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ラベルは何のためにあるのか。(前編)ー自分に合ったラベルを探すために役立つ6つの概念

はじめに

ジェンダーやセクシュアリティについて勉強していると、アイデンティティや性に関する概念に付けられた様々な名前(≒ラベル)に出会う。

「ラベルを貼る」とは、レッテルを貼るということである。レッテルを貼るというとネガティブな印象を受けるが、例えば自分のセクシュアリティを人や自分自身に対して説明するとき、ラベルは非常に役立つと考えられる。

女性を性の対象とする女性はレズビアンというラベルで説明されるし、性の対象とする人のジェンダーを問わない性的指向はパンセクシュアルと呼ばれる。出生時に割り当てられた性別と本人のジェンダーが一致しない人はトランスジェンダーで、ジェンダーが男女二元論的な性別に当てはまらない人はノンバイナリーなどと説明される。

今挙げたラベルはほんの一部で、LGBTQ+コミュニティの内外には、私たちの性を説明し表すたくさんのラベルであふれている。

知れば知るほど、「性は奥が深いな」といつも面白く思う。

一方で、LGBTQ+や性に関するトピックについて4,5年追っている私でも知らないラベルはたくさんある。また、ラベルも概念も日々アップデートされており、新しい情報に追いついていくのは実は結構大変な時がある。

そんなとき、それらのたくさんの性に関わるラベルや概念を理解する助けとなるコンセプトがいくつかある。今日はそれらを整理しつつ、「ラベルは何のためにあるのか。」という問いについて考えていきたいと思う。

1.スペクトラム

セクシュアリティやジェンダーについて考えるとき、このスペクトラムという道具はとても有効で分かりやすい概念だ。よく使われるのは線形スペクトラムで、線の端と端に対になるラベルがあって、その間がグラデーションになっているものである。こうしたスペクトラムは、セクシュアリティやジェンダーを視覚的に理解するのに役立つ。

『13歳から知っておきたいLGBT+』の著者 Ash Hardell によれば、スペクトラムには「この世の中に白黒はっきりしたものはない」という信念があり、グレーゾーンとでも呼ぶべき曖昧さや、一箇所に固定されない自由さが含まれているという。

性をスペクトラムによって表現することは社会の、主に女と男という二元論的考えから、私たちを解放してくれるのではないだろうか。

これから紹介する生物学的性、ジェンダー、ジェンダー表現、性的指向、恋愛指向はどれも、このスペクトラムを使って(もしくは使わなくても)自分がどこに位置しているか考えてみることができる。

2.生物学的性(sex)

生物学的性とは一般的に、

私たちの身体的な特徴や生殖機能によって分類する主要な区分(男女・雄雌)のいずれか。(Oxford Dictionary, 2016)

と定義される。つまり、私たちの生物学的性は男女どちらかであるということを言っているのだ。しかし実際は、生物学的性とは社会的に作られた概念なのである。

もちろん、染色体の組み合わせが私たちの生殖機能を決めるのは事実であるし、人間の身体に起こる第一次性徴、第二次性徴なども客観的な事実である。しかし、ある人の身体的特徴や器官に意味を与え、「この染色体の組み合わせを持ち、この内外性器を持ち、こうした身体的特徴を持つのは女/男だ」と決めたのは人間である。

こうして考えてみると、生物学的性は社会的に作られた概念であり、同時に、男女どちらにも当てはまらない身体的特徴を持つ人々が存在していることも理解できるのではないだろうか。

ここまで説明してきたように、生物学的性は二元的でない。このことから、戸籍やパスポートに記載されるいわゆる"身体の性別"のことは、「出生時に割り当てられた性別(sex assigned at birth)」と呼ぶことが定着してきつつある。

3.ジェンダー、ジェンダーアイデンティティ(性自認)

ジェンダーは社会的な性とも呼ばれるが、正直、多くの意味や定義が存在する言葉である。今回の記事が個人のアイデンティティにフォーカスした内容であるため、ここでは

『ジェンダーとは、男性である、女性である、その両方である、そのどちらでもない、両者の中間である、もしくはそれらとは全く違う何かである状態。』

という先ほどのAsh Hardell の定義を採用する。

この定義をまとめると、ジェンダーとは、自己理解と自己認識によって成り立つということが言える。「私のジェンダーは女性だ」と感じれば私は女性であるし、私のジェンダーについて誰も否定できないし、ジャッジも出来ないのである。

ジェンダーと出生時に割り当てられた性別は一致することもあるし、しないこともある。

このジェンダーの定義と同じ意味で『ジェンダーアイデンティティ(=性自認)』という言葉が使われることもある。

4.ジェンダー表現(gender expression)

ジェンダー表現とは、私たちが自分のジェンダーをどう表現するかということである。(言葉のそのままだが。笑)そしてジェンダー表現は、私たちが自身のジェンダーを誰かに伝える手段にもなる。

例えば、服装、髪型、名前、代名詞、言葉遣いなどによって、私たちは自らのジェンダーを表現することが出来る。

ある人のジェンダー表現はその人のジェンダーと一致することもあるし、一致しないこともあるが、それで全く問題が無いのである。

ある人のジェンダーがノンバイナリー(男女のいずれかに当てはまらない性のあり方)であるからと言って、その人のジェンダー表現は”中性的”である必要は無い。女性的であっても男性的であってもいい。(何をもって女性的/男性的とするのかの議論は、ここでは一旦置いておく。)

要するに、その人のジェンダーにかかわらず、その人がその人らしくいられるジェンダー表現をすればいいのである。

5.性的指向(sexual orientation)

性的指向は、今回紹介する6つの概念の中ではなじみのある人が多い概念ではないだろうか。

性的指向とは、どんな相手に性的魅力を感じるか、または感じないかである。

なにを性的魅力とするのかは人それぞれで、その感じ方も人それぞれである。

また、どんな相手にも性的魅力を感じない性的指向をアセクシュアルと呼ぶ。アセクシュアルの人は100人に1人いるとも言われており、「性的魅力を感じる人」が多様であるように、性的魅力を感じないアセクシュアルの人もまた多様であるし、アセクシュアルも性的指向の一つなのである。

その他の性的指向の例としては、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、パンセクシュアル(前述)、ヘテロセクシュアルなどがある。

6.恋愛指向(romantic orientation)

恋愛指向とは、どんな相手に対して恋愛感情としての魅力を感じるか、または感じないかである。多くの場合、○○ロマンティックといった表現のしかたをする。

恋愛指向も性的指向と同じように、その魅力の感じ方は人それぞれで、またその強弱も人それぞれである。また、恋愛指向は性的指向と同じだと捉えられることがしばしばあるが、この二つは異なる概念である。

例えば、ある人が誰に対しても恋愛感情としての魅力を感じず、性的には両性に魅力を感じる場合、その人はアロマンティックでバイセクシュアルなのである。

まとめ

ここまで、自分に合ったラベルを見つけるための6つの概念を紹介してきた。これらは、あなたがあなた自身のセクシュアリティやジェンダーについてより深く理解するためにも使えるし、そうでなくとも、私たちが現代社会に存在する性的概念を新たな視点から見ることができる面白い道具になるだろう。

後編では、実際にこれらの概念を用いて考え出されたラベルを紹介しつつ、その用法についてより具体的に考えてみたい。そして、タイトルにもある「ラベルは何のためにあるのか。」について考えていきたい。

今回の記事があまりに抽象的でわかりにくかった方は、それぞれの概念を検索するとより分かりやすい説明を見つけられると思う。

それでは、また次回!


(参考)

1. アシュリー・マーデル(Ash Hardell),『13歳から知っておきたいLGBT+』,ダイヤモンド社. 

2.ジュリー・ソンドラ・デッカー,『見えない性的指向 アセクシュアルのすべて』, 明石書店.

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