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【掌編小説】あたしの人形

誕生日のプレゼントにパパとママが人形をくれた。金髪のさらさらした長い髪がとてもきれいで、目のぱっちりとしたかわいい女の子だ。あたしは一目でその人形を気にいった。その夜は人形と一緒にベッドに入った。その人形は瞳を自由に閉じたり開いたりできる仕掛けになっていて、電気を消す前に人形の瞳を閉じた。目を閉じると長いまつげがとてもきれいで、本当の人間みたいだった。目を閉じた人形を抱いていると、一緒に眠っているようで、あたしは朝までぐっすりと眠った。
目をさました瞬間、あたしはびっくりして小さく声を上げてしまった。目の前の人形の瞳がぱっちりと開いて、じっとあたしを見つめていたのだ。昨日はかわいいとおもっていた顔が、すぐ目の前で見つめられると、少し怖かった。あたしはあわてて指で人形の瞳を閉じた。なんで勝手に瞳が開いたのだろう。瞳を閉じた人形を逆さにしたり横にしたり、振ってみたりしたが、瞳は閉じたままだ。もう一度指で開かなければ開かない仕組みになっているはずだった。
その夜、いったん人形を抱いてベッドに入ったが、明かりをけしてから、もう一度起きあがって、人形をベッドの横の本棚の上に載せた。念のため、顔を壁の方を向けて瞳が閉じていることを確認して置いた。
翌朝、目を覚ましたあたしは、思わず小さく声をあげた。棚に置いたはずの人形が、いつの間にかあたしの枕もとに座って、しかも絶対に閉じたはずの瞳が大きく開いてあたしを見ていた。気のせいか瞳が大きくなっているような気がした。
その夜、あたしは人形をクローゼットの中に入れてしっかりと扉を閉めてベッドに入った。もちろん瞳は閉じておいた。
翌朝、ベッドから身を起こしてあたしは恐る恐るクローゼットの方を見た。人形の姿はなかった。ほっとしてベッドから出ようとして、あたしは大声で叫んでしまった。あたしのお腹の上に人形が座ってあたしを見ていた。いや、見ていたというより、にらんでいた。あたしは人形をつかんで壁に何度も叩きつけた。人形はバラバラに砕けた。
学校から帰って、そっとドアを開くと人形はバラバラのままだった。けれども、床に落ちた二つの瞳は、ギラギラ光を放ちながら、あたしをじっと見つめているのだった。(了)

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