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スピッツ全曲ソートTOP50雑考④ (20位〜11位)


 記事を開いていただきありがとうございます。今回も引き続き個人的趣向だけで選んだスピッツの楽曲トップ50についてお話ししていきたいと思います。前回の記事ではまさかの1万字越えをしてしまい、今回はどうなっちゃうんだと不安を募らせてます。とか言って案外短いかも。

 例によってこれまでの記事を貼っつけておきます。一番最初の記事にも画像設定すれば良かったな。


 今回のこのトップ50楽曲について書く企画は、何となく自分の中にある「スピッツらしさってこういうことだと思う」とかそういうものを言葉にしつつ好きな曲を紹介したいという思いで始めたものなので、是非過去の記事を読んだことがない人は読んでほしいです。生意気にスピッツについて色々書いてます。



 スピッツのディスコグラフィーも載せておきます。当たり前のように「アルバム『〇〇』は××で〜」とか書いちゃうので、どれくらいの時期に出たアルバムなのか知りたい時などに適に参照してください。シングルまで載せちゃうといかつくなっちゃうので引き続きアルバムだけ。

【インディーズ 】
ミニアルバム『ヒバリのこころ』(1990年3月21日)

【メジャー】
1stアルバム『スピッツ』(1991年3月25日)
2ndアルバム『名前をつけてやる』(1991年11月25日)
ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』(1992年4月25日)
3rdアルバム『惑星のかけら』(1992年9月26日)
4thアルバム『Crispy!』(1993年9月26日)
5thアルバム『空の飛び方』(1994年9月21日)
6thアルバム『ハチミツ』(1995年9月20日)
7thアルバム『インディゴ地平線』(1996年10月23日)
8thアルバム『フェイクファー』(1998年3月25日)
※ep『99ep』(1999年1月1日)
※スペシャルアルバム『花鳥風月』(1999年3月25日)
9thアルバム『ハヤブサ』(2000年7月26日)
10thアルバム『三日月ロック』(2002年9月11日)
※スペシャルアルバム『色色衣』(2004年3月17日)
11thアルバム『スーベニア』(2005年1月12日)
12thアルバム『さざなみCD』(2007年10月10日)
13thアルバム『とげまる』(2010年10月27日)
※スペシャルアルバム『おるたな』(2012年2月1日)
14thアルバム『小さな生き物』(2013年9月11日)
15thアルバム『醒めない』(2016年7月27日)
16thアルバム『見っけ』(2019年10月9日)
※スペシャルアルバム『花鳥風月+』(2021年9月15日)



 それでは以下で20位〜11位の楽曲について書いていきたいと思います。とその前に、これまでなんとなく全文敬体で書いていたのですが少し大変になってきたので本文は常体で書きたいと思います。




第20位: 正夢

 第20位にはアルバム『スーベニア』から「正夢」がランクイン。29thシングルでもあるこの曲は、印象的なサビのフレーズとミドルスイッチに入ったエレキギターのリフが特徴的な『スーベニア』期らしいポップナンバー。

 イントロのギターリフは終始ハイポジション。構成音はレ・ソ・ラ・シの4音だけで、複雑なメロディーラインではなくいたってシンプルではあるものの、そうは感じさせないインプレッシブさがある。

 「ハネた髪のまま飛び出した 今朝の夢の残り抱いて」という歌い出しは生活感にあふれていて可愛い。その後の「冷たい風 身体に受けて どんどん商店街を駆け抜けていく」も合わせて、実に日常を感じさせるようなフレーズだ。

 「どうか正夢 君と会えたら 何から話そう 笑ってほしい」と歌うサビはキャッチーで至ってストレート。個人的な考えだが、「正夢」が収録されたアルバム『スーベニア』あたりからスピッツのシングル曲はよりマスを意識し始めたように思う。前作『三日月ロック』に収録されたシングル群のように「さわって 変わって」とサビで高らかに歌うこともないし、サビの歌詞が全部スキャットなんてこともない。同時期には2つ前の記事で紹介した「スターゲイザー」も発表しているし(こちらは『スーベニア』には収録されず、スペシャルアルバム『色色衣』に収録される運びになったが)、この辺りから "国民的バンド・スピッツ" としての歩みが始まったという感じがする。

 そんな "国民的バンド・スピッツ" なシングルではあるものの、相変わらずなスピッツらしさもまた顔を覗かせる。1番のサビ終わりに歌われる「ずっと まともじゃないって わかってる」なんかは、まさにスピッツらしい一節だ。

 実は最近この曲のライブ映像が「猫ちぐらの夕べ」のDVD&Blu-ray発売に先駆けて公式YouTubeチャンネルで公開されました。お仕事終わりの夜なんかに聴くとギターの音圧やピンク色の照明にじーんとしちゃって心安らぐと思うので、是非多くの人に見てほしいです。個人的には最後にギターのテツヤさんが感慨深そうに客席を見つめているシーンが好きです。



第19位: サンシャイン

 第19位にはアルバム『空の飛び方』から「サンシャイン」がランクイン。

 アルバム『空の飛び方』のラストを締めくくる曲にして、乾いた空気感の漂うシリアスな雰囲気の曲。「サンシャイン」というタイトルではあるもののなんだか殺風景というか、灰色の景色が見えるような感じがする。アルバム『空の飛び方』の中での「青い車」→「サンシャイン」の流れは秀逸。

 ドラムのフィルインで始まるイントロはリードギターの音色が特徴的。バッキングで鳴っているカッティングギターといい、ギターワークが特に聴き逃せない一曲だと思う。

 サビで歌われる「白い道はどこまでも続くよ」というフレーズは、なんとなく「恋のうた」に登場する「ミルク色の細い道」を思わせる。マサムネさんにとって「白い道」とはなんなのか、考えさせてくれるようなフレーズでもある。

 そしてサビの最後で歌われる「寒い都会に降りても 変わらず夏の花のままでいて」というフレーズはとても切ない。この曲の大きなテーマが分かるとともに、スピッツ的な詩的表現が光る一節だ。「変わらない君でいて」みたいな感じで歌うよりも、「夏の花」とすることで一気に鮮やかで照り映えるようなイメージを「君」に対して抱くことができる。都会に汚されないでと願う主人公の気持ちが、よりひしひしと伝わってくるような感じがするだろう。

 スピッツは、なんとなく街や都会を敵としている傾向にあると思う。むしろ「街」や「掟」、「世界」から逃げ出そう(逃避行)とするのがスピッツであり、これまでにも紹介したようにそういった曲がとても多い。しかしこの曲ではなんらかの事情により「君」は「都会」に行ってしまう。それを踏まえたうえで、そんな「君」に対して「寒い都会に降りても 変わらず夏の花のままでいて」と願う主人公の心情を想像するといじらしくてグッとくる。



第18位: 仲良し

 第18位は、アルバム『フェイクファー』から「仲良し」。この曲はシングル「運命の人」のカップリング曲でもあるが、『フェイクファー』でも曲順が連番になっている。

 イントロでかき鳴らされるアコースティックギターはF→Fadd9→Fsus4→Fのコード進行。至ってシンプルな演奏でたった2分41秒しかないのがミニマムで可愛らしい。中期のスピッツが花開かせた、ピュアで切ない恋心を描く一連の楽曲群の中でも特に青くていじらしい曲だと思う。

 まず歌い出しがいい。

いつも仲良しで
いいよねって言われて
でもどこかブルーになってた
あれは恋だった

 スピッツだからこそ歌える歌詞の極限という感じ。少年の日々のような恋心をここまでピュアに切り出せて、それを歌えるのはスピッツだけだろう。中期には他にも「初恋クレイジー」という楽曲があるけれど、どちらかというとこの曲の方が初恋感というか幼かった日々の淡い恋心的なニュアンスが強いと思う。

 「サンダル履きの足指に見とれた 小さな花咲かせたあれは恋だった」というフレーズには分かりやすくスピッツ的なフェチズムが顔を覗かせる。スピッツの曲を聴いていると時折登場する意外な身体な部位への着目は、マサムネさんの好みが見え隠れするようで面白い。「意外な身体の部位への着目」なんて書いちゃうとおカタい変態みたいな感じがしちゃうけど。

 2度目のサビが終わると歌い出しのフレーズに戻り、そしてあっさり曲が終わるのもまた良い。短い曲だからこそ感じさせてくれる感慨があるし、何よりも「あれは恋だった」で終わるのが切ない。



第17位: 君と暮らせたら

 第17位はアルバム『ハチミツ』から「君と暮らせたら」。この曲は『ハチミツ』のラストを締めくくる楽曲であり、同アルバムらしいキラキラとしたギターポップではありつつもアルバムの最後の曲としてしっかりと存在感を見せつけてくる一曲である。

 イントロのエレキギターの音色には、曇った心でも明るく晴らしてくれるような前向きなパワーがある。アコースティックギターの軽快なストロークもそんなエレキギターの音色やメロディーに調和していて、イントロだけで特効薬のように爽やかな心地になれる楽曲だと思う。


 緑のトンネル抜けて 朝の光に洗われるような
わずかな微笑みさえも 残らずみんな分けあえるような

 やはり名曲は歌い出しがいいんだなと思う。イントロのサウンドで見せた眩さもそのままに、歌詞でも鮮やかな緑と降り注ぐ陽光を思わせ、聴き手が抱くイメージをさらにさらに美しく研ぎ澄ましている。個人的に、歌い出しが「緑」で始まるのがアルバム『ハチミツ』のジャケットとリンクしてよりイマジナブルに響く感じがする。

 3度訪れるサビではいずれも「君と暮らせたら」というタイトル回収のフレーズが登場する。スピッツの楽曲群の中でも屈指のサビの短さ(ちゃんと測ったことはないけどもしかしたら1番短いかも)ではあるものの、マサムネさんの高音が天まで高く伸びていきそうなほど心地良くて、短いながらも印象に残る一節。

 この曲の肝はなんと言っても最後のセクションであろう。ラストのサビが終わるやいなや突然に転調して始まるこのセクションでは、虚しくも「十五の頃の スキだらけの 僕に笑われて 今日も眠りの世界へと すべり落ちていく」と歌われる。君と暮らすことを願っている自分を自嘲しつつも、最後はまた君と暮らす夢を見ようと眠りに落ちていくさまはどうしようもなさに溢れている。キラキラしたサウンドで「君と暮らせたら」と願うだけの歌で終わっても良かっただろうに、最後の最後でこのフレーズを差し込んでくるあたりがスピッツイズムを感じさせる。



第16位: みなと

 第16位はアルバム『醒めない』から「みなと」がランクイン。41stシングルでもあるこの楽曲はNTTのCMで使用されたことがあるのでもしかしたら聴き覚えのある人も多いかも。スピッツファンにとってはあの伝説の「Mステ歌い出しミスり事件」の印象も強いだろう。僕の実家のレコーダーには未だに録画が残っているが、帰省するたびに見返している(悪趣味)。

 モジュールがかかったアルペジオで始まるイントロは比較的落ち着いた印象。そしてそんなイントロの裏ではやはりベースが暴れていてなんともスピッツらしい。個人的に、「みなと」は他の楽曲よりも特にベースラインがうねりまくっている印象がある。僕はベースを弾かないのでベースについてあまり詳しくは言及できないのだが、田村さんのベースは「バリバリ」という音色感があって、その「バリバリ」加減とうねりまくるラインが楽曲に新たな色を添えていると思う。「バリバリ」でとにかくうねりまくっているのに曲の邪魔をしないのもまた凄いところ。ライブでのベースラインがかなりいかついので、聴ける機会があったら聴いてほしい。そういえば、10月19日に「みなと」も収録されているライブ映像が発売されたような…

 この曲で僕が一番好きなのは歌い出しのフレーズだ。この歌い出しには、たった1行で聴き手にその奥を想像させる力がある。

船に乗るわけじゃなく だけど僕は港にいる

 恋愛の酸い甘いを歌っているわけでもなく、死生観が垣間見えるような歌詞でもない。とりとめもない詩に思えるかもしれないけれど、船に乗るわけでもないのに何故か港にいるその理由だとか、主人公の置かれた状況だとか、そういったものをこの1行だけで聴き手に多様に想像させてくれるような端的で奥行きのある詩だと思う。


遠くに旅立った君の
証拠も徐々にぼやけ始めて
目を閉じてゼロから百まで
やり直す

 おそらく「港」は「遠くに旅立った君」との何かしらの思い出がある場所なのだろう。上記はそんな港にいる「僕」が君との思い出を噛みしめている2番サビ前だ。「目を閉じてゼロから百までやり直す」というフレーズが特に好き。「君」との思い出の輪郭を時の流れが徐々にぼやけさせていく中で、それを忘れたくない主人公の気持ちが伝わってくるような感じがして切ない。「君」はどこへ旅立ったのだろうか。

 間奏がギターソロでなく口笛なのもこの曲の醍醐味。主人公が港で一人吹いている口笛が風に乗って空に消えていくような、そんな哀愁をたたえている。そんな哀愁漂う間奏からラスサビに入ると、さっきまでの哀愁を吹き飛ばすかのようにベースラインがより一層の迫力をもって襲ってくるのがまた聴きどころ。やはりこの曲はベースラインが良い。



第15位: 夜を駆ける

 第15位にはアルバム『三日月ロック』から「夜に駆ける」がランクイン。近年この曲に酷似したタイトルの曲が瞬く間にヒットチューンとして世に飛び出しこの曲が「じゃない方」みたいにされつつあるが、こちらの方が先に発表されているしこちらは「夜 "を" 駆ける」なので、この記事を読んでいる方でスピッツ初心者の方は絶対にスピッツ好きな人の前で間違えないよう気をつけてほしい。

 なんだか恨み言みたいな感じになってしまったけど、どちらの方が良いとか優劣をつけるつもりはないし、「に」の方も良い曲だと思います。ブラウザで「夜を駆ける」と検索すると「に」の方が先に出てくることには少し感じるところがありますが。

 この曲は00年代スピッツの代表曲と言い切っても遜色ないだろう。ソングライター・草野マサムネがこれまで描いてきた「逃避行」の中でもひときわ危うく幻想的な歌詞世界を持つこの曲には、かつてマサムネさん自身がインタビューで語っていたスピッツの楽曲における2つの大きなテーマ「セックス」と「」の要素が円熟した筆致で顔を覗かせており、それらの要素がさらに今回の「逃避行」をドラマティックに仕立て上げる。

 オケについては、まずイントロがとにかく良い。アコギのストロークをバックに響くピアノの音は静謐な雰囲気をたたえていて、夜の静けさを感じさせる。歌が始まってもしばらくはこのピアノとアコギのサウンドだけで静かに進んでいくのだが、途中でドラム、ベース、そして最後にエレキギターが加わって次第にバンドアンサンブルを形成していく。

 そしてこの曲は特にドラムのプレイが光っている曲だと思う。僕はドラムを叩いたことがないし叩けないので第1回の記事から一貫してドラムプレイのことについては言及を避けてきたが、そんな僕でも自信を持って「この曲のドラムは凄い」と太鼓判を押せるほどにこの曲のドラムは聴き手に迫ってくる。サビで躍動するドラムは特に凄まじく、夜を駆ける二人の胸の高鳴りや疾走感が実感をもって伝わってくるような、そんな迫力があると思う。


似てない僕らは細い糸で繋がっている
よくある赤いやつじゃなく

 ここの表現が特に秀逸だなと思う。よくある「運命の赤い糸」で繋がっているわけではない、至ってか細い糸で繋がっている「似てない僕ら」はそれでも惹かれあい、夜を駆けて行く。

 夜を駆けて行く二人だが、その行き先は「遠くの灯りの方」と明瞭ではない。「でたらめに描いた バラ色の想像図」というフレーズがあるが、でたらめでしかない「バラ色の想像図」に気持ちを委ねて駆け出しているあたり、底知れぬ危うさを覚えてしまう。二人はどこへ駆けていくのだろうか。

 2番のサビ前「転がった背中 冷たいコンクリートの感じ 甘くて苦いベロの先 もう一度」は聴き手の五感をくすぐるようでとても艶かしい。二人の語らいが見えてくるようなこのフレーズは、この曲が描くドラマに新たな展開をもたらしてくれる。

 「似てない僕ら」の逃避行を切なくも儚く、そして危うげでドラマティックに描き出したこの曲は間違いなく00年代スピッツの代表曲と言えるだろう。二人が駆けて行く先を想像するとゾッとしてしまうような感じがするけれど、その目的地が不穏であればあるほど「目と目があうたび笑う」も「甘くて苦いベロの先 もう一度」もより特別な意味を持って響いてくる感じがする。個人的にスピッツの歌詞解釈において何でもかんでも無理やりに「セックス」と「死」の解釈に結び付けるのはあまり好きではないけれど、この曲にはそんな解釈を当てたくなってしまうようなドラマティックさ、ロマンティックさがあると思う。90年代を経て00年代に突入したスピッツの円熟極まった歌詞世界を楽しみながら聴いてほしい。




第14位: 渚

 第14位はアルバム『インディゴ地平線』から「渚」。14thシングルでもあるこの曲はスピッツ初のオリコン週間ランキング初登場1位を獲得した曲でもある。発売当時はポッキーのCMのタイアップが付いていたが2015年にはスバルのフォレスターのCMソングとして再びタイアップが付くなど、現在でも「ロビンソン」や「チェリー」同様その人気が衰えない曲の一つと言えるだろう。

 アルバムではシングルCDの音源にはないシーケンサーの音が曲冒頭に入っているのが特徴的。個人的にはアルバムバージョンのシーケンス始まりのイントロの方が情緒があって好き。

 日本の夏曲にはTUBE的なアッパーチューンの夏曲はたくさんあるけれど、スピッツはそんな夏の高揚感に満ちた側面ではない、どこか切なくて情緒的な姿を切り出すのが上手い。というか、スピッツの持つノスタルジックな雰囲気と我々日本人が夏の終わりだとか少年時代の夏休みを思い出して感じる "もののあはれ" みたいなものの親和性が高いんだと思う。それでいて、そんな夏の情感をバラードチックに仕立て上げずにポップなナンバーとして成立させるのもスピッツの魔法。

 マサムネさんがシーケンサーで遊びながら作ったこの曲は、マサムネさんが作った原曲に沿って1番ではあまりベースが登場せず、冒頭からシーケンスの音が低音域を埋めている。しかしサビの途中から入ってくるベースはメロディアスに曲を彩り、決してベースラインも見逃せない。むしろこの曲はベースラインもそうだしドラムもなかなかに聴きごたえがある。リズム隊(ベース・ドラム)が形作る土台の上でギターが情感たっぷりに鳴っている、みたいな曲。


ささやく冗談でいつもつながりを信じていた
砂漠が遠く見えそうな時も
ぼやけた六等星だけど 思い込みの恋に落ちた
初めてプライドの柵を越えて

 スピッツが描く片思いはいつも切ない。いわゆる「片思いソング」(そんな書き方をしちゃうとなんだか野暮だけど)は多くあるけれど、この曲ではそれに夏の情景が加わって、より切なさだとかノスタルジックさが増幅されて聴こえる。

 そしてノスタルジックな側面もあるものの、やはりこれまで同様妄想少年なスピッツらしさは消えない。「ねじ曲げた思い出も 捨てられず生きてきた ギリギリ妄想だけで 君と」ではハッキリと「妄想」と言っちゃってるし、まだそこら辺の独りよがりな感じは消えないけれど、そんなギリギリな妄想で突き進んでいく感じもサビの美しさがすべて包み込んでくれる感じがする。

柔らかい日々が波の音に染まる
幻よ 醒めないで
渚は二人の夢を混ぜ合わせる
揺れながら 輝いて




第13位: 涙がキラリ☆

 第13位はアルバム『ハチミツ』から「涙がキラリ☆」。12thシングルでもあるこの曲は、本人たちの意向で七夕に発売されたことでもお馴染みの一曲。思いがけず2曲連続で夏の曲になったが、切なさとかノスタルジーとかそういう要素を含めて、やはりスピッツは「夏」と相性が良い。

 この曲最大の謎はどう考えても「☆」だろう。なぜ11thシングル「ロビンソン」が大ヒットし、この先のスピッツを考えたときに最も大事になるであろうこの12thシングルのタイトルに☆を付けたのだろうか。考えれば考えるほど分からない。スピッツのキャリアにおいてタイトルに「!」「?」以外の記号が付く曲がこの曲だけなのも含めて面白い。

 ☆の話は置いといて、サウンド面においてはイントロのドライブがかかったエレキギターがとにかく力強い。リードのチョーキングも含め、シングル曲で言うと「惑星のかけら」以来見せてこなかったようなロックなアプローチだ。前作の「ロビンソン」で急に売れてしまって世間に知られるところとなったから、前作とは真反対のアプローチを仕掛けてみたのだろうか、とも思う。


目覚めてすぐのコウモリが 飛びはじめる夕暮れに
バレないように連れ出すから カギはあけておいてよ

 ある夏の夕方に「君」をこっそり連れ出して二人で星を見ようとする主人公。あまりにも淡い夏の一幕だ。


君の記憶の片隅に居座ることを 今決めたから
弱気なままのまなざしで 夜が明けるまで見つめているよ

 ブリッジのこのフレーズには思わず心を掴まれる。「君の記憶の片隅に居座」ろうと決心する僕はそれでも「弱気なまま」で君を見つめていて、「居座る」という虚勢に満ちた言葉と弱気な僕とのギャップに切なさだとかいじらしさを感じてしまう。

同じ涙がキラリ 俺が天使だったなら
本当はちょっと触りたい 南風やって来い

 実はこの2番のサビについてはマサムネさん本人が説明を付している。曰く、「俺が天使だったらいろいろホーリーな気持ちでこの夜を過ごせるんだけど、やっぱりやましい気持ちがいっぱいあって『どうしよう~?』みたいな、そういう17歳ぐらいの心情を保っている曲なんですよ」とのこと。完全にピュアな気持ちで君と過ごしているわけではなく、少し思春期のやましい感情もありながら、だけど「本当はちょっと触りたい」と思うにとどまっているのが実にスピッツらしい。




第12位: 愛のことば

 第12位は2連続でアルバム『ハチミツ』から「愛のことば」。この曲はキラキラしたギターポップがひしめくアルバム『ハチミツ』の中で異質なダークさを放っているが、決してアルバム全体から浮くことなく、このアルバムに違う表情を持たせてくれている一曲だと思う。そしてアルバムに関係なく、曲単体としてもスピッツのキャリアにおいてひときわ大きな存在感がある。

 発表されたのは1995年であるが、2014年にフジテレビ系列のドラマ「あすなろ三三七拍子」の主題歌のタイアップが付いたことでシングルカットされたという珍しい経歴を持つ曲。この曲といい先ほど紹介した「渚」といい、スピッツの曲はしばしば発表されてだいぶ経ってからタイアップが付くことがある。マサムネさん本人も「スピッツの音楽には時代性がない」と話しているが、「時代性がない」からこそ逆にどの時代でも普遍的に受け入れられる魔力があるのだと思う。

 この曲は後にドラマ主題歌としてタイアップが付いてシングルカットされる以前、1995年の発表当時から既にMVが作成されているのだが、スピッツ史上最も残酷で救いがなく、乾いた質感のMVになっている。そもそもスピッツはそういったMVを作成するような音楽性ではないのでこの曲だけがかなり稀有な例ということになるのだが、鳥のおもちゃがタイヤにあっけなく潰されるさまや人体実験など、思わず目をそむけたくなってしまうようなシーンが多く差し込まれている。同じアルバムに収録されている「ハチミツ」の可愛くてポップなMVを見てからこれを見るとギャップで面食らってしまうほどにシリアスで残虐だが、この曲の「世界」に対する絶望的な認識を視覚を通して感じられるような作品になっているのでぜひ見てほしい。



 イントロではスピッツらしいアルペジオが、しかしキラキラとした雰囲気ではなくどこか哀愁を漂わせながら奏でられている。

限りある未来を 搾り取る日々から
抜け出そうと誘った 君の目に映る海

 歌い出しであるが、早速「逃避」を思わせる一節。「限りある未来を 搾り取る日々」というフレーズにはそこはかとなく不穏を感じる。もしかしたらこの二人に残された時間はもう長くはないのかもしれない。そんな「君」の目に映っている逃げ場所が「海」なのも、聴き手の解釈に無限大の可能性を持たせている。

優しい空の色
いつも通り彼らの
青い血に染まった
なんとなく薄い空

 世界に対する認識に完全に熱がなく、虚無や残虐さすら感じさせるけど、だからこそ「君の目に映る海」がより希望を持った逃げ場所として浮かび上がってくる。「愛のことば」というスイートなラブソング然としたタイトルからは想像もつかないくらい救いのない世界が描かれているけれど、そんな世界の中だからこそ「愛のことば」がより一層の意味合いを持って僕ら二人の間に存在するのかなとか考える。

雲間からこぼれ落ちてく
神様達が見える
心の糸が切れるほど
強く抱きしめたなら

 個人的に、ミドルエイトのこのフレーズがかなり好き。雲間からこぼれ落ちてくる何を「神様」と呼んでいるのかは分からないけれど、その「神様」は二人に現世で希望をもたらす存在なのか、それともこの世界を終わらせるような途方もない力を持つ存在なのかは分からないけれど、とにかくこのフレーズにはかけがえのない美しさがあると思う。





第11位: 空も飛べるはず

 第11位はアルバム『空の飛び方』から「空も飛べるはず」。とうとうこの曲が来た。

 8thシングルでもあり「ロビンソン」「チェリー」と同じくらい有名であろうこの曲。音楽の教科書に掲載されたり合唱で歌われたりもするらしく、まさにスピッツを代表するポップナンバー、という感じだろう。世間的には。

 スピッツ史的に言うとアルバム『Crispy!』で無理矢理に大衆を意識した結果泣かず飛ばず、でも「君が思い出になる前に」がちょっとだけヒットしてさぁこれからというタイミングで発表された一曲であるが、『Crispy!』発表からの半年の間で何があったんだと言いたくなるほどに完成されている。『Crispy!』収録のシングル「裸のままで」のようにホーンやストリングスを多用して無理矢理に明るいみたいな感じもなく、肩の力を抜いたシンプルなバンドサウンドのみで構成されていてかなり等身大な雰囲気がある。

 この曲は発表された当初(1994年)はオリコン最高順位28位とそこそこの売れ行きだったのだが、1996年にドラマ「白線流し」の主題歌に起用されたことでリバイバルヒットを果たしオリコンで1位を獲得、そして現在まで続く人気を獲得したという稀有な曲でもある。もし「白線流し」のタイアップが付いていなかったら "隠れた名曲" くらいの扱いだったのかもしれないと考えると何事もタイミングとか縁なんだなと思わされる。

 この曲は何よりもまずサビの歌詞の話をしたい。

君と出会った奇跡が この胸にあふれてる
きっと今は自由に 空も飛べるはず

 今日まで、どれだけの人がこの詩にその心を委ねてきたのだろう。「君」に出会えたその奇跡と高揚感で「空も飛べるはず」と感じる主人公に多くの人が自らを重ね、この曲を青春の1ページに刻んできたことだろう。そんなスピッツを代表する名曲「空も飛べるはず」であるが、決して毒のないまっすぐなポップソングではなく、むしろ噛めば噛むほど一見した時のポップさに隠れていた裏側の世界が見えてくるような曲だと思う。


幼い微熱を下げられないまま 神様の影を恐れて
隠したナイフが似合わない僕を おどけた歌でなぐさめた

 多分「空も飛べるはず」のサビだけ聴いて良い曲!となった人の大半が、実際聴いてみたときにこの歌い出しでポカンとするんじゃないかなと思う。歌詞の一語一語を逐語訳的に分解して解釈したりはしないけれど、ともあれこの箇所では主人公は「神様の影を恐れて」いる。明らかに何かしらの道徳に背いたことを示唆するこのフレーズにはかなり不穏のエッセンスがある。

 ブリッジは「色褪せながら ひび割れながら輝くすべを求めて」と、実はかなりスピッツらしい "壊れよう" を見せている。ちょっと時代は後になるけれど「冷たい頬」という曲では「壊れながら君を追いかけてく」と歌ったり、「初恋クレイジー」という曲では「例えば僕が戻れないほどに壊れていても」と歌ったり、『空の飛び方』以降のスピッツには「君を追いかけて壊れていく」姿が多く描かれがちだと思う。やはりこの曲は単に「君と出会った奇跡」を朗らかに歌う曲じゃない。

 2番のサビでは「ゴミできらめく世界が僕たちを拒んでも ずっとそばで笑っていてほしい」と歌っている。「世界」や「街」、「掟」を拒絶し逃避行を図るスピッツらしい「世界」に対する認識であるが、この箇所についてマサムネさんは「無理矢理世界を敵に仕立て上げることで "世界 vs 君と僕" という対立構造を作り上げている」という旨の説明を付している。なんだか、情けない主人公の姿が浮かんでくるような感じだ。

 「空も飛べるはず」のポップさが大好きだという人からしたらこの文章はもう蛇足も蛇足だったかもしれないが、やはりこの曲についてはそういう一面も知ってほしい気持ちがある。最後になるが、実は「空も飛べるはず」にはアレンジや歌詞がところどころ違う原曲が存在するのだが、その原曲のサビでは「君と出会えた痛みがこの胸に溢れてる きっと今は自由に 空も飛べるはず」と歌われている。これを知ってこの曲を聴き直すとまた違う感想が得られるかも。




 以上、20~11位の楽曲についてでした。めっちゃ時間かかった…

 次回はとうとう10~1位の曲の記事になります。もういつ出せるかは分かりませんが、ラストスパート頑張りたいと思います。ここまで読んでいただきありがとうございます。

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