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あおぞらの証明 #7

俺が今日の後片づけと掃除をしていると武さんが帰ってきた。 「裕、今日は夜ご飯食いに行くぞ。」 昼飯はよく行っていたが、晩飯は初めてだったので俺は戸惑った。だが、家に帰って一人で食う晩飯より武さんと一緒に食う方が楽しいので俺はすぐに返事をした。  そう俺は一人暮らしを始めたのだった。働き始めて最初の給料が入ってすぐに親父のもとから去った。給料が入ったとは言ったが、一人暮らしをするにはぎりぎりのお金しかないため親父と住んでいたのとさほど変わらない2階建てのアパートに住みだした。家

    • あおぞらの証明 #6

      俺の緊張の初日は何事もなく幕を閉じた。 学歴社会となったこの時代に、中卒で働きだす者も減ってきた。平均年齢56歳前後の職場で俺は息子のようにかわいがられた。  工場で働きだした当初は、荷物運びと掃除専門だった。工場の従業員は全員職人気質であったため、手取り足取り教えるなんてことはなかった。それに加え、世の中が不況であったため新人に作業をやらせてあげるほどお金に余裕は無かった。 「裕、今日の昼めしどこ食い行く。」 武さんが俺を呼んだ。俺を羽交い締めにしたあの男と俺は工場の中

      • あおぞらの証明 #5

        俺は中学を卒業したと同時に清水工場で働き始めた。そこは金属加工の職人が10人ほどいる小さな工場だった。 清水社長が従業員を集めた。 「裕、前に出てきて自己紹介しろ」 清水社長の一言で、全員の視線が俺に注がれた。 「松嶋裕章(まつしまひろあき)、15歳です。今日からここで働かせてもらうことになりました。よろしくお願いします。」 場が静まり返ったのを見て俺はどうしていいのかわからずうつむいた。 すると、社長の清水さんが、 「おい裕、お前はまだ何もできない、言ってみりゃ邪魔者や。」

        • あおぞらの証明 #4

          夏休みに入った俺は美咲のお父さんにもらった地図を頼りに清水鉄工所へと向かった。 たくさんの資材が乗った大きなトラックが1台工場の前に停まっていた。 工場の前でうろうろしているとき背後からかけられた声に驚き飛び跳ねた。 「誰だてめえ、また落書きにでも来たガキか。この間の落書き、消していけや。」 がに股で近づいてくるおっさんに、気づけばはがいじめにされていた。60歳くらいのおじさんに力で負けるとは思わなかった。 「違います。俺は、俺はこの工場を見に来ただけなんです。」 俺は押さ

        あおぞらの証明 #7

          erase #2

          私は毎日いろんな家庭のエアコンを掃除している。夏前や冬前は一日中休むことなく依頼をこなさなければならない。今日は6月15日、夏前の繁忙期である。朝9:00から2件の依頼をこなし、昼食を取るため次の家の最寄駅である神田駅近郊の喫茶店に入った。レトロな雰囲気の漂う昔ながらの喫茶店である。席は店の出入り口から1番遠い2人掛けの小さなテーブルにした。 こういう喫茶店といえばナポリタンだろう。私は近くを通った店員に声をかけた。 「すみません。」 大学生くらいに見える女性の店員がこちらに

          あおぞらの証明 #3

          晩ご飯を食べ終わった俺はお父さんの部屋に向かった。 部屋の扉を開けると真ん前には紙が山積みになったアンティーク調の大きな机、その右手には2m近くある大きな本棚がある大きな部屋だった。そこは、仕事部屋のような部屋で俺には理解もできないような難しい本がたくさんあった。少なくとも俺の家の2倍の大きさはあった。 部屋に入るとお父さんは机の前に座って仕事をしていた。 「俺に何の話ですか。」 先に口を開いたのは俺のほうだった。 「美咲から、裕は高校に行かず働くと聞いてね。就職先はもう決ま

          あおぞらの証明 #3

          erase #1

          見たもの全てを詳細に記憶し、過去の些細なことまで細かく覚えているという超人的な記憶力を持ってしまう病気いわゆる超記憶症候群を知っているだろうか。 ドラマの探偵がこれであれば、たちまち事件は解決し名探偵ともてはやされるだろう。 これは本当に病気かと思う方も多いだろう。見たものを全て鮮明に記憶できれば勉強も楽だし、テストなんて自分の記憶の中にある答えを書き写す作業となるではないかと。 かくいう私も、超記憶症候群である。残念なことに、私のこの病気は勉強には全く役に立ってはくれなかっ

          erase

          こんにちは。日向葵です。 今日から、新しく「erase」を書き始めようと思います。毎週木曜日に更新予定です。是非、読んでみてください。

          あおぞらの証明 #2

          俺の住んでいるこの町は、商店街の立ち並ぶ昭和の雰囲気を残す町である。 美咲の家はこの町の雰囲気とは全く異なり、一見オランダを想像させるようなレンガ屋敷であった。門から玄関まで有に20mもあるこの豪邸は、開発が進んでおらず多くの木造の日本家屋が立ち並ぶこの町においてとてもきれいで新しい家に見えた。美咲の家に着 き、いつものようにインターンフォンを鳴らした。ビーっと鳴り響く音だけがこの家の古さを感じさせる。 「おじゃましまーす。」 美咲の家に入って長い廊下を通り3つ目の部屋がリ

          あおぞらの証明 #2

          あおぞらの証明 #1

          俺は誰からも愛されることのない星のもとに生まれてきたんだと思っていた。 俺は飲んだくれで働きもしない親父に育てられた。 育てられたというのは語弊がある気がする。 正しくは親父と一緒に住んでいた。 ただそれだけ。 母親は俺が生まれた時に死んだ。 そのせいで、親父は飲んだくれになってしまった。 親父は働きもせず1日中家にいた。 だが、家のことは何もしない。 すべて俺の仕事だった。 茶色くさびた、踏むたびにギシギシ音を立てる階段を上った西の角部屋が俺の家だった。

          あおぞらの証明 #1

          「あおぞらの証明」 作 日向葵

          今日から小説「青空の証明」を連載させていただきます。 更新は、毎週月曜日です。 よろしくお願いします。

          「あおぞらの証明」 作 日向葵