スピッツ全曲ソートTOP50雑考① (50位〜41位)


 この記事では僕が5時間かけて選び抜いたスピッツ全曲ソートのトップ50の楽曲たちについて、第50位から1曲ずつ焦点を当てながら軽くお話ししていこうと思います。

 本題に入る前に、これからスピッツでソートをやってみたい!と思っている人のために(いるかどうかは分かりません)今回僕がソートをやってみた感想、どのようにソートをしたのかなどをかるーくお話ししていきたいと思います。そんなんいいからパパッと読みたいという人は【レギュレーション】という小見出しのところまで飛ぶといいかと思います。



 まずソートをやるにあたって何がしんどかったかというと、もちろん膨大な数ある楽曲を永遠に二者択一で選んでいかなければいけないという手間もありますが、一番は「ネット上に最新曲まで網羅しているスピッツの楽曲ソートがない」ということでした。

 一応スピッツソートと名乗るサイトはあるんですけど、そのサイトのソートは3個前のアルバム『とげまる』までしかカバーしてなくて、ここ10年くらいのスピッツの作品がごそっと抜け落ちてしまっているのです。

 なので僕はひとまずそのサイトでソートの結果を出し(最新10年分がないとはいえ200曲はゆうに超えているので全部を終えるのに1200回くらい画面をポチポチしました)、そのサイトで出た結果のトップ50にアルバム『小さな生き物』以降に発表された全楽曲を合わせて別のソートサイトで改めて選び直す、というとてもめんどくさい段階を踏みました。

 そんなこんなで何とかトップ50を出したわけですが、もうとにかくめんどくさかったのでプログラミングに強い方に最新曲「大好物」まで網羅したスピッツ全曲ソートを作成してほしいです。



 前置きはこれくらいにして、そろそろ本題に入っていきたいと思います。と、その前に今回のソートをやるに当たってのレギュレーションを説明しておきます。




【レギュレーション】

ソートする楽曲はレコード会社発のCD、もしくはデジタルシングルとして発表されているものに限る(インディーズ時代にカセットやソノシートで発表したような曲やライブのお土産CDに収録されている曲などはまどろっこしくなるので含めません。「サブスクで聴けるもの」と考えていただければ分かりやすいと思います。※ただしアルバム『小さな生き物』の限定盤に収録されておりサブスクでは聴けない「エスペランサ」、同じく『見っけ』の限定盤に収録された「ブランケット」は含みます。

バージョン違いは統合する(例えば「運命の人」のシングルバージョン・アルバムバージョンは分けずにまとめて「運命の人」としてソートします。)

カバー曲は含めない。ただし、セルフカバーは含める(要はマサムネさんの作詞作曲ではない「さすらい」「タイム・トラベル」などのカバー曲は含めないが、「愛のしるし」や「ブランケット」など、マサムネさんが作詞作曲して他アーティストに提供したうえでセルフカバーしている楽曲は含める、ということです。)


 以上3点がレギュレーションとなります。さて、かなり前置きが長くなってしまいましたが50位から順に書いていきたいと思います。



第50位: 不死身のビーナス

 第50位はアルバム『空の飛び方』から「不死身のビーナス」です。この曲は当時ライブの定番曲だったということもあってかなりギターロック色が強い一曲になっています。ライブでは「ネズミの街」という歌詞の「ネズミ」の部分にライブ会場の地名を当てはめて歌うのが定番になっています(「赤坂の街」「横浜の街」など)。

 ちなみにこの『空の飛び方』というアルバムは製作当時「Led Zeppelin寄りのサウンドにする」というテーマがあったらしく、この曲は同アルバムにおけるLed Zeppelin枠を担っているのかなと思います。

 サビの「最低の君を忘れない」というフレーズはメロディーのキャッチーさも含めかなり印象的。その後に「おもちゃの指輪もはずさない」と続くのがスピッツらしいかわいさ、いじらしさがあって好きです。そんな可愛らしさもありながら「疲れた目と目で いっぱい混ぜ合って 矢印通りに 本気で抱き合って」と歌うなど中期スピッツらしいエロの要素も盛り込まれていて、単に可愛いだけでは終わらせないスピッツの一筋縄ではいかなさも楽しめます。



第49位: こんにちは

 第49位はアルバム『醒めない』から「こんにちは」です。「こんにちは」は近年スピッツでも珍しいくらいにパンク感に溢れたアレンジの楽曲になっています。

 もともとスピッツはブルーハーツに憧れてパンクロックをやっていた時代(アマチュア時代の初期)があるのですが、この曲はその時代のスピッツを感じさせてくれると同時に、その時代とはまた違う「現代のスピッツ」としてのパンキッシュさ、「今の俺たちはこうやってパンクするんだぜ」というアティチュードを見せてくれる曲だと思います。

 スピッツの全楽曲の作詞をつとめるボーカル・草野マサムネさんが福岡出身ということもあり、スピッツの楽曲には西の訛りが登場することがあるのですが(近年の曲に多いです)、この曲にも「おもろくて脆い星の背中を」というフレーズが出てきます。そこまで数が多いわけではありませんが、マサムネさんが使うくだけた方言の可愛らしさもまたスピッツの魅力の一つでもあります。



第48位: ホタル

 第48位はアルバム『ハヤブサ』から「ホタル」です。21stシングルでもありテツヤさんの繊細なアルペジオが光るこの楽曲は、そのタイトルが「ホタル」ということも相まって哀愁漂う儚い雰囲気の楽曲になっています。

 この曲はとにかく歌詞が好きで挙げていったらキリがないのですが、なかでも「甘い言葉 耳に溶かして 僕のすべてを汚して欲しい 正しい物はこれじゃなくても 忘れたくない 鮮やかで短い幻」というフレーズがとりわけ好きです。

 抽象的ゆえに官能的に響く日本語詩はスピッツの真髄だと思っているのですが、この「甘い言葉 耳に溶かして 僕のすべてを汚して欲しい」というフレーズはそれの最たるものだと思います。このフレーズの真の意味、引いてはこの曲が全編を通して真に言いたいことはマサムネさんにしか分からないし、歌詞解釈をしようと思えばいかようにも捉えられるけれど、「日本語の響きの美しさに心を満たしながら、嫌に考えすぎず抽象的だからこその奥行きを楽しむ」こともスピッツの楽しみ方の一つだと思うし、このフレーズはそういう楽しみ方が合ってるんじゃないかなと思ったりもします。



第47位: 醒めない

 第47位はアルバム『醒めない』のリードトラック「醒めない」です。『醒めない』は僕が初めて自分のお金で買ったスピッツのアルバムなので、このアルバム、そしてこの曲にはかなり思い入れがあります。

 「初期衝動」をテーマに歌われるこの曲はまさにスピッツのこれまでの生き様を歌にしたような歌で、個人的にこの曲と「1987→」は聴くと涙腺が緩みます。前述のようにスピッツにはブルーハーツに影響を受けてパンクを志向していた時代があり、「ブルーハーツの二番煎じでは先は望めない」と言われたことから今の独自路線を開拓していったのですが、それを知ったうえでこの曲を聴くともう一段階深い楽しみ方ができると思います。



第46位: 名前をつけてやる

 第46位はアルバム『名前をつけてやる』から同じくリードトラックの「名前をつけてやる」です。

 この名盤『名前をつけてやる』は、いわゆる「ロビンソン」や「チェリー」のようなキャッチーで有名な曲は収録されていないものの、その音楽性と全体としてのまとまりはスピッツのディスコグラフィーの中でも群を抜いていて、僕がスピッツで一番好きなアルバムでもあります。そしてこの「名前をつけてやる」という曲はとにかく歌詞が意味が分からなくて良いんです。

 サイケなイントロの後、ワウの効いたギターとファンクなリズムに乗せ歌われる歌詞は「マンモス広場で8時 わざとらしく声をひそめて」や「回転木馬回らず 駅前のくす玉も割れず 無言の合図の上で 最後の日が今日だった」などととにかく意味不明。

 全然意味が分からない歌詞ばかりかと思いきや「ふくらんだシャツのボタンを ひきちぎるスキなど探しながら」や「むき出しのでっぱり ごまかせない夜が来て」などと急にエロに引っ張られたりもして、とにかくいくらでも解釈可能な意味不明さを持ち合わせています。

 初期のスピッツ(とりわけ1stアルバム〜3rdアルバム)の歌詞は本当に不可解なものが多いのですがそれこそがスピッツの醍醐味だと思うし、スピッツの有名な曲は一通り聴いたよ!という人は「やっぱ無理〜」って引き返してもいいので初期の作品に踏み込んでみてほしいです。ちなみに聴く順番は別になんでもいいと思いますがミニアルバム「オーロラになれなかった人のために」から聴くことだけはオススメしません。



第45位: 旅の途中

 第45位はアルバム『三日月ロック』から「旅の途中」です。この曲がこの順位に来たのが個人的にはかなり意外でした。そんなこの曲好きだったんだ。

 とはいえやはりこの順位に入っても遜色ないくらいの名曲だと思います。アルバム曲ということもあってスピッツの作品全体を見渡すとかなり地味な曲ではあるのですが、地味ながらも埋もれない魅力があると思います。

 この曲が収録された『三日月ロック』は9.11同時多発テロの後に発表されたアルバムであり、マサムネさんは当時9.11を受けて「音楽をやる意義」や「自分たちの歌は誰かに必要とされているのか」について思い悩んだと告白しています。そんな葛藤を経たうえで発表したこの『三日月ロック』というアルバムの終盤に「旅の途中」という曲を持ってきた、ということを踏まえて聴くとさらにこの曲が特別に感じられると思います。



第44位: 魔法のコトバ

 第44位はアルバム『さざなみCD』に収録されており、31stシングルでもある「魔法のコトバ」です。

 近代スピッツ(アルバム『さざなみCD』以降のスピッツのことを勝手にこう呼んでいます)の幕開けを飾る曲にして、近代スピッツを代表するポップナンバー。サビのメロディーはすごくキャッチーで、全体のアレンジとしてもかなりポップな一方で歌詞は少し切なくて胸がキュッとなるような仕上がりになっているのが魅力。隙のない一曲になっています。

 歌詞で言うと「君は何してる?笑顔が見たいぞ」というフレーズが特に好きです。スピッツの歌詞を構成する3つの要素として「切なさ」「可愛さ」「不穏さ」があると思っているのですが、このフレーズは特にスピッツ流の「可愛さ」が光る一節なんじゃないかなと思います。



第43位: スカーレット

 第43位はアルバム『フェイクファー』に収録されており、15thシングルでもある「スカーレット」です。

 この曲はスピッツの曲の中で一番「聴くとあたたかな気持ちになれる曲」だと思っています。MVのイメージに引っ張られてるかもしれませんが、肌寒い冬の日に暖かいロッジの中で暖炉の火にあたっているような、そんなあたたかみがこの曲にはあると思います。

 また、この曲はコーラス(サビ)とヴァース(Aメロ)を繰り返す(あるいはヴァースとブリッジ(Bメロ)を繰り返している)という構成になっており、どこが1番でどこが2番なのか、どこがサビでどこがそれ以外なのかが明確に分かりづらい曲になっています。実はこれはスピッツにおいて取り立てて珍しいことではなく、こういった他のミュージシャンがシングル曲レベルでやらないような「J-POPの王道からの大きな逸脱」をやってのけつつ名曲を生み出すのもまたスピッツの凄さと言えるでしょう。



第42位: 夏の魔物

 第42位はアルバム『スピッツ』に収録されており2ndシングルでもある「夏の魔物」です。

 スピッツは「チェリー」や「春の歌」など、有名な曲に春曲が多いことからしばしば春のバンドみたいな扱いをされますが、僕はスピッツは "夏のバンド" だと断言します。夏の鮮やかな情景や焦燥感、儚さ、切なさを美しく切り出したスピッツの楽曲は世間的にはあまり知られていないものも多いですが、一度聴いたらきっと「確かに、スピッツは夏のバンドだな」と合点がいくと思います。それくらい、スピッツの描く「夏」は良いです。

 爽やかなメロディーで夏の爽快さを感じさせながらも、歌詞はやはり一筋縄ではいかないのがスピッツ。「古いアパートのベランダに立ち 僕を見おろして少し笑った なまぬるい風にたなびく白いシーツ」「大粒の雨すぐにあがるさ 長くのびた影がおぼれた頃 ぬれたクモの巣が光ってた 泣いてるみたいに」など美しい夏の情景を絶妙な筆致で切り出しながらも、そこで描かれるストーリーは決して穏やかではありません。

 特にこの曲を語るうえで取り上げられるのが2サビの「殺してしまえばいいとも思ったけれど 君に似た 夏の魔物に会いたかった」のフレーズでしょう。このフレーズからこの曲はしばしば中絶・堕胎の歌だと噂されますが、それが本当かどうかはさておき「殺してしまえばいいとも思ったけれど」という不穏極まりないワードを2番とはいえシングルのサビで使うあたりがとても「初期スピッツ的」だと思います。


第41位: 桃

 第41位はアルバム『さざなみCD』から「桃」です。

 この曲は近代スピッツの曲の中でもかなりアレンジがポップでとっつきやすく、スピッツの代名詞でもある三輪さんの煌びやかなアルペジオが光る曲でもあるので、初心者の人にかなりオススメな曲です。

 スピッツは他の有名なアーティストと比べると比較的曲が短い傾向にあり、この曲も1番のAメロの歌詞を全部抜粋しても「切れた電球を今 取り替えれば明るく 桃の唇 初めて色になる」とかなり短いのですが、この曲においてこの歌い出しの一文の持つ力は計り知れないと思います。何気ない日常の一コマを切り出しながら「桃の唇 初めて色になる」のワンフレーズで「君」の存在を匂わせると同時に鮮やかな色彩を伴う情景を聴き手に想起させるこの詩にはいつもため息が出ます。

 スピッツは「引き算の美学」的なバンドだと思っているのですが、この端的かつ美しいフレーズはスピッツのそういった精神をよく表していると感じます。



 …と、ここまで書いた時点で字数が5600字を超えてしまい、このまま書いていくと止め処がなさそうなので一旦ここで区切って40位以降は別稿によせたいと思います。

 楽曲についての説明だけでなく、「スピッツを聴くうえでの楽しみ方」も盛り込みながら書いたつもりだったのですが、何となくでも伝わっていたら嬉しいなと思います。これを機にスピッツを聴いてくれる人が増えたら泣いちゃうくらい嬉しいです。


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