフへ自動的に通知が行くようにアラートを設定します。
これにより、問題の早期発見と対応が可能となります。
パフォーマンスの低下は何が原因で、どこを改善すればいいのかを迅速かつ的確に見つけることで、精度を一定に保つことが可能になります。

4.MLOpsが予測の正確性を向上させるポイント

<データの最新性と整合性の確保>

自動化されたデータの前処理やバリデーションプロセスにより、欠損値や誤入力などのデータの不整合を速やかに検出・修正することができます。
データそのものが古くなっていないか、選択した特徴量は本当に予測改善に寄与しているのかを見つけ、必要であればさらにデータを作りこむ、という手順を踏むことで、モデル精度を担保していきます。(図6参照)


図6 データの最新性と整合性


<継続的なモデル評価とフィードバック>

実際の売上データと予測データのギャップを分析し、その結果をモデルの改善や特徴量エンジニアリングの参考にすることで、継続的にモデルの正確性を向上させることができます。
ここで重要なことは、運用チームが分析し仮説立てた、売上に影響する要因を特徴量化することです。
基本的なデータのみでは精度改善に限界がありますが、企業として培ってきた過去の経験や新しく見つけた法則性を、特徴量としてモデルに組み込むことで、大幅な精度改善を可能にします。

5.まとめ

今回のコラムでは、MLopsの概要とチェーンストア企業における運用について、解説しました。

売上予測の正確性は、ビジネスの競争力を高める上で欠かせない要素です。
MLOpsは、この正確性を持続的かつ効率的に確保するための最適な手段と言えるでしょう。

MLOpsは、モデルの作成からデプロイ、維持・更新までの一連の流れをスムーズに進めることを可能にします。
これにより、企業は迅速に市場の変動や顧客の動向に対応することができます。

また、MLOpsを導入することで、モデルの精度や効率を継続的に向上させるためのフィードバックループが確立されます。
結果として、予測の精度は日々向上し、ビジネスにおける意思決定の質も高まることが期待できます。

いかにシステムを構築し、運用していくかが予測精度向上のカギとなります。
専門的な知識と、皆さんのビジネスドメインに対する知識を融合させることで、より強固なシステムを構築することが可能になります。

この記事が、皆さんの業務の一助となれば幸いです。

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