2020年度上半期に触れた10の作品・後半(映画・漫画・アニメ)

前回

「好きか嫌いか」と「優れているかどうか」はある程度切り離されたものである。
優れていて、かつ自分の好きな作品がある程度の本数見つかれば、そこから自分という人間を導き出せるのではないか。なんて浅ましいことを考えながら物語に触れたりもするが、実際にはそんな甘くはない。特に好き嫌いの部分が難しい。名作と呼ばれる作品を読むたびにその内容の深さに感動しつつ、自分の琴線に触れるかが別問題であるということを煩わしく感じたりもする。そんなことを思いながらまた作品に触れる。

ちなみに僕は「人間失格」が一番嫌いだ。

映画

クリストファー・ノーラン「インターステラー」


「空想科学の果てにあるものが個人の孤独や疎外、そしてその先にある愛などである場合、それは古き良きハードSFとは呼べないのではないか。」僕の親ぐらいの世代のSFマニアはしばしば口を酸っぱくしてそう言う。対して僕ぐらいの歳になると、いよいよSFと題された作品にも人間の感情を求めてしまう。(この傾向は日本において、特に「エヴァ」など日本のアニメーションにおいて顕著である、という興味深い指摘もある)
一体どちらがSFというジャンルのあるべき姿なのだろうか。

本作は科学的検証がある程度十分になされながらも、最後には本質的なヒトの孤独と、その先にある繋がりを論じていたと取ることもできる作品である。間違いなく近年のSFの代表作であると謳われる一方で、物語が家族愛などの感情に根差している部分を批判する声もある。

おそらくどちらが正しいという事はないのだろうが、今の時代は本作のような物語の方が受け入れられるのだろうな、と思う。

リドリー・スコット「ブレード・ランナー」

先ほどまでの「個人の感情」と真逆の題材を僕に与えてくれたのがこの作品だろうか。後のサイバーパンクのお手本にもなるような世界観や音楽など。
映像芸術として非常に価値の高い作品である。
先ほどまでの紹介が「SF→個人」を導き出したとするならば、ブレードランナーは「SF→世界(観)」を導き出したとでも言えるだろうか。
いずれにせよ、空想科学はそれ自体も面白いが、(映像作品になる場合は特に)本質として別の大きなものが存在している、その本質を考えることが重要なのではないか、という見方も取れるだろう。

どうでもいいが、誰でも知っているような作品を紹介する度、自分の無知をさらけ出しているようで居たたまれない気分になる。


漫画

山田胡瓜「AIの遺伝子」

作者はもともとIT関連の記者であり、そこから得られたあれこれから作品が生まれたらしい。
AIと人間が一見見分けのつかないようになった世界で、人間に近づきすぎたものの完全な人間にはなれないアンドロイドのジレンマ、およびそんな社会に生きる人間の在り方を考えるような、思索的なSF漫画だ。
続編も展開されている様で、これから読むのが楽しみである。

マツキタツヤ 宇佐崎しろ「アクタージュ act-age」

僕がここ数年のジャンプで一番ハマったと言っても過言ではない作品である。
「表現者」の物語はやはり興味がある。本作は夜凪景という天才を中心に置きながら、それでいて周囲の「天才を観測する凡人」にもスポットを当てることでより「わかる」感覚が生まれる。

ビートたけしも述べているようだが、メソッド演技は長所も短所もあり、かつ凡人には危険とまで言えるような魅力を孕んでいる。天才の所業、諸刃の剣を扱う人間の危うさ、それに憧れる周りの葛藤、どのような角度から見るかで変わる面白さがあるのかもしれない。

アニメ

虚淵玄「PSYCHO-PASS  サイコパス」

かつてSF作家が幾度も論じてきた「強制された幸福」との対峙や、現代にも起こりうる大多数の幸せのために切り捨てられる異常者の生き方など、ある意味で王道ともいえる未来社会を丁寧に、かつ魅力的に描いた作品である。

あえて一つだけピックアップして論じるとすれば、槙島聖護と狡噛慎也の関係性についてだろうか。

「どうなんだ?狡噛。君はこの後、僕の代わりを見つけられるのか?」
「いいや、もう二度とごめんだね」

対立構造はそれ単体では存在し得ない、相手が消えてしまったならば、同時に自分のアイデンティティさえも失われてしまう。何か他者を一つ悪と定めることでしか、自信を相対的に善と定義することはできない。そんなことに気付きながらも闘った二人の関係性は、美しい矛盾をはらんでいる。

また、槙島聖護の行動原理に共感や興味を持った方は、伊藤計劃の「ハーモニー」にも触れてほしいと思う。

麻枝准「AIR」(京都アニメーション)

ほんとうは「海獣の子供」やら「月がきれい」やらを挙げようか悩んだのだけれど、ふとこちらを紹介したくなった。
これまで「AIR」の原作に一度、アニメに一度触れていた。大学の友人が観ると言っていたので、僕もこの機会に二度目のアニメ視聴を行った。まさか今回が一番心を動かされるとは思っていなかったが。

美しいと思った点を一つ上げるとすれば、「繋がることのできなかった実の親子」から始まり、1000年もの間続いた因縁が「本当の意味でつながった義理の親子」によって解放されるという部分だろうか。この対照的な二つの関係が、三度目に物語に触れた僕を唸らせた。

現実の日本アルプス周辺の神話との対比、家族および疑似家族の問題、美凪の精神病理など、どこまでも価値のある作品である。現在はアニメだけでなく、スマートフォンでのゲームもリーズナブルに楽しめるので、是非触れてほしい。


おわりに

「価値のある物語」と一言で言っても、その種類は多岐にわたるし、そのうえ個人の好みなんてものが存在しているので収集がつかない。だからこそ自分の心に残った作品は残しておきたいと思うし、同じ作品に感動した誰かの意見が欲しい。
物語に本当の意味での価値があるとすれば、それは人がよく生きることを手助けすることである。僕にとってはたぶん、それが誰かと感動を共有することなのだろう。それをただ享受する立場でももちろん幸せだ。だけどいつか誰かのために、そして自分自身がよく生きるために、物語を書くことができれば、なんて思う。流石にそれは少し出過ぎた発言だけど。

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