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スピッツ全曲ソートTOP50雑考② (40位〜31位)


 この記事では、前回のスピッツ全曲ソート記事の続きを書いていきます。思ったよりもたくさんの方に読んでいただいたみたいで、とても嬉しいです。本当にありがとうございます。

 今回は第40位から第31位までの10曲を取り上げていこうと思います。果たして終わるのはいつになることやら。




第40位: スターゲイザー

 第40位はスペシャルアルバム『色色衣』に収録されており、28thシングルでもある「スターゲイザー」です。

 この曲は「あいのり」(僕もリアルタイムで見ていたわけではないのですが、男女がワゴン車に乗って世界を旅するというコンセプトの、現代でいうテラスハウス的な恋愛リアリティーショーらしいです。)の主題歌のタイアップが付いており、かつ現時点でスピッツ最後のオリコン週間ランキング1位の曲なのですが、それもあってか初期中期的なスピッツの毒成分みたいなものは歌詞にまぶされておらず、全編を通して非常に真っ直ぐな言葉でリリックが紡がれています。誤解を恐れずに言えば「人に勧めやすいスピッツの曲」とも言えるでしょう。

 ミドルエイトに登場する「ありふれた言葉が からだ中を巡って 翼になる」というフレーズが個人的にものすごく好きです。この「スターゲイザー」という曲は "告白の返事を待つ一晩" を描いた曲らしいのですが、このフレーズはおそらく期待や不安に満ちた夜が明け、「君」から返事を聞く瞬間の自分を描いているのでしょう。

 引用した箇所の時点で既に端的で美しい日本語詩なのですが、特にこの中でも「からだ中を巡って」というフレーズが肝だなと思っています。「からだ中を巡って」という言葉一つがあるだけで、『君からの「ありふれた言葉」を心の中で反芻して反芻して体全体まで染み渡るほどに噛みしめている主人公』が見えてくる気がします。この「からだ中を巡って」という言葉一つがあるか無いかでこのミドルエイトを聴いたリスナーが思い描く情景は全く違ったものになると思いますし、あるからこそより多くの人が共感する名曲となっているのだと思います。

 そしてこのミドルエイトの後すぐに「ひとりぼっちが切ない夜 星を探してる 明日君がいなきゃ困る」というバースに戻りあっさり曲が終わることで、「ありふれた言葉」で主人公が翼が生えるほどの高揚感に包まれているミドルエイトはあくまでも主人公の妄想でしかなく、実際はまだ「ひとりぼっちが切ない夜」の中で君を想っているのだと分かるのがまた切なくて良いんです。スピッツの00年代といえばとかく「春の歌」が持ち上げられがちですが、「春の歌」人気はそのままにこの曲にももっと光を当ててほしいです。



第39位: Y

 第39位はアルバム『ハチミツ』から「Y」です。

 この曲はアルバム『ハチミツ』において「ロビンソン」の次の曲であるため、「ロビンソン」を聴き終わった後に冒頭だけちょっと聴いたことがあるという人も多いと思います。そのまま「Y」を聴かずに別の曲を再生した全ての人に「この曲も聴かなきゃもったいないよ!」と伝えてあげたいです。

 同アルバムに収録されている煌びやかなアルペジオが主体のギターポップや歪んだギターによるロックナンバーに比べるとかなり物静かで地味に思える曲かもしれませんが、物静かながらも力強く、情緒的で美しい名曲です。サビから入ってくるアコギの音色は鳥肌もの。

 歌詞は「君」との出会い、そして別れを描いています。「やがて 君は鳥になる」なんて書かれると死別の曲なのかなとも思ったりしますが、そういう極端な思考に至らずともマサムネさんの描く「別れ」は哀しくも美しく、いつ聴いても胸が穿たれます。そしてそんな哀しい別れの曲なのに「悲しいこともある だけど夢は続く 目をふせないで」という前向きな歌詞も入っているのがまたクるんです。繰り返しになりますが、「ロビンソン」目当てでアルバム『ハチミツ』を再生して、「ロビンソン」の後に流れてきても絶対に飛ばさずに聴いてほしい一曲です。



第38位: 見っけ

 第38位はアルバム『見っけ』から、リードトラックである「見っけ」です。

 この曲は、上手く言い表せないんですが「パワー」のある曲だと思います。例えば先に紹介したような「Y」みたいに叙情的で心を穿つ日本語詩の奥ゆかしさがあるわけでもなく、むしろ「ランディの歪んだサスティーンに 乗ってい」ったり「流星のピュンピュンで 駆け抜け」たりとメロディーに好きに言葉を乗っけている印象の強い曲なんですが、それらの言葉一つ一つが耳に残るメロディーのもとで心地よく響いて頭から離れない、リードトラックにしてスルメ曲的な立ち位置の曲だと思います。

 特に冒頭から何度も繰り返される「再会へ!」にはこの曲をどこまでも押し上げる力があると思います。個人的な話になりますが、もともとコロナ前に当選していた『見っけ』のアルバムツアーがコロナで延期になったあげく中止になり、日程などが再編された新ツアーに当選して1年越しにようやくスピッツのライブに参戦できた時に、1曲目に演奏されたこの曲の冒頭「再会へ!」でボロ泣きしてしまったことがあります。そんな思い出補正がありつつも、この曲の大きなテーマであり「!」まで付いて力強く歌われている「再会へ!」はやはりこの曲の肝であり、この曲をどこまでも押し上げる重要なフレーズだと思います。



第37位: 夢じゃない

 第37位はアルバム『Crispy!』に収録されており16thシングルでもある「夢じゃない」です。シングルとしては「スカーレット」や「運命の人」と同じ1997年に発売されているのですが、曲自体は1993年に発表されたアルバム『Crispy!』に収録されているという特殊な経歴を持つ曲であり、「裸のままで」や「君が思い出になる前に」と同時代の楽曲ということになります。

 アルバム『Crispy!』は「初期3部作(『スピッツ』『名前をつけてやる』『惑星のかけら』)での洋楽志向・アングラ志向から抜け出してJ-POPの王道を踏まえた売れ線の曲を志向して失敗した作品」として位置付けられがちですが、この曲や「君が思い出になる前に」など、これからスピッツが確立していく路線の萌芽ともいえる曲が生まれるなど、スピッツ史においては決して無視できないアルバムと言えるでしょう。

 「君に埋もれていく僕」を描いた歌詞はかなり後ろ向きで、この頃のスピッツらしいナヨナヨ加減。「いびつな力で 守りたい どこまでも」という歌詞については、当時メンバーの友人に「"いびつな力で" とか言っちゃうの、本当にダメダメで良いな」という旨のことを言われた、というのをどこかの記事で読んだことがあります(どこで読んだのかは忘れちゃいました。今後見つけたら追記します)。この曲も含め、初期から中期にかけてのスピッツの歌詞は基本的に後ろ向きなんですが、そこに取りつかれる人はものすごく多いんじゃないかなと思います。



第36位: 雪風

 第36位はアルバム『醒めない』に収録されており、40thシングルでもある「雪風」です。

 ドラマタイアップの影響もあり、スピッツにしては珍しい「雪」をテーマにした楽曲。スピッツの代名詞ともいえるギターのアルペジオで幕を開けるこの楽曲は、これまたスピッツらしいうねるベースラインが魅力的。

 スピッツのリーダーでもある田村さんが奏でるベースラインは、おおよそスピッツのパブリックイメージからは想像もつかないくらいにうねりまくっていて、スピッツを聴くうえでの一つの楽しみでもあります。ミドルテンポの楽曲でも、いやむしろだからこそうねりまくるみたいな感じで曲の水面下で暴れまくっているベースラインにも注目して聴いてほしいです。

 そしてこの曲、歌詞が昔のスピッツのような「死」を思わせる雰囲気があります。1番の歌詞は取り立ててそんな要素もないのですが、2番の歌い出し「現実と離れたとこにいて こんなふうに触れ合えることもある もう会えないって 嘆かないでね」あたりはやはりどことなく、もう既にこの世にはいないような、そんな不穏さを聴き手に感じさせます。もちろん必ずしもそういう曲だというわけではありませんが、こういった「不穏成分」はスピッツの醍醐味であり、スピッツを楽しむための一要素だと思います。



第35位: 猫になりたい

 第35位はスペシャルアルバム『花鳥風月』から「猫になりたい」です。とうとう来ましたねこの曲が。スピッツファン、ひいてはそこまでスピッツを知らない人からも何故か根強い人気を誇っているこの曲は今回のソートでは35位におさまりました。

 この曲は「青い車」のカップリング曲であり時代的には1994年の曲なのですが(A面青い車、B面猫になりたいのシングル強すぎる)、この時期のスピッツらしい可愛らしくも可愛いだけでは終わらない狂気性を孕んだ名曲となっています。それもあってかなぜかこの曲は重めの女の子にオススメすると必ず気に入ってもらえます。

 まず出だしの「灯りを消したまま話を続けたら ガラスの向こう側で星がひとつ消えた」という歌詞からして秀逸。夜が明けゆくさまを、「夜が明ける」という言葉を使わずに、聴き手に解像度の高い情景を想起させる形でもって表現するこの一文には思わずため息がもれます。

 そして有名なサビのフレーズ。「猫になりたい 君の腕の中 寂しい夜が終わるまでここにいたいよ」という可愛らしくもいじらしいこの歌詞にどれだけの人が心を掴まれたことでしょう。ただし、繰り返しになりますがスピッツはただ「可愛い」だけでは終わらせません。こんなにいじらしい歌詞を書いておきながらサビの最後に「消えないようにキズつけてあげるよ」という不穏さを落とし込んでくるんです。

 前回の記事でも書きましたがスピッツは「切なさ」「可愛さ」「不穏さ」で構成されているバンドだと思います。そしてこの「猫になりたい」が発表された時期、アルバムで言うと5thアルバム『空の飛び方』の時期は特に「可愛さの陰にささやかな不穏あり」みたいな楽曲が多く、「猫になりたい」はその代表とも言えるでしょう。ぜひ、「寂しい夜が終わるまでここにいたいよ」と歌う可愛らしさ、いじらしさだけではなく、この楽曲に隠れた「不穏」な要素に着目しながら聴いてほしいです。



第34位: 初恋クレイジー

 第34位はアルバム『インディゴ地平線』から「初恋クレイジー」です。

 この曲はタイトル通り、初恋のパワーでおかしくなりながらも突き進んでいく男の子を描いた、中期スピッツ的な非常に可愛い楽曲です。ピアノイントロではあるものの、例えば「楓」のような物静かで寂しげな雰囲気はなく、全体を通して非常にポップで明るげなサウンドになっています。

 歌い出しから「見慣れたはずの街並も ド派手に映す愚か者 君のせいで大きくなった未来」と、恋の高揚感で地に足がつかなくなっているさまをスピッツらしい筆致で描いています。「君のせいで大きくなった未来」というフレーズは端的かつリスナーの心を捉える美しい一文。

 全編を通してひたすらにポップな楽曲かと思いきや、ラスサビ前に挿入されるミドルエイトは少し切ない雰囲気を帯びており、この曲に深みをもたらしています。「泣き虫になる 嘘つきになる 星に願ってる 例えば僕が 戻れないほどに壊れていても」と歌われるこのミドルエイトは、「壊れたって構わないから君を愛し続けよう」という、この時期のスピッツらしい "ピュアゆえにどこまでも突き進んで破滅してしまう" 感じがよく表れたセクションだと思います。



第33位: インディゴ地平線

 第33位はアルバム『インディゴ地平線』からリードトラックである「インディゴ地平線」です。偶然にも紹介する順番が『インディゴ地平線』のアルバム内の曲順と一緒になりました(#2 初恋クレイジー→ #3 インディゴ地平線)。

 アルバムの中でもとりわけBPMが遅い曲であり、ローファイで暗く重たい印象が強いこの曲は、ダークさとポップさが入り混じるアルバム『インディゴ地平線』の要石みたいな曲だと思います。このアルバムはスピッツのキャリア全体を通して見てもかなり音が悪いアルバムなのですが、その音の悪さ、ローファイさこそがこの曲を静かに輝かせていると思います。前作『ハチミツ』のようなハイファイで煌びやかなサウンドだったらこの曲の魅力は半減していたんじゃないかと思うくらい、この曲はローファイさと相性がいいです。

 そして歌詞世界はというと、スピッツのキャリア(特に初期・中期)を通して多く見られる「逃避行」をテーマにした一曲。「歪みを消された 病んだ地獄の街」から「切れそうなロープで やっと抜け出」して、「君と地平線まで」逃避するというストーリー展開は、スピッツらしい「逃避行」を描きながらも、初期の「死神が遊ぶ岬」のようなファンシーな場所ではなく「地平線」と極めて現実的なところに逃げ場所を求めています。初期のファンシーさと中期の現実志向。この辺りの対比も、スピッツを聴いていくうえで一つ楽しめる要素だと思います。




第32位: 小さな生き物

 第32位はアルバム『小さな生き物』からリードトラックの「小さな生き物」です。このソートの記事を書いていて思ったんですが、僕リードトラック好きですね。(まあアルバムを代表する曲ということもあり名曲が多いという理由もあるでしょうが)

 この曲は近年スピッツ(と言っても2013年ですが)らしいあたたかみ、優しさ、慈しみに溢れた楽曲になっています。心が弱った時に聴きたいスピッツの楽曲ソートみたいなのを作ったら個人的に5本の指には入るのかなと思います。

 このアルバム『小さな生き物』は前作との間に東日本大震災を経たうえで発表されたアルバムなのですが、それの影響もあってかこのアルバムは前作『とげまる』や前々作『さざなみCD』と比べると優しく心に響く楽曲が多いです。その中でもこの「小さな生き物」は、優しいだけじゃなく前向きな力強さも持ち合わせていて、折れそうな心を支えてくれる力がある楽曲だと思います。

 「臆病な背中にも等しく雨が降る それでも進む とにかく先へ 有っても無くても」というフレーズには僕も常日頃から助けられています。「進めば何かが見つかる」みたいなことは決して言わず、初めから既に無いことを想定しているのがスピッツらしくて好きなんです。こういうあたり、押し付けがましくなくそっと隣にいてくれるみたいなスピッツの良さを感じます。



第31位: さらさら

 第31位は同じくアルバム『小さな生き物』から「さらさら」です。この曲は38thシングルでもあります。

 この曲は僕がちょうどスピッツを好きになった頃に発表された曲で、僕が初めてスピッツをMステで見たときの曲でもあるのでそういう意味で思い出深いものがあります。この曲を初めて聴いたとき、ブリッジの「雨の音だけが部屋を埋めていく」というフレーズに何故かものすごく惹かれました。「静か」とか「沈黙」とかそういうワードを使っていないのに雨音だけが響き渡る静かな部屋が想像できるような、あるいはそこにいる二人の間に流れる気まずい沈黙が想像できるような、そんな日本語詩の奥ゆかしさみたいなものの原体験がこのフレーズだったと思います。

 サビの「眠りにつくまで そばにいて欲しいだけさ 見てない時は自由でいい」というフレーズは、昔のスピッツだったら書けない、大人のバンドになったスピッツだからこそ書ける歌詞で個人的にすごく好きです。アルペジオで始まるイントロといい曲のテンポ感といいそれまでのスピッツっぽい要素もあるんですが、それまでよりも一つ大人になったスピッツの楽曲、という印象がこの曲にはあります。





 以上です。40〜31位までの楽曲について1週間くらいかけてざーっと書いてみて、できたものをとりあえず最初から最後まで読んでみたんですが、めっちゃ長いですねこれ。もうちょっとコンパクトに書きたいです。とはいえ次回からはもっと好きな楽曲が出てくるので、果たしてどれくらいの分量になるか自分でも分かりません。長文&駄文でしたがここまで読んでいただきありがとうございます。次回は30〜21位です。

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