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あおぞらの証明 #5

俺は中学を卒業したと同時に清水工場で働き始めた。そこは金属加工の職人が10人ほどいる小さな工場だった。
清水社長が従業員を集めた。
「裕、前に出てきて自己紹介しろ」
清水社長の一言で、全員の視線が俺に注がれた。
「松嶋裕章(まつしまひろあき)、15歳です。今日からここで働かせてもらうことになりました。よろしくお願いします。」
場が静まり返ったのを見て俺はどうしていいのかわからずうつむいた。
すると、社長の清水さんが、
「おい裕、お前はまだ何もできない、言ってみりゃ邪魔者や。」
そう言われ、俺は肩身の狭さを感じた。やっぱりそうか。俺はどこに行っても・・・・・・
だけど、美咲のお父さんのおかげで就職できた俺はこの人たちに認めてもらえるように頑張ろうと思っていた。邪魔者扱いを受けて人にあたっていい時代はもう終わったのだ。
「せやけど、」清水さんは続けた。
「お前はここにいる誰よりも今から成長できる。これから頑張れよ。」
清水さんは俺の肩をたたいた。この意外な言葉に俺は顔をあげた。俺は今まで誰にも期待されてこなかったため、この言葉が心の底から嬉しかった。
「おいおいおい、なに泣いてんねん。」
そう声をかけてきたのは、武さんだった。
俺は自分が泣いていることに気づいてなかった。武さんに聞かれて初めて気づいた。
武さんはこの道40年のベテランで、俺と同じように中学卒業からずっとここで働いている最古参だった。
「お前やったんか」
俺はもらったばかりの真っ新な青色の作業服の右手の袖で涙を拭って、武さんに向き直った。
「この間は悪かったな。」
そう言われ俺はハタと気づいた。昨夏この工場に見学に来た時に羽交い絞めにされたおっさんだった。
「あっ、この間はどうも」
俺は皮肉を込めてあいさつをかわした。
「・・・・これから、よろしくな。何かあったら俺を頼れよ。」
「はい。よろしくお願いします。」
そう言うと彼はすぐにどこかに行ってしまった。俺は拍子抜けした。どんな意地悪親父なのかと思えば感じのいい親父じゃないか。
あれが大人の対応というやつなのだろうか。
俺もまだまだ子供だな。俺は自分自身の子供っぽさに心の中で嘲笑した。

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