日本もハーバード大のコロナ対策案を大至急検討すべきだ

※この記事は2020年時点で執筆したものです。

初版:2020/4/26 公開
Ver2.0: 2020/4/26 対策会議でのIT活用検討について追記しました。Ver2.1: 2020/4/27 タイトルの誤記を修正しました。

2020/4/20付でバーバード大のCenter of Ethics (倫理センター)が、”Roadmap to Pandemic Resilience”というタイトルのコロナ封込めプランを発表した。

彼らのプランは、ロックフェラー財団の支援を受け、経済学、公衆衛生、技術、倫理の専門家が集まって立案したもので、今までのプランにない具体性と実行可能性をもっているプランだと感じている。以下にそのプランの概要と日本における導入検討における検討ポイントを説明しておきたい。

なお、この”Roadmap to Pandemic Resilience”だが、当然ながらレポートは英語である。ただし、大変ありがたいことにGoogle翻訳でPDFが翻訳できる。関心がある方はぜひPDF翻訳してほしい。また、プランの説明用の動画もYoutubeでアップされているが、こちらはYoutubeの機能で自動で字幕を日本語に翻訳できる。特に、動画の方が秀逸でとてもわかりやすく説明されているので、そちらを参照されるのがいいと思う。

出典リンク

提案レポート

Youtube 動画


社会隔離施策は不確かである

現状多くの国で社会隔離施策(social distancing)が実施されているが、先行きはとてもの不透明だ。

米国では感染爆発が発生・外出規制を実施して新規感染者数は減少し始めているが、外出規制を緩めれば、再び感染爆発が起こり得る。感染爆発を防止するためには、社会隔離策(social distancing)を断続的に一定期間続けることになる。

上記の画像で赤の帯でCloseやReduceと記載されているのが、外出規制の期間、Partial Reopenと書いてあるのが、外出規制の緩和の期間だ。このように、外出規制も緩和を何度も繰り返す可能性が高い。

しかし上記はまだ楽観的な見通しだ。上記のように、段階的に感染者数が落ちていけばよいが、実際には、外出規制の緩和の仕方を間違えると、一気に再び感染爆発が起きる可能性があるのだ。

上記の画像は12月から再び感染爆発が起きる可能性を示唆した図だ。

要するに、社会的隔離は有効なのだが、感染を抑制するには施策を実施し続けないといけない。社会的隔離を止めてしまうと再び感染爆発が起こり得るということである。

プランのコンセプト:TTSI(大規模検査+トレーシング+感染者隔離)

ハーバード大のプランでは、社会的隔離の限界を克服するために、大規模検査と、感染者の追跡(トレーシング)、そして、感染者への隔離を実施するのを提案されている。

a)一日数百万件に及び大規模なテスト

b)大規模な人員やITを導入しての感染者の行動追跡

c)感染者を医療・心理・経済面をケアしつつ隔離

このプランを大規模に、かつ、一気に実施してから、夏以降に社会的隔離の緩和を開始すべきというのが彼らの提案である。

次に各フェーズの施策内容を見ていこう。

フェーズ1:ライフラインを支えるための検査・支援体制の確立(5–6月)

まずフェーズ1では、医療従事者、コンビニ・スーパーなどの食料品店、電気・ガス・水道、物流関係者などのライフラインを支える労働力(全体の4割と見積もられている)の支援を行い、彼らが安心して働ける状態を作っていく。

医療・物流を含む、ライフライン系の産業に従事している人に対して、優先して検査を行うとともに、感染者との接触が起きないように感染者追跡も行う。また、万が一感染した場合には、給与が保証された形で休みが取れるようにする。

ライフライン労働者の感染によって労働力が不足することがあるので、オンラインでの職業訓練なども含めた、労働力を補充するための準備をしておく。

また、高齢者は死亡のリスクが高いので、高齢者施設では、優先的に検査を実施して安心してもらえるようにする必要がある。

この段階では、検査キャパシティの増強とトレーシングの仕組みの構築が重要で、地域のコミュニティを巻き込んで検査施設の増強を行う。感染者の追跡については、疫病対策の機能を持っている場合には、既存の仕組みを流用・手直しですむし、新規構築の必要性も想定されている。新規構築場合は、アプリを配布し、オンライントレーニングを実施するなどを想定しているようだ。

また、万が一、トレーシングの構築に時間がかかってしまう場合には、感染者の自宅待機を徹底させ、新規感染を抑制していく。

フェーズ2:ライフライン労働力の拡大(7月)

フェーズ1の施策で全体の40%の労働力の安全が確保した上で、次は、70%の労働力の安全を確保していく。

フェーズ1の医療・食料品・物流インフラなどの最低限の必須機能を提供している人たちに加えて、食品やトイレットペーパーなど、生活必需品を製造していたり、流通させている人が職場に復帰できるようにする。通勤上の問題が出ないように、交通機関の増強なども検討する。

フェーズ2では、感染者追跡がしっかりとできる状態を目指す。都市部ではアプリによる感染者追跡を行うが、田舎ではアナログ式でよい。地元民同士の確認や地域リーダー(日本だと民生委員)が状況把握を行う。移民が多いエリアでは、移民団体と連携をする。病院の増床による治療体制の強化、地域の小学校を活用しての検査能力の拡充を実施する。

地元の人に食事を提供し、一部飲食店を再開させるため、持ち帰り・テイクアウトが可能な飲食店をホームぺージなどで告知していく。

フェーズ2では、6月いっぱいで日常生活に必要な機能が提供される状態を目指す。

フェーズ3:一部店舗ビジネスと企業活動の再開(7月)

フェーズ3では、ヘアサロンやネイルサロンなど、リモートでは提供できない店舗型サービスの提供を復活させていく。

サービス提供者はマスクを着用し、感染予防を行うとともに、顧客がコロナに感染していないかどうかをアプリを通じて知ることができる。店舗には、一度に1名のお客さんのみを入れ、顧客の服装や持ち物にコロナウイルスが付着していないように清浄を提供する。

フェーズ3では、企業に勤めているオフィスワーカーは、在宅ワークを実施する。この段階で、失業者やホームレスの施設収容なども進めていく。

この段階は比較的短くてすみ、次のフェーズ4に移行していく。

フェーズ4:部分的な通常勤務の再開(8月)

次の段階では、検査を受けた上で、会社員が部分的に出社して仕事をする。企業や仕事内容によって、働き方は変わってくる。シフトを変えて働くこともあるだろうし、週のうち2日程度出社することもある。この段階では、検査やトレーシングの仕組みが整っているので、安心して働くことができる。

飲食店は座席数の間隔をあけて運営を再開する。ライブハウスなどは、バー用のテーブルを設置するなどして運営を再開する。レストランなどは、ミュージシャンを雇って、入場料を請求するなどすれば、座席数の減少に伴う収益減を補えるかもしれない。

フェーズ4では、子供たちが学校に戻ることができる。おそらく夏休み期間中にはなるが、補習をして学習の遅れを取り戻すことができる。スポーツコーチや部活の顧問などは、なるべく接触が少ない形で練習できるように知恵を出す必要がある。試合観戦は、座席の間隔が空くような形にして、交互に座って観戦するなど工夫をする。

この段階では、検査能力は拡大(1日2000万件)しているので、希望する人は頻繁に検査を受けて、感染がないことを確認することができる。スポーツ選手は毎日検査を受けながら、TV中継を中心に試合を届けるようになるだろう。

フェーズ4では、かなりコロナ前の生活に戻ることになるが、それでもマスクの着用は必須だし、大規模イベントはオンライン中心で行う必要がある。

ハーバードプランの全体像と計画の進行方法

上記で説明してきた全体像は以上の通りとなる。

上記の計画を推進するためには、コロナ検査実行委員会(Pandemic Testing Board)を立上げて、時期毎に検査能力の目標を設定したり、サプライチェーン上の課題を特定して解決したりして、短期間での検査能力の拡充を可能にする可能性がある。

このコロナ検査実行委員会は、2年間で5兆円から30兆円の予算を投下して実施される。彼らは、検査能力の増強に加えて、感染者の追跡や予備の医療従事者の確保なども行っていく。上記は巨額の投資だが、外出抑制・社会的隔離をオンオフすることによる経済ダメージよりははるかに少ないし、多くの人の命や生活を救うことにつながる。

上記の図にある通り、段階的に社会的隔離をオンオフした場合には、隔離をオンしている時期毎に10兆から35兆円のコストがかかる。トータルでは、50兆円から350兆円がかかる可能性がある。

このような投資は、結局、コロナ対策にかかる費用を削減することになるし、将来の感染症対策のためのインフラを整備することができるという主張だ。

なぜハーバードプランが有効なのか?

私は国内外のコロナ対応の状況を見ているが、日本は今短期対応に追われてしまっていて、中長期の見通しが立っていない状況だと考えている。

GWまでの外出自粛は決まっているけれども、その後はどうなのか?コロナは一体いつまで続くのか?多分、医療関係者も、疫学の専門家も、官僚も政治家も、だれも答えられない。

無症状者が感染を広げてしまう

それでも、過去3か月でコロナに対して、だいぶ解ってきたことがある。それは、無自覚感染者がコロナウイルスを伝染させるということだ。

上記の記載の通り、感染者の20-50%の自覚症状が出ないと言われている。検査をしなければ本人は感染した事さえ気づいてない状態が発生しうるということだ。日本で、感染源が特定できない感染者が多発している理由はこれである。だから、無症状者の外出を防ぎ、感染拡大を抑止するには、日本が現在実施しているレベルでの徹底的な外出抑制をせざるを得ないのだ。この無症状感染者を特定して、個別に行動を制限しない限り、社会全体・国民全体に対して、移動や接触の規制をかけざるを得ない。

また上記のマッキンゼーレポートでも、大規模テストを実施している国は感染者が少ないと報告しているが、これは無症状の感染者を特定し、新たな感染の拡大を抑止できるからなのである。

コロナウイルスは季節性なのか?暑さや紫外線に弱いのか?

また、コロナウイルスは暑さや紫外線に弱く、夏には収まるのではないかという見方もあり、確かに温度と感染者数の人数には一定の相関関係があるという研究データも出ている。しかし、インフルエンザ等、別のウイルスを見ても、確かに活性は低くなるものの死滅するわけではないし、しかも、北半球と南半球で交互に夏と冬が来るので、コロナは夏になれば収まるというのは、想定から外すべきだ。

そして、実際にWHOのホームぺージで、世界のコロナの感染流行の状況をみると、アフリカや東南アジアでも感染者数が増加している。これは、たとえ、暑くても、紫外線が強くても、感染しやすい状況が生まれれば、感染は爆発していくという事実に他ならないのである。

夏になってもコロナが収まらない可能性が高い以上、社会的隔離を緩めたとたんにまた感染が増加が起きる。ハーバード大のレポートが指摘している通り、断続的に、社会的隔離をオン・オフを繰り返す施策をやらなければならないし、しかも、不確実性が高い施策で、それがうまくいくという保証はどこにもない。

医療崩壊を防ぐには社会的隔離のオン・オフが必須

そして、この社会的隔離のオン・オフ施策は、英国インペリアルカレッジの研究者が3/16の段階で試算を行った結果を踏まえたものだ。

上記の図にある通り、毎週のICU数(重症化数)をウォッチして、何度か社会的隔離を繰り返すプランだ。これは、設備や医療スタッフの人数の関係で、ICUのキャパシティ増強が難しく、かつ、ICUが足りなくなると、医療崩壊による大感染シナリオが現実化するために、立案されたものだ。

上記の記事に詳細が記載されているのでぜひ目を通して欲しい。可能性が高い社会的隔離の実行シナリオとして、「2か月実行して、1ヵ月解除」というのが、十分にあり得るのである。

社会的隔離のオン・オフに伴う代償は何か?

日本で緊急事態宣言が発令されて3週間が過ぎた。今までに何が起きているだろうか?

ウイルスを気にしながら外を歩く気疲れは当然ながら、学校にいけない子供たち、休業を余儀なくされ、倒産が相次いでいる飲食店、旅行業、イベント・エンターテイメント業。それ以外の業種でも、採用抑止は既に始まっているし、大規模な休業・生産調整が始まっている。社会的隔離による社会・経済への影響はまだまだ始まったばかりで、今後深刻化していくのは確実だ。

そもそも、感染者数の多い米国では、毎週の失業者が400-600万人出ていて、すでに1ヵ月で2600万人が失業している。コロナによってこれほどまでに企業の経営環境が悪化しているのである。日本は、米国よりもずっと感染者数は少ないが、社会的隔離というレベルでは米国のレベルに近づきつつある。日本でも多くの企業経営者がビジネスの先行きに悲観的な見通しを出しており、リーマンショック級の影響はほぼ確実視されている。

日本では、労働法上リストラをしにくいので、米国のような失業の増加ペースにはならないだろうが、それでも、企業の業績悪化によるリストラはあり得るし、また、企業を支えるために、金融機関が行う債務保証や貸し出しは、返済の可能性が低く、貸し倒れになるリスクが大きい。これらは、政府系金融機関や信用保証協会によって与信されていて、結局最後は、国民の税金負担によって賄われる可能性が高い。

300兆円がコロナで失われ、2万人の自殺者が出る

コロナによる経済インパクトがどの程度あるのかを見積もるのは難しいが、もし、米マッキンゼーの試算を参考にするのであれば、感染者数の度合いから米国の▲10%超はまではないとしても、世界平均よりは高い8%前後は出ると考えられるだろう。日本のGDPはおよそ500兆だから、単年で40兆円は吹っ飛ぶ計算だ。2年で80兆である。

加えて、政府が打ち出している緊急支援のための財政支出が約120兆円。これはおそらく単発ではすまないだろうから、来年度も7割程度の予算を組むとすると84兆円で、2年で120兆+84兆円。およそ200兆円となる。そうすると、GDPの減少分80兆円、財政支出分が200兆円となって、約300兆円ほどがコロナ対策で失われることになるのだ。

もちろん金額に換算できない損失もある。すでに多くの人がコロナによる心理的ストレスを抱えているが、これに失業にうつ・自殺などが懸念される。リーマンショック時を基準にすれば、年間で2万人もの自殺者を出しかねない状況なのだ。

米国では、上記のような社会インパクト・経済インパクトが試算されたうえで、やはり大規模検査・感染者追跡の実行が必要だということで、ハーバード大のプランが提示されているのである。

コロナ対策は一気にドカンとやらないといけない

今回紹介したハーバード大のプランを一言で説明すると、一気にドカンと検査して、追跡アプリや人力を使って徹底的に感染者を追跡できるようにしましょうというものだ。

そして、医療関係者やライフラインを支えている人たちに最大限の支援をしつつ、感染者の治療・生活・人権などにも配慮した包括的・実現可能なプランが検討されている。

そして、今回のプランは、感染爆発が起きたのちに封じ込めを実施した韓国や、感染爆発を防ぐために早めに手を打った台湾、シンガポールなどの知見を取り入れたきわめて合理的なものである。

日本で同様のことをするのにいくらかかるのか?これは試算しないといけないけれど、乱暴に計算するならGDPや人口比で1/3とみておけばいいだろう。

ざっくり1.5兆~9兆円だ。今回の経済対策の規模120兆円と比べてもずっとずっと少ないし、経済の影響を考慮した300兆円と比べれば、わずかに1/30である。

私は、人々の命と幸せと経済・財政的なインパクトを考えると、ハーバードプランの日本版を本格的に検討する必要があると思う。

日本でのコロナ対応の現状は、首相官邸のコロナ対策本部の議事録を見れば概要がわかるが、主に、感染状況の把握と医療崩壊の防止という短期的対策にとどまってしまっていると感じる。戦略オプションの抽出やそのメリット・デメリットの比較まで、手が回っていないという状況なのだ。

また、重要なITによる感染者トレーシングに関しては、諸外国の事例を参照し検討は必要だが、倫理的な問題もあり要検討との記載がある。しかし、議事録で割合は少なく、検討の時間が間に合ってない印象である。

再流行に備えるため、様々な ICT 技術の活用を考えることは喫緊の課題である。諸外国の実例と議論を参考にすると、 ①調査・個別通知、②統計情報二次利用、③集計・公開の合理化、④接触追跡 (Bluetooth アプリ、GPS 位置情報その他)、⑤健康管理・報告のアプリといった手法 が考えられる。しかしながら、公衆衛生上の利益とプライバシーへの影響を比較考量 し、倫理的、法的、社会的な問題を議論することが重要である

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020422.pdf

中国でのコロナ感染が始まって3か月が経とうとしている。当初よくわらかなかったコロナの生物学的・疫学的特性もだいぶわかってきた。ワクチン開発は進んでいるが18か月はかかる。そして、コロナは夏でも死なない。だから、GWが終わっても、コロナは死滅しないし、社会的隔離は続いていく。そして、それに伴う社会的コストは甚大だ。

今回のコロナ禍、未曽有の事態なのは間違いがない。しかし、過去3か月で、世界中の医療従事者、研究者、政治・行政の関係者が必死となって対策を行ってきた。うまくいったものも、うまくいかなかったものもあるが、結果として、感染抑止のために有効な施策パッケージが出そろってきている。

今回、ハーバード大の今回のプランは、過去3か月の人類の英知の結集だと思うのだ。だから、ぜひ、この情報を意思決定にかかわる人に、一刻も早く、一人でも多く届けたい。

ぜひ、皆さんの周りにいる政治家、行政関係者、メディア関係者、企業経営者、IT関係者など、届けてほしい。そして、建設的な議論のスタートポイントにできれば幸いだ。


【参照文献】

提案レポートの掲載サイト https://ethics.harvard.edu/covid-roadmap

Youtube 動画 https://www.youtube.com/watch?v=HhRQxk9QA-o&t=25s

ロックフェラー財団の解説

https://www.rockefellerfoundation.org/national-covid-19-testing-action-plan/

https://toyokeizai.net/articles/-/339154

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-04-23/Q98S39DWLU7C01

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO57889990Z00C20A4MM8000/

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dai77/siryou5.pdf?fbclid=IwAR1y22M_v9MXIZSr6wxLsat4Jl0KX0KWso4PR2U42q4vt6wqarwHcNiap0Q

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/novel_coronavirus/th_siryou/sidai_r020424.pdf

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