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食本Vol.5『月と農業』ハイロ・レストレポ・リベラ著

☆月が人間の食に関わる営みに必要不可欠であることを再認識する本

昨今では民間ロケットの宇宙旅行実現で月ビジネスという言葉が聞こえてくる時代になってきましたが、多くの人間にとって月とはまだまだどこか神秘的であり、詩的な存在です。
夜空に煌々と光を放つ満月を仰げば、ささやかな願いをつぶやきたくなりますし、三日月のあの細い曲線と鎮かな光には安らぎを感じたりします。
このように都市型の生活の中では月というものはどこか抽象的で”お守り”的な存在なのではないかな、と思います。
ですので本書に出会うまでは月と農業に深い関係があるという事は全く意識していなかったです。

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表紙です。ちょっと幻想的。

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月相(月齢)。地球から見た月の変化。本書は月と地球の関係性がわかりやすく図解されています。

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月齢と樹液の活動を示した図

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月面写真。眺めているだけで心のざわざわが鎮まる気がします。なぜ?

☆中南米農民の有機農法と暮らしの技術としての「月」
日本でも様々な有機農法はあります。でも月齢を農業に活かす農法は私は聞いたことはありませんでした。
簡単に言うと、この月の満ち欠け~月齢~の植物の樹液の流れに影響を及ぼしていて、月齢と共に変化する樹液量を観察しながら種を播く時期や収穫時期を決めていくというものなのです。
植物だけではありません。漁業、畜産も。
例えば、パイナップル。
現地でパイナップル農家は「(パイナップルの)樹液が地上部に溢れる満月に近い”この日”にパイナップルを収穫すれば果実がよりジューシーになる。」という事を知っていて”この日”に収穫をするのだということです。そしてそのことは農家だけでなく市場の仲買人も知っていて”この日”にパイナップルを売りに来る農家を信用しているとのこと。
樹液が地上部に溢れる満月に近い”この日”より一歩手前だったり、過ぎてしまっては一番美味しい時期を逃してしまうので的確に”この日”を捉えて収穫するのだそうですよ。
常に月や自然と向き合っているからこその研ぎ澄まされた感覚です。
でもこれが「感覚」だけではなく、科学者さえも舌を巻く科学的根拠にも重ね合わせることができるのですから素晴らしい。

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生鮮果菜類の収穫時期。本書内では他にも生食用野菜、穀類、保存用根菜類と野菜の収穫時期、ウリ科野菜の収穫時期、コーヒー、バナナ、樹皮薬草、タケ類、かんきつ類、などなど非常に細かく分けて収穫時期と月齢の関係性を記しています。

☆目次の紹介※細かい項目は省略※
第1章 人間は時をどのように分けたのか?
1.暦
2.月と曜日の起源
3.古代文明における暦
第2章 月とは
1.その起源
2.月の動き
3.月の二面性
4.月の特徴と数値
5.サロス周期
6.太陽周期、または月齢
第3章 月齢が植物に及ぼす影響
1.月齢が樹液の流れに及ぼす影響
2.1年生作物栽培に与える月齢の影響
3.永年性作物に与える月齢の影響
4.月齢とそのほかの作物栽培
第4章 月齢と動物の関係
1.月と動物の性
2.月と魚介類の性
3.月齢と産み分け、去勢と解体
第5章 月齢が海に及ぼす影響
1.海の干満
2.大気の潮
第6章 星座と月齢の関係
1.黄道星座と植物の性
2.黄道星座と栽培
3.黄道星座と月齢が薬用植物に及ぼす影響
4.月齢および星座と人間の健康との不可思議な関係
5.植物生育や人の健康状態に月が及ぼす促進力、減退力
6.黄道表の便利な利用法

☆「月と農業」が見つめる”その先”とは
本書の巻末あたりに登場する項目「月齢および星座と人間の健康との不可思議な関係」に書かれているのですが、中南米の小農家の多くの考えが「農業に対する月の影響は小さなもので、最終目的は”人の生命”に至ることへの通過点に過ぎない」と捉えている、ということなのです。
要するに、中南米の小農家の人々にとっては、人が自然界の中の一つの命として生き永らえていく手段として農業があり、月と共に、自然と共に営みを続けていくことはごく当たり前のことであり、一般的でシンプルな考え方であるということです。

☆今回の”旅”で教わった「食」「食べる」とは
もともと農業の「農」とは「田畑を耕し、穀物や野菜などつくる」という意味。
都市型生活が当たり前になっている多くの現代人にとって「食べること」と「つくること」はかけ離れています。
本来ならば食べるためにまずは「つくる」事が必要だったわけですが、それがどんどん専門化され、細分化され、そして簡略化されていった。
これからはさらに「つくる」こと自体に自然や人が関わることなく、ますます”工業化”していく事になっていくかもしれません。
日本の農業、いや、世界の、地球上の農業が今後どのように変わっていくのか、これについてはもっともっと一人一人が関心を持たなければならないのではないか、と感じます。本書を翻訳された福岡正行氏、小寺義郎氏は実際中南米で農業に関わられている方たちです。
中南米の農業に携わりながら遠い自国日本の農業の現状を憂いながら未来への模索をされていたのかもしれません。

今回本書『月と農業』から教わったこと、それは
「食べる」ということは「つくる」ことなくしては考えられない。
そして「つくる」ことは人が宇宙、自然と共生し続けることなのだ、
ということでした。

☆今回の食本
『月と農業~中南米農民の有機農法と暮らしの技術』ハイロ・レストレポ・リベラ著(社団法人 農山漁村文化協会)

☆本日のおまけ~お月見にいいかも!?おだんごなす。

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正確にはエッグプラント。日本名は「たまご茄子」。
大きさはうずらの卵よりちょっと大きいぐらいです。
皮が固めなのでフライなど揚げるのが一番美味しかったかな。



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