働きやすい職場づくりのための取り組み事例
こんにちは!国家資格キャリアコンサルタントの中田暁子です。
私はキャリアコンサルタントとして、個人のキャリアの成長を応援するとともに、企業における組織の成長の支援にも取り組んでいます。今回は、友人で、企業人事として勤める ななこさん に、働きやすい職場づくりのため、どのような取り組みをしたのか、具体的に紹介して頂きます。
★ななこさんの勤める会社ってこんな会社★
・貨物自動車運送事業
・管理職が複数の事業所の責任者を兼任して、常駐していない事業所もある
・パート社員比率が約6割と多い
・早朝から深夜まで、ドライバー・事務員・構内での作業担当者がそれぞれの持ち場で、正社員・最短2時間勤務のパート社員・アルバイト・派遣社員が入れ替わり立ち替わり働いており情報の伝達や共有が非常に難しい
★ななこさんってこんな方★
・入社して以来ずっと人事として勤務
・入社5年目に社会保険労務士試験に合格!
・本社と現場の中間に位置する人事担当部署に所属
・「社員意識調査」や「評価制度」等の実施を担う立場
ななこさん、どのような取り組みをされたのか、教えてくださーい!!
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こんにちは!ななこ です。
私の職場ではキャリアコンサルタントの先生方のご協力で、「新人の定着率向上」を目的とした研修を実施しました。
実は、当初私が先生方へ相談していたことは定着率とは別の課題だったのですが、オーダーメイドで構築してくださった研修は新人の定着率向上に関しても、私が感じていた課題に関しても成果を生み、その後、管轄内の全事業所へ順次水平展開する運びとなりました。
課題ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
1.課題
本社と現場の中間に位置する人事担当部署に所属する私は「社員意識調査」や「評価制度」等の実施を担う立場です。しかし、制度の目的や仕組みの説明はできても、実施そのものが目的となり、形骸化してしまっている制度を、血の通った制度として運用することはとても困難でした。
(1)やらなくてもいい!?「社員意識調査」と「評価」
日々の業務の中で優先されるのは安全と、お客様に提供しているサービス、労働時間の管理です。それ故に、「顧客対応」「労働時間削減」という言葉が多くのシーンで免罪符になってしまう風潮がありました。「やらないとどうなるの?」とはしばしば聞かれる質問でした。限られた労働時間の中でのやりくりが大変な中、やらなくてもお客様に迷惑をかけず、法律違反や労使協定違反にならないなら、と優先度が下がっていってしまうようで、「社員意識調査」や「評価制度」への取り組みは管理職個人の考え方に大きく依存している状態でした。そんな現状に私は自身の力不足を感じずにはいられませんでした。
(2)離職理由は本当に「重労働」「残業が多い」からなのか?
「定着率向上」は重要な課題と認識されながらも、退社理由は「重労働」「長時間労働」「残業が多い」といったわかりやすい理由によるものとされ、「やりがい」「成長」といった面が注目されることはありませんでした。経営計画には「やりがい」について謳われてはいるのですが、日々の業務の中で具体的に言及されることはなく、「評価制度」の活用に結びつけて語られることもありませんでした。
(3)残業の可否やシフトの柔軟性で評価されてしまうケースも
評価制度の活用が進まない理由の一つとして「何で評価したらよいかわからない」という声を聞いた私は、実際に管理職達がどのような項目で評価しているのかをヒアリングして共有していたのですが、その中で残業の可否、シフトの柔軟性で評価している管理職がいることを知りました。
パート社員は時間的制約があるが故にパートという働き方を選択しているケースがほとんどです。もちろん、日々の業務の中では契約時間を超えて突発的な対応が必要になるシーンは多々あります。対応してくれた社員をありがたく思う管理職の気持ちもわかります。対応した社員には残業代以外の報酬も必要かもしれません。
しかし、それは評価制度の外でボーナス的に行うべきではないかと思います。なぜなら、そもそも同じ土俵に立てない社員もいるからです。
フルタイマー社員においても育児や介護といったケア責任を持ちながら働く社員は今後ますます増えていきます。目標や進捗を管理職と部下で共有していないあいまいな運用では、残業やシフト変更に応じるというわかりやすい形で貢献をした社員によい評価をする傾向があるのではないか?
時間的制約があることで不当な評価を受けたり意欲冷却に繋がらないよう、取り組みや成長、業績への貢献度等を元に評価していくことの重要性をますます感じました。
そんな折、メンタルヘルス研修の講師を引き受けてくださったキャリアコンサルタントの先生方が私のモヤモヤとした思いに耳を傾けてくださり、社内で重要課題とされていた「定着率向上」を切り口とした研修をしてくださることになりました。
2.研修内容構築・実施内容ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(1)講師の現場把握
研修内容の構築に際し、講師は業務の流れ全体を理解しようと、研修対象となる事業所だけでなく、一連の流れに関する部門を巡回して業務内容の理解に努めてくださいました。早朝、または深夜しか稼働しない部門、屋外や半屋外で空調の不十分な施設もあり体力的に負担だったと思います。現場の社員にプレッシャーを与えずにヒアリングさせてもらいたいと、弊社の制服の着用を希望されるという細やかなご配慮もいただきました(余談ですが、弊社制服を着用して満面の笑顔、そしてその写真を送ってくださった先生方のお人柄に、私は心底ファンになりました)。
(2)事業所と受講者選定
研修は50名〜100名程度のから成る事業所から、まずは「社員意識調査」の「職場の雰囲気」を参考値に10事業所を対象としました。受講者は、管理職の他、フォロワーとして担当問わずリーダー的役割の社員2名の計3名を各事業所で選定しました。
(3)集合研修①
全2回の集合研修のうち1回目では、アイスブレイクとして「私の職場の○○自慢」をして参加者同士の交流を促進。緊張をほぐしたところで、以下について説明がありました。
・マズローの5段階欲求理論を紹介しながら、「社員意識調査」の目的について。
・フォロワーという耳慣れない役割について、管理職をフォローする為のフォロワーである。
・グループ討議にあたっての「全員が発言する・発言を否定しない」等、安心して発言できる場作りの為のルール。
・ツールとなる「社員意識調査」結果について、読み解きの手助け。
次に、グループに分かれて、付箋紙を使用しながら複数の問題から優先度の高い課題を抽出する手法で、
①全体共通課題として「新人の定着に対する施策」
②各事業所ごとの課題として「「社員意識調査」結果から見える課題・施策」
の2つに取り組みました。
(4)各事業所における行動計画実行→コンサルティング
受講者は2つの課題を事業所に持ち帰り、具体的な行動計画を立てて実行しました。
4週間経過時に、講師が事業所を巡回し、進捗の確認をしながらいくつか問いかけをいただきました。これは講師のキャリアコンサルタントとしての力を非常に強く感じたところでした。普段の業務に取り組む上での困難や、やりがいに関する問いかけ等を通じて、本人が自身の強みや大事にしたい価値観に気づいていくことのできる素晴らしい問いかけでした。キャリアコンサルタントに真摯に耳を傾けていただき、普段仕事をしている中では立ち止まって考えることがなかった自分の価値観に気づき、それを受け止めてもらうことは、とても大きな癒やしとなり、さらに原動力になったことと思います。このことは、私が研修内容構築のための打ち合わせの中でもたびたび感じたことでした。
管理職に対しても、計画実行への方向性を示す、方向にあった活動をサポートする、といった管理職の姿勢に講師が承認や共感を示してくれたことが、行動を加速させたように感じました。
結果、自分たちの事業所の課題に即した、ユニークな手が打たれました。
「新人の定着」に関しては
・短い時間で知識を共有できる工夫として、朝礼で1問1答クイズを実施。
・勤務時間のすれ違いを埋める工夫として、新人が投函できる質問BOXの設置。
・わかりやすく大きなマニュアルボードを作業場に設置。
・皆で新人に声をかける。新人が話しかけやすい雰囲気を作る。孤立させない。
・やりがいの共有(例えば、フォロワー自身が業務の習得をやりがいと感じていることを再認識→新人にも補助的・作業的な業務から、難易度の高い業務へステップアップしてもらい同じやりがいを感じられるようにする)。
・習得項目のリスト化。
・新人のバックアップ体制を明確化。
「社員意識調査」結果から、職場の雰囲気や協力体制が不足していることを課題として抽出した事業所では
・定例ミーティングの設置や、担当を超えたミーティングの開催。
・調査結果を全員で共有しただけで、助け合いや相手への負担を減らそうという動きが見られた。
・次工程を担う同僚への配慮がなされるようになった(「仕事を繋ぎ合う同僚はお客様と同じ」という考え方は、研修中で講師が強調したことでもありました)。
(5)集合研修②
6週間後に2回目の集合研修に於いて取り組みの結果発表を行いました。この日の発表がPDCAサイクルのチェックにあたることも説明されました。うまくいかなかったことも含めて他事業所と事例を共有し、横の繋がりを構築できたことは、集合研修のメリットだと感じました。
自発的に課題を抽出し、仲間と「これでいいのかな?」「ここが良かったよ」「真似したい」と伝え合う。一人の担当者による一方的な指摘や指導でなく、従業員同士が気づき、改善案を考え、実行する。講師は、自発的な流れを作ることで、職場環境向上への意識が維持されることを意図していたのかもしれません。
引き続き、店に持ち帰り、継続。次回チェックは、半年後が予定されました。
3.成果・課題
私のこれまでの「社員意識調査」や「評価制度」を運用するための取り組みは、その目的や重要性を伝えることに終始していました。何を基準に評価すればよいか困るという声もあり、指標の共有もしていました。しかし、それでも時間を割くメリットが感じられない、やらなくても困ったことにはならない、そのような一部の管理者の考えを変えることはできていませんでした。
この研修では、講師はその目的や重要性についてくどくどと説明することはありませんでした。ではなぜ、「社員意識調査」「評価制度」の形骸化といった課題が解消されていく流れができたのでしょうか?
(1)評価制度について
①課題抽出から結果確認までの一連の流れの振り返りができた
研修の中で課題抽出の為のスキルを学び、共同して目標と行動計画を立て、コンサルティングを受けながら実行した結果、行動を継続し、(失敗も含めて)結果を確認することができました。研修という日常とは切り離した時間を持てたことも丁寧な結果の振り返りにつながりました。
②優先度の高い経営課題に貢献できた
これまでも、各々がより難易度の高い業務の習得や、お客様・同僚からの感謝などにそれぞれがやりがいを感じ、取り組んでいました。しかしそれらは管理職にとってはあまりにも広範囲かつ細分化されていたり、関心が薄い分野であることもありました。目標のすり合わせや進捗確認が行われていないまま評価時期が到来するといった状況でしたので、当初から目標が管理職の方向性と合っていないケースであれば、従業員にとって「正当に評価されている」と感じられない結果であったでしょう。
今回の研修では、全社員に優先度の高い経営課題として認識されている「定着率向上」に寄与することができました。
③管理職とフォロワーの共同作業が目標設定や進捗確認そのもだった
管理職とフォロワーが共に取り組む中で、目標設定や進捗の確認、支援、フィードバックが行われました。つまり、評価制度のプロセスそのものだったのです。研修での取り組み結果で、フォロワーを評価するいったことは特段意図しませんでしたが、評価に取り入れることは可能です。フォロワーだけでなく、共に新人定着に取り組んだベテラン・中堅社員も同様のプロセスを踏むことができたと思います。
④管理職、部下、同僚間で互いのやりがいを意識することができた
フォロワーは、キャリアコンサルタントの講師による「あなたのやりがいは何ですか?」という問いかけや、新人への働きかけを通じて、自分のやりがいを再認識したり、新人にも感じてもらったり、高めていけることを経験することができました。同僚や後輩のやりがいを意識することもできました。
管理職も部下のやりがいを知り、何にどのように取り組み、どのような結果を出そうとしているのかを意識することができました。それを認めたり後押ししたりすることができました。
これらのことを通じて、今後の評価制度の運用が、血の通ったものになっていくように感じられました。
(2)「社員意識調査」の結果は職場の傾向を知るための重要な材料。主体者を明確にしてオープンに取り組もう!
「社員意識調査」の結果については、これまで各職場での衛生委員会で議題にはしていたものの、管理職や限られた社員のみがアクセスできる「取り扱い注意資料」のように扱われており、また改善していくプロセスや手法が不足していました。
今回の「新人の定着」に取り組むに当たり、職場環境調査結果は職場の傾向を知るための重要な材料でした。オープンに取り組むことにより、「フィードバックが届かない→形だけの実施になる」といったこれまでの悪循環から抜け出すことができました。また、研修の中で課題として取り組むことにより、誰が主体となって改善プランを考えるのか、実施するのかを明確にすることができました。
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さいごに
従業員は、会社のベクトルにあった目標を達成することで事業を通じて世の中に貢献することができます。自己の成長は喜びですし、パフォーマンスの向上は、会社の成長に繋がっていくはずです。すぐに結果が数字に現れるものではありませんが、限られた労働時間を割き、取り組みを継続するためには、定着率や「社員意識調査」結果で改善が見える等の結果も示されなければなりません。
そのために、今回の取り組みと同様のプロセスを日々の業務の中で体験できるシーンを継続して作っていくこと、増やしていくことが必要だと考えています。
経営層には研修や活動にコストと時間を割くメリットを理解してもらう。従業員は研修で得られた成果(今回の例では新人定着の為の工夫)を継続して運用していく。従業員同士が自発的に課題を課題としてとらえ、改善案を考え、実行していくことも経験できました。
今後新たな課題が発生しても、自発的に職場環境向上への意識が維持されることが期待できると考えています。
社内の合意形成が不十分な中、一担当者の私のモヤモヤに耳を傾けてくださりすばらしい研修を考案し実施してくださったキャリアコンサルタントの先生方、また、時間的制約や経験不足により私がカバーできないところを存分にフォローしてくれた同僚には心から感謝申し上げます。
この記事が、働きやすい職場づくりに取り組む皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。
ななこ
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ななこさん、こんなにも詳しい取り組みを教えて頂いて、ありがとうございます!ななこさんが携わられていたこの働きやすい職場づくりの取り組みは、他の企業の方にも参考になるところ、たくさんあると思います。
私も企業の組織開発支援に取り組む中でも活用させてもらいたいと思います。本当にありがとうございました!!
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