最後の出勤日|日記|2022/4/10

四月十日(日) 晴れ

BOOKOFFバイト、最後の出勤。

駅までの道。歩きながら桜が散り始めている様を眺め、いつもより小鳥たちの囀りや羽ばたきに耳を傾けた。そして植物は鳥や虫たちに花粉を運んでもらえるように進化し、鳥や虫たちは植物の花粉を運ぶように進化したことについて考え、ふとこんなことを思った。僕たち人間も森林など環境を破壊するようにただ進化しただけであって、そこに良いも悪いもないのではないかと。「地球のために」と掲げているフレーズがあるけれど、地球自身がそのような状況へと導いたのではないかと。緑が増えたからといって、地球にとっては何の意味もなさないのではないかと。朝からそんなどうにもならないことを考えていた。

バイトはいつもの業務をいつものように坦々とこなした。客数もいつもの休日と変わらないぐらいで、補充も買取も特に何の問題も起こらなかった。レジでの接客は八人ほどのお客様にアプリ登録をしてもらうことができた。

昼休憩では岡潔・小林秀雄「人間の建設」を読み耽った。今日読んだ中では、次の一文が印象に残った。

言葉で言いあらわすことなしには、人は長く思索できないのではないか

言葉で言い表せないことは確かにあると思う。けれど、それは自分ではどうすることもできない、手の届かないところに存在している。言葉で捉えるとは、その曖昧なものに形を与え、実感を掴むことだと思う。そして色々な言葉や表現を知っていれば、それだけ繊細な形を与えることができる。決して言葉では言い表せないものに到達することはないのだけれど、限りなく近づいていけるのではないか。僕は本を読み、いろんな表現に触れることで、自分自身を深く見つめたい。

退勤後、最後の社割で好きな本をたらふく買い漁った。

古井由吉「杳子・妻隠」
三島由紀夫「午後の曳航」
森鴎外「阿部一族・舞姫」
サン=テグジュペリ「人間の土地」
村上春樹「海辺のカフカ」上下
村上春樹「辺境・近境」
村上春樹・松村映三「辺境・近境 写真篇」 
全て新潮文庫。

それから従業員の一人一人に軽く挨拶をして回った。その中でもBOOKOFFで八年ほど働かれているTさんが「砂肝君ならどこへ出てもやっていけるよ。」と熱いエールをくださった。Tさんとはバイト中それほど多くの言葉を交わしたわけではないのだけれど、どこか僕のことを認めてくださっているような雰囲気を感じていた。それを今日、最後の出勤日に言葉として伝えてくださって、心の奥底がじんわりと温かくなった。感無量だった。自分も人をこんな気持ちにさせれるような人間になりたいなと思った。

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