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苦しく辛い事は、桐龍の油でながす

 私が美味しいお店と聞かれて真っ先に答えるのが埼玉県川口市の東川口駅から行ける麺屋桐龍だろう。二郎系にインスパイアされた桐龍はこってり濃厚の豚骨スープと極太自家製麺が特徴だ。ラーメン小の食券を券売機で買うのだが、そこから桐龍での私の食事がスタートすると言っても過言ではない。二郎系ラーメンは食べる前も含めて味わい尽くすのが私の流儀だ。店内に入ってすぐ左手に券売機が置いてある。まぜそばや辛いラーメン等、魚粉や卵など色々なメニューやトッピングが目を光るが、私はいつも、ラーメン小、チーズと玉ねぎを頼む。店内はいつも人がひしめきあっていて、私に桐龍を感じさせる。カロリーの摂取を目的とした人たちが真剣な眼差しで厨房を見つめる真剣な空間が私は好なのだ。

店員に呼んでもらい真っ赤に塗られたカウンターに到着し、食券を店員に渡し、「硬めでお願いします」と伝えたらまずは一息。ゆっくりと立ち上がり慣れた手つきで、セルフサービスのお水を取りに行く。そこからは他の客と同様に真剣な眼差しで厨房を見つめ、特製ラーメンが出来上がるのひたすらに待つ。ワクワクとソワソワ、色々な感情が私の中でうずめき合ってるこの時間が人生で一番長く感じる。店員たちがリズミカルに湯切りをし始めたら勝負開始の合図だ。喉の調子を整え、コールに備える。右や左から順に無料トッピングについて聞かれる。「ヤサイアブラニンニクマシマシ」「ヤサイマシマシアブラカラメ」呪文が店内を飛び交う。ついに私の番が回ってくると負けじと大きな声で「ヤサイスクナメアブラマシニンニクマシマシ」と伝える。

運ばれてきた大きな器に私の胸の高鳴りは抑えられない。店員からラーメンを受け取り、箸を手にしたら、いよいよお待ちかねの桐龍ラメーンとのご対面だ。白濁としたスープに浮かぶヤサイや大きなチャーシュー。トッピングに添えた玉ねぎがキラリと光る。ヒヤリと私の額に汗が滴ってきたら、始まりのゴングが鳴る。ヤサイを頬張り、麺になどりついたらそこからは止められない。こってりとしたスープを口いっぱいに頬張り、ガツンと効いたうまみを脳みそで感じる。ここでいつも夢中になりすぎて、気がついたら食器は空になっている。

食べ終えたらそそくさと身支度。器を返却し、机を拭く。余韻にひたるまもなくそそくさと退散するのが私の流儀だ。店員に小声で「ごちそうさま」と言い、お腹をさすりながら店を後にする。私は嫌なことも辛いことも桐龍のラーメンで、油にながす。店外へ出た後の空はなぜか入店時より輝いて見えた。


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