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産官学のインタープレナーと語る「越境人」の共創で加速する新産業創造のあり方(後編)

新産業共創に取り組むSUNDREDでは「インタープレナー」という人物像に注目しています。

前編の記事では、インタープレナーの人物像と役割についてトークが繰り広げられましたが、後編はインタープレナーになるためのキーワードである「越境」について掘り下げます。

(この記事は、2020年12月22日に開催したトークイベントを編集したものです)

ゲスト
光村 圭一郎(三井不動産 BASE Q運営責任者 / SUNDRED パートナー)
田中 聡(立教大学経営学部助教)
山田 崇(塩尻市役所職員)

司会
濱松 誠(SUNDRED チーフ・コミュニティ・デザイナー)
上村 遥子(SUNDRED チーフ エバンジェリスト / コミュニティデザイナー / パートナー)

二つの「越境」

- ここからは、どうすればインタープレナーになれるのか、という議論を進めていきたいと思います。山田さんは公務員という本職を持ちながら、主にプライベートの個人の部分でどんどん越境をしています。光村さんも、三井不動産で働きながらSUNDREDにパートナーとして関わっていますね。
このような「越境」という体験が、インタープレナーになっていくために非常に重要なのではとSUNDREDでは考えているのですが、田中さんいかがですか?

田中:それは間違いないですね。その上で今日は、もう少し深く考えてみたい問いがあります。


- どのような問いでしょうか。

田中:僕は越境には2種類あると思っています。一つ目は「物理的な越境」、つまり組織や地域、コミュニティなど、自分の居場所を越境するという意味です。問題なのは二つ目で「文脈の越境」という概念があるんじゃないかと思っています。

先ほど光村さんが「『会社』から『社会』」に視点を変える」という言い方をしていましたが、まさにこれが文脈の越境。個人が持つ価値観や認識を越境していくということです。

これがなければ本当の意味でインタープレナーにはなれないんだと思いますが、しかしこれは単に物理的越境をすればできるというものでもない。ここをどう実現していくのかというのが、SUNDREDに突きつけられる問いになるかもしれません。

- なるほど。個々人が持っている既存の価値観や文脈の殻を破って越境できるか、ということですね。

光村:今の田中さんのお話は、非常に本質的です。たしかに物理的な環境を変えるだけで、自ずと文脈の越境が起こるわけではないですよね。

田中:もう一つ重要なポイントがあります。社会起点とか越境というと、なにかキラキラした、非常に前向きな言葉に思うんですが、文脈の越境というのは本来、非常に苦しいものなんだということを忘れてはいけないと思います。

自分が慣れ親しんだ認識や志向の枠組みを越えるということは、ジレンマとの戦いであり、非常に居心地が悪く、ついわかった気になって誤魔化したくなるようなものだと思います。そしてこれは、単に話を聞いたり学んだりということで達成されるものでもなく、日々、この苦しみに向き合って克服していくしかない。

光村:なるほど。人間って元来、居心地のいい環境を求める生き物だとは思うんです。かつての日本企業なんかはまさにこれで、同じような属性、同じような価値観の人たちが家族的な集団をつくってまとまってきた。結果、結束は強まるけれど、新しい価値を取り入れることは苦手になるわけです。

これ、現代でもある話だなと。SNSとか社外サークルの参加なんかも、じつはそういう側面を持ってしまっているかもしれない。今、価値観の時代と言われていて、端的に言えば、価値観が一致する友人を大事にしましょうという風潮があるわけだけれども、これって一見、会社の外に出るという越境行為でありながら、文脈という観点で言えばむしろ同質性が高まってしまっているかもしれないんですよね。


- たしかに、陥りやすそうな罠ですね。

田中:ただし一度、社会起点という視座に至ってしまえば、これは不可逆的なもの。そこから会社起点に戻ることはないとも言えます。ここに、どう至るか。その方法を解明していきたいですね。

「人生100年」だからこそ、越境が必要

- 山田さんなんかはとても楽しそうに越境しているようにも見えます(笑)。どんなきっかけで越境を意識するようになったのでしょうか?

山田:塩尻市や隣の松本市など19市町村(2005年当時)で構成される特別地方公共団体「松本広域連合」に出向したときですね。
そこでは防災や観光の仕事を担当していたのですが、例えば市町村の境目で、隣の自治体の火事だからといって消火をためらう消防士はいないわけですよ。観光でも、旅行で来て塩尻市だけを訪ねる人はいなくて、近隣の地方一帯で食事したり宿泊したりする。つまり、境界を意識しているのは市役所の役人くらいなもので、越境すること自体が自然なことなんだと気付かされたんですね。

今、私と一緒に活動しているメンバーも、経産省への出向など、何らかの形で「外」を体験している人が多いです。

- 現場のリアルを直視したことがきっかけになっているんですね。

山田:さらに言えば「人生100年」という時間軸が見えてきたことも大きな動機づけになっています。仮に60代まで公務員を続けたとしても、そこから先、まだ20年、30年働くことを視野に入れなければならない時代です。
公務員という軸足を保ちつつ、さまざまなジャンルにピボットして、自分が興味を持てること、やれることを増やしていくことが大切なんじゃないかと思っています。

- 光村さん。文脈の越境を実現し、社会起点を獲得するための方法論で、他に思い浮かぶものはありますか?

光村:難しい問題なんだけれど、結局のところ、新規事業や新産業共創に実際に取り組むというのがいい方法なのかもしれないと、お話を聞きながら考えていました。

僕自身、新規事業に取り組むようになり、視座が上がったという実感があります。
それまではサラリーマンとして、会社の利益や部門の目標を達成することを意識していたんですが、新規事業にオーナーシップをもって取り組むことで、明らかにヒラのサラリーマンのときよりも多角的、多面的に考えるようになったと感じています。自分が懸命に取り組んでいる事業が、社会にとってどんな意味をもたらすのだろうかを真剣に考えるようになる。こういうところから、社会起点に至っていくんじゃないでしょうか。


- 強烈な当事者意識が重要なんですね。

光村:もう一点、大事だと思うのが自分の価値観を持つことです。
文脈の越境って、要は異なる価値観に触れ、取り入れながら省み、自らの血肉にしていくということだと思うんですが、それをやるためにはまず、自らが価値観を持っている必要があると思うんですね。それがないと、異なる価値観に触れても拒絶するか、黙って受け入れるかしかなくて、対峙できないんじゃないか。

で、新規事業に取り組むというのは、自分の価値観を事業に反映させることでもあるから、価値観がないことには始まらないし、取り組む中でその価値観がどんどん変容し、高まっていく。こういう状態になった上で、外部に積極的に飛び出していくことで、越境がより効果的になっていくように思います。

山田:やはり、実際に動く、ということが欠かせないんだと思いますね。

「我欲」が新産業共創をリードする

- 最後に、インタープレナーが新産業共創において果たす役割についてお聞きしたいです。

光村:このトークセッションの冒頭で、新産業共創のためには、複数の会社がオープン/フェアという価値観をベースにまとまっていくことが重要であり、各社のインタープレナーがそれを主導するという話をしました。
ここから話を進めると、僕はインタープレナーは「社会起点で、越境しながら価値創造に取り組む個人」と定義したわけですが、僕はその中でも、さらに二つに分かれると思っています。

一つ目は「勇者」。新産業共創でいうと、そもそもどんな新産業をつくりたいか、なぜそのような新産業が必要なのかという「why」を考える人です。そして二つ目は、勇者に対して共感し、協力する「仲間」です。


- RPGゲームのパーティーみたいですね。

光村:そうです。新産業共創は当然、簡単なミッションではありません。不確かな未来に進んでいくための強いビジョンが必要だし、複数の企業がオープンかつフラットに取り組む関係性をつくっていかなければならない。その中心には勇者と呼べるような強い個が必要だし、それを支える人たちも仲間と呼ぶべき関係性で結ばれる必要があるわけです。

で、このようなパーティーをインタープレナー同士がつくっていくとき、個人的に重要な要素が「いい意味での我欲」ではないかと思っています。


- 我欲というと、インタープレナーの概念から外れるような気がするのですが。

光村:ですので「いい意味での」と付けています(笑)。勇者が発揮するビジョンというものは、言ってみれば「私はこんな世界がつくりたい」というワガママでもある。また、それを支えようとする仲間たちも、なんらか自分の理想が自分の中にあるから、勇者のビジョンに賛同することができるわけです。

逆に、この我欲がない人たちからは、未来をつくるような構想は生まれてこないし、仮に仲間めいた人たちが集まっても、いつまでもぼんやりした議論をするだけで、行動につながっていかないと思います。


- たしかに、例えば会社の意向や指示だけで集まった人たちで構成されるコンソーシアムのようなものから、新しいものが生まれてくる感じはしないですね。インタープレナーという強い「個」のぶつかり合いとつながりが重要になるということですね。

田中:光村さんがおっしゃったことは、僕もそのとおりだと思います。そして、自分が持つ我欲が一体どういうものなのか、ということに気づくためには、実際に「外」に出るアクションが大事だと思います。

外に出てアクションする。そこで自分の内面もさらけ出し、ときに叩かれ、悔しい思いをすることもある。そこでさらに自らを省みて、深め鍛えていく。自分一人での内省や「同じ価値観同士による「内」の議論だけでは、このようなサイクルは成立しません。

- 越境の重要性が、改めて理解できます。

田中:これは新規事業で見られる現象なんですが、新規事業を通じて成長する人がみんな、最初からビジョナリストだったかというと、そんなことはないんです。むしろ、最初は会社に指示されたからやっていたなんて人も少なくない。

でも、実際に取り組み、それなりにちゃんとやっていれば、今行ったような「外」で鍛えられるサイクルに入っていくわけです。新規事業は大抵は上手くいきませんから、それはつまり、自分が一生懸命考えたものを「こんなものいらない」「何の意味があるのか」と否定される体験でもあります。そのとき、たとえそれが最初は辻褄合わせの言葉だったとしても、考え、話し、行動することで、それが最終的に言霊のように自分の血肉になっていくんです。

だから「荒野に行け」「外に出ろ」なんです。


- 公務員という仕事と「我欲」という言葉は、ある意味対極にあるようにも思いますが、山田さんいかがでしょうか?

山田:私が自己紹介のときに触れた「違和感」という言葉は、ある意味でこの我欲に近いのかもしれません。

私がいつも考えているのは、公務員である前に一人の塩尻市民である、ということです。1週間168時間のうち、私が公務員であるのは40時間だけで、市民として生きている時間のほうが長いわけです。そして、市民としての「こうあってほしい」「こうありたい」という欲を、公務員の世界に持ち込むと違和感に変じることがある。そのとき、それを見逃さずに行動につなげていく、というやり方を続けてきてるんですね。

光村:もちろん我欲という言葉の本来の意味どおり、利己的であってはダメです。自らの欲を社会につなげ、仲間たちと利益を分け合う精神がなければインタープレナーとは言えません。

今、SUNDREDにはこのようなインタープレナーが数百人単位で集まりつつありますし、新産業共創を加速するためにはもっと集めていきたいと思っています。インタープレナーに興味がある方は、ぜひ「越境」して、SUNDREDの活動に加わっていただきたいと思います。


前編はこちら


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【第二弾】産・官・学の「インタープレナー」と語る 越境人の共創で加速する新産業創造の在り方 ※終了しました。

【日時】2021年1月27日(水)19:30 - 21:30
【場所】オンライン(Zoom)
【参加費】無料
【参加方法】Peatix
【パネリスト】
・光村 圭一郎 氏(三井不動産 ベンチャー共創事業部 統括/BASE Q運営責任者 / SUNDRED株式会社 パートナー)
・石山 恒貴 氏(法政大学大学院政策創造研究科 教授・研究科長)
・羽端 大 氏(経済産業省 / 公益社団法人2025年日本国際博覧会協会 参事 一般社団法人STUDIO POLICY DESIGN 共同設立者 / 理事/政策デザイナー)

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SUNDRED / 新産業共創スタジオでは2月17日〜19日にカンファレンスを開催します。

インタープレナー、企業およびその他の組織、起業家・スタートアップ、それぞれの観点から新産業の共創について考えていくとともに、具体的な新産業共創プロジェクトについても皆さんとディスカッションしていく機会とさせて頂く予定です。是非ご参加下さい。


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