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あおぞらの証明 #4

夏休みに入った俺は美咲のお父さんにもらった地図を頼りに清水鉄工所へと向かった。
たくさんの資材が乗った大きなトラックが1台工場の前に停まっていた。
工場の前でうろうろしているとき背後からかけられた声に驚き飛び跳ねた。

「誰だてめえ、また落書きにでも来たガキか。この間の落書き、消していけや。」
がに股で近づいてくるおっさんに、気づけばはがいじめにされていた。60歳くらいのおじさんに力で負けるとは思わなかった。
「違います。俺は、俺はこの工場を見に来ただけなんです。」
俺は押さえつけられながら息も絶え絶えに答えた。
「そんなもん信じられるか。お前のせいで俺らがどれだけ迷惑していると思ってんねん。」
俺がもう一度説明しようとしたとき、パチンと音が聞こえ押さえられていた力が少し緩んだ。そのすきに俺はおっさんの手を振りほどき逃げた。
俺はその人に向き合うと、別の人がその人を叱りつけていた。
「だれかれ構わず、押さえつけるのはやめろって言ったやろ。」

俺はその状況に唖然とした。
話を聞くと、最近近所に住む悪ガキが工場の壁にスプレーで落書きをするので、俺みたいなガキに敏感になっていたようだった。
念のため俺は自分が持っていた水筒と財布、地図しか入っていない斜め掛けのカバンを見せ誤解を解いてもらった。
誤解が解けたところで俺が今日ここに来た理由を説明した。
「あの、僕はこの春からここで働かせてもらう松嶋
裕章(まつしま ひろあき)です。今日はどんなところなのか見学に来ました。」
「君がそうか。若松さんから話は聞いてるよ。工場職員もみんな年だから君みたいな若い力が入ってくれてうれしいよ。さあ、入って入って。今は昼休みだから人はいないから自由に見て行っていいよ。」
俺に笑顔を向けて工場に入れてくれた。お世辞にもきれいとは言えない、さびついて開けるときにギーと音を立てる大きな鉄でできた茶色い扉、一歩踏み込むと外とは違う温度と臭いがする工場だった。それに金属のさびた臭いや油のにおいが立ちこめていた。
「おい武、お前が案内してやれ。」
武と呼ばれたのは俺をさっきまで羽交い絞めにしていたおっさんだった。
「えっ、でも俺まだ昼めし食ってないっすよ。他のやつにやらせてくださいよ。」
その抵抗はむなしく、俺を羽交い絞めにした罰として昼休みはなしになった。名前も知らないこの人は、面倒くさそうに俺を案内した。一度も俺の顔を見ることは無かった。やっぱり俺は邪魔者なのか。


俺は担任に就職先を若松さんに紹介してもらって就職が決まったことを学校に伝えに行った。夏休みの学校は部活動をしている人しか登校しないので気持ちばかし静かだ。
「あぁ、そうか良かったな。」
担任は俺に見向きもせずにそういった。面倒な作業が減ったくらいにしか思っていないのだ。
俺はどこに行っても邪魔者だ。
就職先でも俺はきっと何もできない邪魔者なのだろう。
就職先も決まりやることもない俺は周りの受験ムードに左右されることなく、ただただ同じような毎日を過ごしていた。
12 月頃になると、いつも話しかけてくる美咲も自分の受験で手一杯なのか俺に話しかけてくる頻度が減っていった。

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