見出し画像

スピッツ全曲ソートTOP50雑考③ (30位〜21位)


 この記事を開いていただきありがとうございます。

 今回も、前回に引き続いてスピッツ全曲ソートで割り出したスピッツの個人的(ここ大事です)トップ50の楽曲についてお話ししていきたいと思います。前回の記事を書いていて、楽曲の時期によって書ける分量が全然違うなと感じました。個人的には初期・中期が得意っぽいです。基本が後ろ向きな人間なので、やはり初期・中期が好きなのかなと感じます。無論近年の楽曲も大好きですが。

 あと「猫になりたい」について、書きたいこと全部書いてたらめっちゃ長くなるなって思って削ぎ落とし削ぎ落としで書いてたらなんか中途半端な文章になっちゃった気がしました。なのでいつか別稿に改めたいなと思います。(とはいえ1曲で1記事書けるかな…)


 以下、前回までの記事です。ソートの基準などは①に書いてあるので、分からないことがあったら参照することをオススメします。


 あと、あると便利かなと思ったのでスピッツのアルバムを発表順に書き出した表を下に載せておきます。


【インディーズ 】
ミニアルバム『ヒバリのこころ』(1990年3月21日)

【メジャー】
1stアルバム『スピッツ』(1991年3月25日)
2ndアルバム『名前をつけてやる』(1991年11月25日)
ミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』(1992年4月25日)
3rdアルバム『惑星のかけら』(1992年9月26日)
4thアルバム『Crispy!』(1993年9月26日)
5thアルバム『空の飛び方』(1994年9月21日)
6thアルバム『ハチミツ』(1995年9月20日)
7thアルバム『インディゴ地平線』(1996年10月23日)
8thアルバム『フェイクファー』(1998年3月25日)
※ep『99ep』(1999年1月1日)
※スペシャルアルバム『花鳥風月』(1999年3月25日)
9thアルバム『ハヤブサ』(2000年7月26日)
10thアルバム『三日月ロック』(2002年9月11日)
※スペシャルアルバム『色色衣』(2004年3月17日)
11thアルバム『スーベニア』(2005年1月12日)
12thアルバム『さざなみCD』(2007年10月10日)
13thアルバム『とげまる』(2010年10月27日)
※スペシャルアルバム『おるたな』(2012年2月1日)
14thアルバム『小さな生き物』(2013年9月11日)
15thアルバム『醒めない』(2016年7月27日)
16thアルバム『見っけ』(2019年10月9日)
※スペシャルアルバム『花鳥風月+』(2021年9月15日)


 それでは以下、30位〜21位の楽曲について書いていきたいと思います。



第30位: 初夏の日

 第30位はアルバム『見っけ』から「初夏の日」です。この曲は2019年発表のアルバム『見っけ』に収録されているアルバム曲ではあるものの、新曲というわけではなく00年代から既に京都でのライブ限定で披露されていた曲であり、何故かこのタイミングでアルバム収録の運びとなった珍しい曲です。

 Cコードの静かなアコースティックギターから始まる穏やかなこの曲は、主人公が思い描く「君」とのささやかな京都旅行の初夏の陽光のまばゆさや揺らぎを歌詞やサウンドを通して感じさせつつも、それを夢想だと自覚している現実的な側面も同時に描き出し、それでも「光」に近づくために泳ぎ出そうとする姿を描いた曲になっています。

 アコギやトレモロギター主体のサウンドで、ともすればオケが弱くなりそうなところを水面下でサウンドの輪郭を形作っているベースの音色も聴き逃してほしくないポイントです。スピッツのベースラインはミドルテンポの楽曲にて最強

 実は来たる10月19日にアルバム『見っけ』で回ったツアー「NEW MIKKE」の円盤が発売されて、それの初回限定盤にライブの音源とゲネプロ音源2曲が収録されたCDが付いてくるんですが、『見っけ』のアルバムの中から「初夏の日」だけそのCDに収録されないんですよね… 本当に好きな曲なので生演奏の音源も聴きたかったです😢



第29位: アパート

 第29位はアルバム『惑星のかけら』から「アパート」です。何気にアルバム『惑星のかけら』からのランクインはこれが初めてかも?

 前回の記事で、アルバム『Crispy!』で中期以降のスピッツが確立していく路線の萌芽が芽吹いたと書きましたが、その一年前に既にカオスとエロが極まるアルバム『惑星のかけら』の中でその萌芽を芽吹かせていたと言える曲だと思います。

 歌い方の無機質さや低い声を意識している感じはまだこの時期のスピッツ的ではあるのですが、繊細なアルペジオ主体のサウンドや現実的な地平に立った甘酸っぱくて切ない歌詞は実に中期以降のスピッツの特徴を捉えています。同じアルバムの他の曲ではやれグランジに寄ったサウンドで「君から盗んだスカート 鏡の前で苦笑い」と歌ったりサーフミュージックを志向したサウンドで「僕のペニスケースは人のとはちょっと違うけど」と歌ったりしている中で、この曲だけ後に確立する路線を前借りしたようなギターポップ的なアプローチを取っているのはオーパーツ的で面白いなといつも思います。

 「君のアパートは今はもうない だけど僕は夢から覚めちゃいない 一人きりさ 窓の外は朝だよ 壊れた季節の中で」は歌い出しにしてとにかく切なくも虚しい一節。続く「誰の目にも似合いの二人 そして違う未来を見てた二人」は「君」と「僕」のすれ違う思いが対句的に描かれていて、歌い出しの切なさにさらに拍車をかけます。

 歌詞が短いのとこの曲が好きなのとで全歌詞引用してしまいそうな勢いですが、2度目のブリッジで登場する「小さな箱に君を閉じ込めていた 壊れた季節の中で」はさりげなく初期〜中期を通して描かれるスピッツの歌詞世界を端的に表している箇所だと思います。初期のスピッツの歌詞にはしばしば「」という表現が登場するのですが、この単語はスピッツ史において極めて重要な単語なんです。

 一概には言えませんが、スピッツの歌詞に登場する「箱」には「妄想世界」的な意味合いがあると考えています。「君」と「僕」の二人だけの妄想世界を描いて現実から逃れようとする、外の世界を拒絶して妄想世界に浸ろうとする不健全な主人公が初期スピッツの歌詞には多く、そんな初期スピッツの世界観の中に登場する閉じた妄想世界は「箱」的であり、「箱」の中で「僕」が夢想する世界こそが初期スピッツの世界観の中心だと思います。

 長々と「箱」の話をしちゃいましたが、「小さな箱に君を閉じこめていた 壊れた季節の中で」というフレーズはこの曲唯一の初期のとち狂った雰囲気が出ている箇所なのかなと思います。でも逆にここの部分にしかその要素が発現しておらず、表現としてもそこまでおっかなくないのがやはりオーパーツ的。



第28位: 死にもの狂いのカゲロウを見ていた

 第28位はスペシャルアルバム『花鳥風月+』、並びにインディーズ時代に唯一発表されたミニアルバム『ヒバリのこころ』から「死にもの狂いのカゲロウを見ていた」です。

 この曲が収録されたインディーズ時代のミニアルバム『ヒバリのこころ』は初回プレス分の2000枚しか流通していないためにオークションサイトでおよそ10万円近くの値段で取引されるなどそのレアリティは非常に高く、一部のマニアしか聴くことができない特別な音源だったのですが(とはいえYouTubeに違法アップロードされていたので聴こうと思えば聴けたのですが)、2021年に発売されたスペシャルアルバム『花鳥風月+』に全6曲がリマスタリングを施されて収録され、今やサブスクでも全曲が聴けるようになった、という複雑な遍歴を持つミニアルバムとなっています。そしてそんなアルバムに収録されたこの「死にもの狂いのカゲロウを見ていた」という楽曲は、最初期のスピッツの楽曲にして、既にマサムネさんの日本語詩の美しさが輝く名曲なのです。

 メジャー1stアルバムの歌声は無機質で力がないですが、この頃はインディーズ時代ということもあり歌声にはまだ少しパンク的な力強さが残っていて、荒削りの若いスピッツを楽しめる楽曲にもなっています。このアルバムから1stアルバム『スピッツ』までの間にどんな変化があったのでしょう…

 歌い出しの「流れる水をすべって 夕暮れの冷たい風を切り ほおずりの思い出が行く うしろから遅れて僕が行く」というフレーズはスピッツの大きなテーマであるセックスなどを歌っているような気配こそないものの、肌感のある美しい日本語詩。この時期のマサムネさんは現代詩を愛読していたというエピソードがありますが、後まで繋がるスピッツの情景や肌感を想起させる日本語詩はこの頃にその土台が作られていて、この時点で既に花開いていたのだなと分かります。

 冒頭の歌詞こそ純粋な詩でしたが、曲が進んでいくと次第に「死」の香りがし始めます。まず「輪廻」という実にスピッツ的な単語がこの時点で既に登場するし、サビでは直球に「殺されないでね ちゃんと隠れてよ」と歌われていて、明らかに「死」がテーマとして内包されているのが分かります。最初期のスピッツの代表曲にして、後のスピッツに繋がるような「死」のテーマを現代詩的に美しく描き出した名曲と言えるでしょう。

 そして最後のフレーズが「ひとりじゃ生きていけない」なのも秀逸だと思います。曲単位というよりもアルバム『ヒバリのこころ』の話になってしまいますが、アルバムの1曲目である「ヒバリのこころ」では「僕らこれから強く生きていこう」と前向きで力強い歌詞が歌われている反面、アルバムの最後を飾るこの曲の終わりでは「ひとりじゃ生きていけない」と歌われていて、ある種この曲と「ヒバリのこころ」は対(つい)的な存在でこのアルバムにおいてどちらが無くてもいけない1セットのような2曲なのかなと思います。



第27位: 夏が終わる

 第27位はアルバム『Crispy!』から「夏が終わる」です。アルバム単位としては微妙な評価を受けがちな『Crispy!』ですが、とかく名曲が多いです。

 第1回の記事でもお話ししたように僕はスピッツは「夏」のバンドだと思っているのですが、この曲もまさにそんなスピッツの「夏」の側面が見られる曲だと思います。

 この時期のスピッツらしくストリングスやホーンが使われているなど、サウンドとしては非常に明るく華やかなサウンドになっています。ギターの音色もクリーンで、イントロとアウトロでリードが入ってくるもののそれ以外は終始一貫してコードカッティングによるバッキングのみにとどまるなど主張は少なめ。

 そんな曲なのに、「夏の終わり」というテーマも相まってどこか切なくも聴こえます。特にアウトロのストリングスには「夏の終わり」の物悲しさ、哀愁が詰まっていて、晩夏の夕方に聴くと思わずしんみりしてしまいます。フェードアウトで終わるのがまた切ない。

 この曲は「君」のはっきりした容貌が見えるような描写が他のスピッツの楽曲に比べ多いなと思います。「日に焼けた 鎖骨からこぼれた そのパワーで」や「キツネみたい 君の目は強くて」、「濡れた髪が 白いシャツ はずむように たたいてた」など、なんとなく言葉だけでこの曲に登場する「君」の姿が想像できそうな、スピッツのキャリアの中でも珍しい楽曲になっています。このあたり、やはり初期からの転換を目指した『Crispy!』的だなと感じます。その一方で「鎖骨からこぼれた そのパワー」あたりには現在まで一貫して続くスピッツのフェチズム的要素も感じたり。



第26位: ウサギのバイク

 第26位はアルバム『名前をつけてやる』から「ウサギのバイク」です。

 大名盤『名前をつけてやる』の一曲目にして、このアルバムの世界観にリスナーを一気に連れて行ってくれる名曲。たった3分28秒しかない楽曲ですが、スピッツの魅力が詰まった一曲だと思います。

 全編を通してアコギが主体のささやかで可愛らしい楽曲。ネオアコ的な雰囲気をたたえたアコギアルペジオのイントロは乾いた雰囲気がありながらも、この曲、ひいてはこのアルバムに特徴的なマサムネさんの無機質な歌声とマッチしていて印象に残ります。

 何よりもこの曲で一番驚きなのは、1番が全てスキャットということではないでしょうか。スピッツの楽曲にはしばしばスキャットが登場しますが、1番が丸々スキャットという楽曲は珍しいですし、ここまでスキャットに振り切った楽曲も珍しいです(「水色の街」はサビが全てスキャットだったりしますが)。「ラララ」「トゥトゥトゥ」のみで歌われる1番はとても幻惑的で、スキャットであることの意味が感じられますし、1番のスキャットはこの曲の幻想的な雰囲気を演出する重要なファクターとなっていると思います。

 そしてスキャットのみの1番が終わると2番からは歌に入っていきます。「ウサギのバイクで逃げ出そう 枯れ葉を舞い上げて」という冒頭から「逃避行」的な雰囲気が見えてきますが、その移動手段は「ウサギのバイク」という何やらよくわからないもの。そんな可愛らしい名前の、なんだか分からないものに「優しいあの娘」も乗せて逃げ出そうとしています。

 「脈拍のおかしなリズム 喜びにあふれながら ほら 駆け抜けて 今にも壊れそうな ウサギのバイク」と歌われるサビは、心臓の鼓動の高なりを感じさせつつも、どこか脆く、危うげに響きます。「氷の丘」を越えて行こうとする「ウサギのバイク」は「今にも壊れそう」で、だけど「優しいあの娘」も一緒に乗っていて当の主人公はおそらくそれに対して「喜びにあふれ」ている… 考えれば考えるほど危うげで、可愛らしくてもやはり一筋縄ではいかないスピッツらしさみたいなものを感じます。



第25位: 魔女旅に出る

 第25位は同じくアルバム『名前をつけてやる』から「魔女旅に出る」です。この曲は3rdシングルでもあり、『名前をつけてやる』のラストの曲でもあります。まさか最初と最後の曲が並ぶとは。そして第25位ということでこの曲からソート記事後半戦なんですね。ここまでもかなりタフでしたが残り半分も頑張りたいと思います。

 このアルバムでは唯一のオケにオーケストラが入っている楽曲にして、次に発表されるオーケストレーションを主体にしたミニアルバム『オーロラになれなかった人のために』への橋渡しのような一曲。ギターの主張は少なく、あくまでバッキングのみにとどまっているのでギターロックが好きな人には少し退屈かもしれませんが、それでもこの企画内で何度も言っている「ミドルテンポの水面下でうねるベースライン」はやはり聴き逃してほしくないです。
(ちなみにライブ音源でもテツヤさんのギターは終始バッキングですが、CD音源にはないギターソロが挿入されているのでそこが聴きどころです。)

 「旅立つ君を見送る」というテーマの楽曲であり、タイトルから察するに「君」は「魔女」ということになるのでしょうが、果たして「魔女」が意味するところは何なのでしょうか。実は歌詞中に一度も「魔女」という単語は登場せず、「魔女」らしい怪しい描写も特に登場しないんです(「まだらの靴」くらい?)。ただ言葉の響きで「魔女」としたのか、それともまた別の意味が…とついつい深く考えてしまいます。

 2番のバース「今 ガラスの星が消えても 空高く書いた文字 いつか君を照らすだろう」というフレーズがロマンチックで好きです。このパートではマサムネさんだけではなくギターのテツヤさんもコーラスとして歌に参加するのですが、そのコーラスも独特の雰囲気があってこの2番の出だしに新たな展開を作っています。

 「ラララ 泣かないで ラララ 行かなくちゃ いつでもここにいるからね」と歌うサビは短いながらも切なく、惜別の寂しさ、悲しさが伝わってきます。ラストのサビでは「いつでもここにいるからね」でブレイクした直後、曲を通してイントロや間奏で挿しこまれてきた美しいコーラスワークが始まり、そのままフェードアウトで曲が終わっていきます。この曲のコーラスワークは何故こんなに美しいのか。



第24位: スパイダー

 第24位はアルバム『空の飛び方』から「スパイダー」です。この曲は10thシングルでもあります。シングルで言うと次に控えるのがあの「ロビンソン」であるため、スピッツがブレイクする夜明け前最後の曲とも言えるでしょう。とはいえこの曲は結構知名度がある気がします。
 ちなみに余談ではあるのですが、現時点で僕が一番最後に生で聴いたスピッツの曲がこの曲になります。先日開催された「ロックのほそ道2022」に参戦したのですが、スピッツがアンコールのラストで演奏したのがこの曲でした。

 軽快なアコースティックギターで始まるこの曲の仮タイトルは「速い曲」。安直すぎて笑っちゃいますが、確かに軽快で疾走感に溢れる楽曲です。イントロの途中からバースの終わりまでひたすら刻まれるパームミュートは、さりげないながらもこの曲が持つ軽快さを引き立てる名プレイだと思います。

 この曲の歌い出し「可愛い君が好きなもの ちょっと老いぼれてるピアノ」は案外と有名なんじゃないかなと思います。謎フレーズとしてお馴染みのこのフレーズですが、10年スピッツのファンをやっている僕にも何のこっちゃ分かりません。第1回の記事でも書きましたが、こういうフレーズはとやかく考えるのもいいですがやはり日本語の響きの綺麗さとか面白さとかを楽しむのがベターかなと思います。詩とは詰まるところそういうものだと思いますし。

 とはいえ1番のブリッジでは無視できない不穏さが落とし込まれます。「洗い立てのブラウスが 今筋書き通りに汚されていく」。どう考えても怪しげです。明らかに不穏なフレーズであり、2番の出だしの「可愛い君をつかまえた とっておきの嘘ふりまいて」という歌詞からしても、この曲はスピッツの歌詞の根幹にある大きな2つのテーマ "セックス" と "" のうちの "セックス" 、それもかなりドロドロで捻じ曲がった趣向を描いているような印象を受けます。それをこんな軽快なメロディーとサウンドに乗せて爽やかに歌うスピッツはやはり世間一般に抱かれている爽やかポップバンドみたいなイメージとは裏腹の変態ロックバンドだなと思います(超褒め言葉です)。

 美しいバラにはトゲがあるとはよく言いますが、スピッツは「可愛い花だなと思って近づいたら紫色のドロドロの粘液がこぼれてきた」みたいなそういう比喩が似合うバンドだと思います。

 そしてサビでは「だから もっと遠くまで君を奪って逃げる ラララ 千の夜を飛び越えて 走り続ける」と歌っており、逃避行の曲だとわかります。君をさらっての逃避行ですが、「力尽きたときはそのときで笑いとばしてよ」と頼りないことを言っていたりして、スピッツ的な頼りなさも顔を出します。軽快でドロドロしつつも根底にあるのはいつもの頼りない主人公というのがスピッツらしいです。



第23位: 海を見に行こう

 第23位はアルバム『三日月ロック』から「海を見に行こう」です。ゴリゴリのアルバム曲ですが個人的にすごく好きでこの順位にランクインしました。

 終始アコースティックギターが主体の楽曲であり、ライブではテツヤさんもエレキギターではなく12弦のアコギで演奏しています。エレキギターが入り込む余地のない、12弦アコギの煌びやかなサウンドが特徴的なたった3分のこの楽曲は、シンプルでどんな精神状態の時でも抵抗なく聴けるようなそんなあたたかみ、そしてピュアさがあると思います。

 歌い出しが好きなので全部引用。

明日 海を見に行こう
眠らないで二人で行こう
朝一番のバスで行こう
久しぶりに海へ行こう
降り注ぐ陽光
雨上がりの匂い想う
追い越した自転車の方
照れながら若葉の色

 だからなんだという感じですが、個人的にものすごく好きなんですよねここの部分。本当に個人的な趣味趣向で選んだソートの結果弾き出された結果なのでここの部分が好きなことにこれまでの楽曲で書いてきたような解釈だとかそういうものは付与できないんですが、強いて言うなら「この詩が見せてくれる景色」が好きです。

 朝一番のバスで君と久しぶりに海へ行く、朝の陽光が眩しいけれど雨上がり特有のあの匂いも街には残っていて、目に映る若葉はそんな陽光に照らされて鮮やかに映えている… みたいな、この詩が見せてくれるそんな鮮やかで眩しい景色がこの曲を僕の中で23位まで押し上げたのかなと思います。

 「初夏の日」といいこの曲といい、アコギが主体のミニマムなサウンドで小旅行を歌う曲が好きなのかもしれません。



第22位: 魚

 第22位はep『99ep』に収録され、その後スペシャルアルバム『色色衣』に再収録された「魚」です。

 この楽曲は外部のプロデューサーがついていないメンバーによるセルフプロデュースの楽曲なのですが、Mr.Childrenの『REFLECTION』みたいな感じで「セルフプロデュースなのにこの完成度かよ…」と思わず唸ってしまう一曲になっています。

 クリーンな音色のギターはイントロの後サビまでアルペジオでオケを彩り、ベースはやはりミドルテンポの中で静かに暴れ回っていて、サウンドにおける「スピッツらしさ」みたいなものを体現しています。もし「あなたが思う最もスピッツらしい一曲を教えてください」って言われたら、僕はこの曲を選ぶかもしれません。それくらい、サウンド面でも詩作的な面でも非常にスピッツらしい一曲だと思います。

飾らずに 君のすべてと 混ざり合えそうさ 今さらね
恋人と 呼べる時間を 星砂ひとつに閉じこめた

 この歌い出しの美しさたるや。余計な言葉で説明したりしないで、日本語の響きや詩が呼び起こすイメージを楽しみたいと思わせてくれる力がある日本語詞です。「恋人と 呼べる時間を 星砂ひとつに閉じ込めた」が特に最高。2連続で引用のコマンド使っちゃって覚えたての人みたいになっちゃいましたが、出だしからこんな素敵な詩を書かれたら引用コマンドで強調するしかないです。

 2番のサビの「この海は 僕らの海さ 隠された世界と繋ぐ」という歌詞は何やら意味深。雄大な青い海を二人だけが泳いでいる情景が見えるようで、でも「隠された世界と繋ぐ」あたりはどこか現実世界との別離も感じさせるようなニュアンスを含んでいるようで、いかようにでも解釈することができる懐の広さを持ったフレーズだと思います。

 この曲は詩がとても美しく、個人的にはどうにか解釈するというよりも完全に言葉選びの美しさで聴いている部分があります。ぜひこの曲を初めて聴く人もこの記事を読んだ後に久しぶりに聴く人もさっき聴いたばかりの人も、言葉の美しさを感じながら聴いてほしいです。



第21位: 君だけを

 第21位はアルバム『Crispy!』から「君だけを」です。この曲は1993年のアルバム『Crispy!』収録ですが、なぜかその後1997年に同じアルバム収録の「夢じゃない」と一緒にシングルカットされた珍しい曲になります。ちなみにこの曲はB面としての収録で、夢じゃないがA面扱いでした(1997年に「夢じゃない」にタイアップがついたためシングルカットされた、という運びです。でも昔のアルバム曲をシングルカットしたわけだし商売的に考えたらB面には新曲を入れそうなものなのに普通に既発曲を入れちゃうあたり商売っ気ゼロで面白いです)。

 比較的明るい曲が多い当アルバムの中で、イントロから重たく歪むエレキギターが特徴的なこの曲は、ギターのテツヤさん曰く「メタルのバラード」。アルバム『Crispy!』らしくホーンやストリングスの音も入っているものの、これまでの使われ方とは様相が少し異なっており、完全に壮大な世界観を演出するための要素として使われています。

 バースに入ると歪んだギターは一旦鳴りを潜め、歪みのないアルペジオがゆったりと曲の世界を作っていきます。途中から挿入されるストリングスのサウンドは鳥肌もの。大人になる哀しみを見失いそうなことに怯えている主人公を描いた歌詞世界はサビの直前で「カビ臭い毛布を抱」いている情景から一気に「夜空」へと大きく展開し、スピッツ史上最もストレートで短い言葉で紡がれているであろうサビへと突入していきます。

 「君だけを 必ず 君だけを 描いてる ずっと

 短くて、スピッツの楽曲の中でもこれ以上ないくらいストレートなこのサビのフレーズは、サビに入った瞬間歪みまくるギターのストロークの力も借りてとても力強く、しかしどこか悲しげに響きます。君だけを「愛してる」だとか「見つめてる」とかではなく「描いてる」のがスピッツ的。(とはいえ同時期の楽曲「裸のままで」では「君を愛している」と大々的に歌ったりしてますが…)

 この楽曲と言えば記憶に新しいのが2020年に開催されたライブ「猫ちぐらの夕べ」での名演ではないでしょうか。ライブでは実に20年ぶりの演奏となったこの曲は、間違いなく「猫ちぐらの夕べ」の核の一つだったと思います。マサムネさんのアコギ弾き語りから始まるアレンジはもし現地にいたら声出しちゃってたかもと思うくらい美しく、「メタルのバラード」なCD音源とはまた違うアプローチでの魅力が見られました。来たる10月19日に「猫ちぐらの夕べ」のDVD&Blu-rayが発売になるのでこの曲のライブ映像がいつでも家のテレビで観られるようになるのかなり嬉しいです。ぜひこの記事を読んでいる方で、ある程度お金に余裕がある方は購入してみてほしいです。絶対に損はさせません。




 以上が今回の10曲についての内容になります。いやはや、まさか1万字を超えるとは………

 相当長い文章で読みづらい部分も多々あったかと思いますが、ここまで読んでいただいた皆様どうもありがとうございます。次回は20位〜11位です。かなり上位に迫ってきました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?