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あおぞらの証明 #2

俺の住んでいるこの町は、商店街の立ち並ぶ昭和の雰囲気を残す町である。

美咲の家はこの町の雰囲気とは全く異なり、一見オランダを想像させるようなレンガ屋敷であった。門から玄関まで有に20mもあるこの豪邸は、開発が進んでおらず多くの木造の日本家屋が立ち並ぶこの町においてとてもきれいで新しい家に見えた。美咲の家に着
き、いつものようにインターンフォンを鳴らした。ビーっと鳴り響く音だけがこの家の古さを感じさせる。
「おじゃましまーす。」
美咲の家に入って長い廊下を通り3つ目の部屋がリビングで、いつもそこでご飯を食べていた。

美咲のお父さんはうちの親父とは違い夜遅くまで働いていたため、一緒にご飯を食べることはあまりなかった。でも休みの日には俺を家族の旅行に一緒に連れて行ってくれた。
俺は何でここまで良くしてもらえるのかは分からなかったが、この家だけが俺の気の休まる所であった。
「裕くん久しぶりね。」
優しく落ち着いた雰囲気の美咲のお母さんが俺に話しかけた。
俺がこの家に来るのは約半年ぶりくらいで、こんなにこの家に来なかったことは無かった。
「お久しぶりです。久しぶりにお母さんのご飯が食べられてうれしいです。」
美咲のお母さんの標準語のイントネーションにつられて、話し方がおかしくなる。でも俺は美咲のお母さんの話し方がとても好きだった。俺のまわりにはこんな優しく包み込むような話し方をする人はいない。それはお母さんが標準語で話すということも一因ではある
と思うが、激務をこなす美咲のお父さんを長年支え続けて来た器の大きさというのが大きいのだろうか。
「うれしいこと言ってくれる。今日のご飯はハンバーグだからいっぱい食べてってね。」
美咲のお母さんの作るハンバーグは俺の大好物の一つであった。温かいご飯は、たまに招かれるこの若松家のご飯だけであった。家庭の味を俺はこの家で知った。
夕食にお父さんの姿はなかった。
「お父さんはどうされたんですか?今日美咲から俺をお父さんが呼んでいるって聞いてきたんですけど。」
「お父さんね、今日18:00には帰るって言ってたんだけど、仕事で遅くなってるのかもね。まあ、晩ご飯を食べ終わるまでには帰ってくるでしょう。さあさあ食べて。」
「じゃあ、いただきます。」

夕食を終える直前にお父さんは帰ってきた。
「おう、裕来たか。」
「おじゃましてます。」
裕はお父さんに向き直って挨拶をした。
「そんなにかしこまるなって。そうだ、晩ご飯食べ終わったなら俺の部屋に来てくれ。」
「お父さん、裕と何の話をするの?」
美咲がお父さんに尋ねた。
「男同士の話だよ。美咲には内緒だ。」
いたずら顔を美咲に向けた。
この親子は本当によく似ているし仲良しだ。
美咲が膨れ顔になったが、お父さんは笑いながら自室に行ってしまった。

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