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「悪者図鑑アップデート」遺伝&虐待の犯罪者、悪者の性格、無意識差別で大量虐殺など

こんにちは、トキワです。

2021年2月に出版した拙著「悪者図鑑」ですが、その後色々研究した結果、アップデートが必要になりました。


遺伝と環境のセットで悪者になる

悪者図鑑の中で直接的に悪者(虐待・いじめ・DV・犯罪・差別等)になる理由として、(1)遺伝、(2)経験(虐待)、(3)価値観、(4)環境(個人の経験よりもさらに広い範囲)を挙げました。

このうち今回さらに1番と2番のセットで悪者になることが分かりました。

1番でも紹介した「モノアミン酸化酵素タイプA(MAOA)遺伝子」ですが、これはドーパミンやセロトニンの処理能力に関わり、この遺伝次第でイライラしやすくなったり不安になりやすくなったりします。

より簡単に言えば「環境に対して敏感になる」ということらしく、敏感な状態でさらに虐待に置かれることで反社会的な行動をとりやすくなる(悪者になりやすくなる)ことが分かっています。(説明論文

また、反社会性は子どものころから遺伝率が80%を超える、という研究もあります(論文)。反社会性の具体例は、行動障害、物理的攻撃、冷酷さ、配慮のなさ、など。

以下は様々な反社会的行動の遺伝率になります。特にマリファナは遺伝率6割と高めですが、攻撃的・衝動的・無鉄砲などは4-5割ほどと環境の影響を受けるようです。

著書「教育は遺伝に勝てるのか?」

虐待・マルトリートメントによって愛着障害になる人、3割

悪者図鑑でも紹介した愛着障害。子どもが親などから適切な愛着を形成されなかった場合に引き起こされる症状です。

愛着障害になるととても深刻なレベルでコミュニケーション能力や自己肯定感を欠如し、精神的な病気にもなりやすくなります。

この愛着障害ですが、軽度も含めると全体の3割もの人がその可能性があるという衝撃の調査を発見しました。

Watersらは、満12か月の時に、ストレンジシチュエーションテストと呼ばれる愛着の検査を受けた子どもたちに、20年後面接し、愛着スタイルを調べた。その結果、72%の人で、安定型か不安定型かという判定が一致した。ただ、約3割の人で、愛着が安定型から不安定型に変わっていた。その背景を見てみると、多くのケースで、不幸な出来事が起きていた。

論文「崩壊家庭における愛着障害」

先ほどのモノアミン酸化酵素(MAOA)とセットで考えると、全体の3割が愛着スタイルに問題があり、その3割の中にモノアミン酸化酵素タイプA遺伝子による影響をうけると、自動的に反社会的行動を起こす人を増やしていることになります。

そして虐待・マルトリートメントは日本では「しつけ」や「必要な体罰」として認められることもあり、その割合も調査によっては4割~7割ととても多いことが分かっています。また家庭内での出来事はプライバシーであるため実質規制することはできません。地獄ですね。

ダークトライアドという悪者の性格

性格研究のなかに「ダークトライアド」と呼ばれるものがあります。これはナルシシズム、マキャベリアニズム、サイコパシーの3つのことです。サディズムを加えてダークテトラッドと呼ぶこともあります。それぞれの意味は以下になります。

ナルシシズム(自己愛症):成長・発達の過程において他者に向けられるようになる愛情や愛着が、自分自身にだけ向いているような状態がナルシズムであり、誇大性・高い自尊心・エゴイズム・共感の欠如などの特徴

マキャベリアニズム(権謀術数主義):対人操作・搾取・道徳観に対する冷笑的無視・自己中心・欺瞞・超合理的思考に基づく行動などの特徴がある。

サイコパシー(精神病質):継続的な反社会的行動・衝動性・利己主義・無反省という特徴がある。

悪者図鑑では「セクハラが許されなくなった」「ユダヤとイスラムの戦争」などの原因を「価値観」と書きましたが、価値観をもったとしても実際に悪行を行うかは別です。その行為の原因の一つがダークトライアドなのではないか、という仮説を持っています。

ダークトライアドの人が性格テストのビッグファイブを受けると協調性が低いことが分かっています。また、ダークトライアドになる人の特徴として幼児期の虐待が可能性として浮上しています(論文)。

愛着スタイルに問題のある人が3割いるかもしれない、ということですが、ダークトライアドの国際比較を行った研究で、日本はマキャベリアニズムとサイコパシーが最も多いことが分かっています

アメリカ、オーストラリア、ブラジル、ハンガリー、ロシア、そして日本で、ダーク・トライアドの3つの性格特性が測定されていた。そして結果から、日本はこれらの6カ国のうちで、ナルシシズムはもっとも低く、逆にマキャベリアニズムとサイコパシーはもっとも高いことが示された。
(略)
ナルシシズムのような自分自身に対する強いポジティブな感覚はやはり低いようである。これは、先ほどの自尊感情の結果とも一致している。その一方で、マキャベリアニズムとサイコパシーといったような、自己中心的で人の 痛みがあまりわからないような性格 は、日本人の特徴のようである

性格とは何か」より

さらにこのダークトライアドはある程度遺伝することも分かっています(論文、以下表)。おそらくこれもモノアミン酸化酵素タイプAが関わったり、他にも脳の構造などが関わってくるのかもしれません。

a^2が遺伝率、c^2が共有環境、e^2が非共有環境

犯罪も差別も知能の低い人が行う

どんな人が犯罪を行うのか?それは比較的知能IQが低い人です。

刑務所内での在院者の知能指数(法務省
少年院における在院者の知能指数

さらに、犯罪だけでなく差別も知能が低い人が行います。

ブロック大学などの研究「15874人を対象に行った研究によると幼少期の認知能力(≒IQ)が低い人ほど、大人になってから差別的で画一的な思想になりやすく、また保守的な思想になりやすい。(IQの高い人は差別をしづらい)」(論文1論文2

保守的な人は差別を行いやすく、知能が低い傾向にある、ということですが、以下はさらに細かく知能指数ごとに政治的態度を分布したグラフになっています。

ちなみに自由主義の定義は「遺伝的に関係のない他者の幸福を心から気遣い、そのために自分の財産を分け与えてもよい、という態度」です。

書籍「知能のパラドックス

愛情が差別や戦争に繋がる可能性

愛情ホルモンとして知られるオキシトシン。実はこれが心理学で紹介される「内集団バイアス(身内びいき)」の原因となっていることが分かりました。心理学と神経科学がつながるととても興味深いです。

2010年にアムステルダム大学の研究者たちが、オキシトシンの影響はグループ内に限られるらしいことを発見したのである。このホルモンは友人に対する愛情を高めるだけでなく、見知らぬ人に対する嫌悪を強める。つまりオキシトシンは、普遍的な友情の燃料だけでなく、身内びいきの源だったのだ。

Humankind 希望の歴史 上巻」より、論文

一般の人も気づけば犯罪の共犯に関わったり被害にあってしまうネットワークサイエンス

9.11以降、アメリカでは「ネットワークサイエンス」という学問にお金がつきました。理由は、テロリストを見つけ出すために、テロリストの周辺の友人関係などを洗い出すためです。

今までの犯罪組織はヤクザやマフィアなど上から下まで「犯罪の意識」が通底していましたが、ネットワーク型の犯罪組織では、犯罪意識を持ってない場合もあります。テロリストの周辺の交友関係も同じです。

話は2000年に戻る。同年春、マレーシアで開かれたテロリストの会議に、ナワフ・アル・ハズミとハリード・アル・ミフダルというアルカイダ関連の容疑者が現れたことをCIAが突き止める。会議参加者の写真がヒントになった。会議後、2人は、ロサンゼルスに借りていた住居に戻る。CIAは2人を即座に逮捕はしない。ひたすら彼らを泳がせ、電話、メール、訪問者、銀行への入出金などを監視することで、彼らのネットワークを追求する方法を選んだ。驚異的な分析で、ネットワーク分析の対テロ戦争への有効性を一気に認知させた、ネットワーク解析コンサルタントのヴァルディス・クレブスによると、この2人とダイレクトにリンクする、つまり直接連結している容疑者は17人。実行犯として最も有名なモハメド・アッタももちろん、この中にいる。さらにもう1ステップ先、間接的に1人を介せばこの2人から到達可能なネットワークは50人ほどの容疑者を含んでいる

つながりを突き止めろ~入門!ネットワークサイエンス」より

「犯罪意識を持たずに犯罪に加担する」という意味では最近の「闇バイトの受け子」もいい例です。本人たちはバイトの目的を知らずに例えば「ただ受け取って運ぶだけで3万円」とだけ認知しています。

闇バイトの構造

そして、先ほど書いた「犯罪者は低知能」のように、この受け子は境界知能の若者であることも多いようです。闇バイトの受け子に限った場合どれぐらいの割合かは要調査です。

境界知能の定義と分布

さらに先に紹介したダークトライアドですが、この中でもとくにナルシシズム傾向にある人は、社会経済的地位の低い人(孤独や貧困)を友人に選ぶ傾向にあるようです(論文)。

「心理学再現性の危機」、再現性の怪しい研究

悪者図鑑で心理学の2つの実験について再現性が怪しいとのことだったのでここで共有します。また1つの実験についてはより分かりやすくするために補足します。

(1)ステレオタイプ脅威

差別バイアスの中で紹介していました(こちら参照)。ステレオタイプ脅威に再現性がなくても内集団バイアスが強固になったので差別バイアス自体は問題ありません。

(2)傍観者効果

悪者図鑑では「虐待を見過ごす社会」という文脈で引用しましたが、こちらも再現性が怪しいとのことです(以下参照)。ただししつけや体罰を正当化してるなど別の問題が出てきました。

(3)スタンフォード監獄実験とミルグラム実験

ナチスドイツのアイヒマンはユダヤ人大量虐殺に関与しましたが、「上司の命令を聞いただけなのではないか」という仮説から、1970年代にフィリップ・ジンバルドーが行ったのがスタンフォード監獄実験ですが、こちらは再現性が弱そうです(参考)。

悪者図鑑で紹介したのはスタンフォード監獄実験ではなく、1960年代にスタンレー・ミルグラムによって行われたミルグラム実験ですが、こちらは数多くの追試実験が行われており、再現性がありそうです。

資本主義という無意識ホロコースト、もしくは優性思想

最後は私の論考です。いやエッセイかもですね笑。

差別といえば普通意図的なものを指すでしょう。例えば「女は無知で感情的」と発言するのは明らかな差別です。

発言だけでなく意図的に特定の人たちが生きづらくすることも差別でしょう。例えばナチスドイツのユダヤ人大量虐殺「ホロコースト」がそれにあたります。

ただ、最近思ったのですが、意図的が悪くて意図的じゃなければ悪くないのでしょうか?と。もし意図的ではない(無意識な)差別が許されるとしたらどんな地獄があるのか?と。

例えば資本主義です。資本主義は稼げる人や資産を持ってる人、努力できる人に有利です。差別されやすい女性でも黒人でも、稼げさえすれば自分の生活圏を豊かにすることができます。

一方で、稼ぐのが苦手・資産はあまりない・努力も難しい、そんな人にとってはとても生きづらいでしょう。

例えるならエレベーターもスロープもなく階段しかない場所を生きる身体障がい者です。階段を這って登ればいいのかもしれませんし、それが努力だという人もいるかもしれません。

しかし声になってないだけで心の中で「登る」ことを諦めた人はかなり多いのではないでしょうか?そしてそんな人たちが人知れず不幸に孤独で死んでいくとしたら、それは大量虐殺と何が違うのでしょうか?

日本ではよく少子化だと言われますが、子どもを産みやすい家庭と産みづらい家庭がいるでしょう。そして産みづらい家庭からすれば産まなかっただけですが、これもある意味「本当は産まれてこれた人が殺された」と解釈することもできます。これもまた大量虐殺です。

とある専門家たちは「平均0.5度しか上がってないから気候危機ではない」と言い環境問題はないと言いますが、熱中症で死ぬ人は増え、海水面が上昇して住めるところが減り、森林が破壊され生物多様性が脅かされその影響は未知であり、明らかに無下にされている人々がいます。これもまた大量虐殺でしょう。

FACTFULNESS(ファクトフルネス)のように考えれば、「世界はマシになった」と考えることもできますが、現代の社会は「死なないし物質的には豊かになったが、格差と孤独の愛情不足の中で、動画&ゲームでドーパミン中毒の生き地獄」という側面もあります。

私自身もこの社会での生きづらさをずっと感じてきました。例えば虐待環境で育ち愛着障害でした。さらにIQの一部が高く、さらにコミュニケーションを難しくしていました。

社会人になってもだれかに嫌われるたびに「やっぱり自分には無理なのかもしれない」と感じてきました。しかしそのように感じる人が他にも絶対多いということを意識し続け、自分がその環境をなんとかしなければいけない、と使命感を感じています。

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改めて以下、拙著「悪者図鑑」になります。網羅的にさらにお知りになりたい方はぜひともご購入ください。出典リストもまとめています。


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