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朝井リョウ「正欲」

「お前らみたいな奴らほど、優しいと見せかけて強く線を引く言葉を使う。私は差別しませんとか、マイノリティに理解がありますとか、理解がないと判断した人には謝罪しろとかしっかり学べとか時代遅れだとか老害だとか」
(朝井リョウ「正欲」より)

 三大欲求と言うように、私たち人間はごくごく当たり前のように欲望を満たしながら生きている。しかし本当にそれだけだろうか?とこの本、そして著者の朝井リョウ氏は問いかけているように思う。「正しさ」という立場や意見が異なれば全く違う見え方にもなりかねないモノを強く欲してはいないだろうか。正しさは時に立場の弱い人間を窮地から救い、弱者を甚振る権力者をその座から引きずり落とすことができる。しかし、これは同時に諸刃の剣であるということを本当は忘れてはならない。実際のところ、「実態のない社会」によって、自分たちとは異なる意見を持つものに自分たちの正義を押し付けるということを目にはしていないだろうか。そして同時に、誰も「正解」を持たないその正しさを求めてはいないだろうか。
 この本はそんな、誰しもが持つ「正しさ」を様々な登場人物の視点で描いている。数人の登場人物のシーンが交互に続いていくが、それが徐々につながっていきながらも、次の展開が読めそうで読めず、ページを捲る指は止まることなく気づいたら最後のページにたどり着いてしまう。朝井リョウ作品のファンでもそれ以外の方でも、小説を普段読まない方でもぜひ手にとってほしい。


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