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「いたいのいたいの、とんでゆけ」

アニメ業界の人はアニメを好きでないことが多く、他の種類のコンテンツをより好んだりするらしい。他の分野からミームを持ってくることに意味があるのかな、なんてことを予想していたが、単純にアニメに苦しめられるから見たくないだけらしい。
読書量の少ない自分を正当化できるかな、なんてことを一瞬思ってしまったのが少し恥ずかしい。

というわけで僕は人様に自慢できるほど小説を読んでいない(もちろん好きではある)のだが、その少ないストックの保つ限り紹介していきたいと思う。

今回はもっとも敬愛する作家の1人、三秋縋さんから。一番有名なのは「三日間の幸福」だろうけど、同じくらいの名作である「いたいのいたいの、とんでゆけ」を。


物語の美しさで考えれば「三日間〜」の方が優れているかもしれないが、三秋さんの描く「絶望の果てで一縷の温かさを見つけて笑う」というようなストーリーをより徹底して描けているのは「いたいのいたいの〜」の方がもしれない、なんてことを思う。

作家は基本的に作品以外で語るべきではない、というのが僕の意見だが、例外はある。「物語やその世界の話をする時」だ。そしてその部分において最も重要な役割を果たすのがあとがきだ。これは少し矛盾しているような言い方だが、あとがきが優れている作品、時には作品そのものよりも世界を言い表しているようなものは、得てして名作である。

そんな優れたあとがきの一部を下に引用しておく。これが作品のおおよそ全てなので、僕はこれ以上は何も言わない。というか言えない。

(前略)どれだけ注意したところで、人はいつ落とし穴に嵌るかわからない。この世界はそういう場所なのだ。 (中略) それからというもの、僕は以前のように素直な気持ちでは<落とし穴に蓋がされている物語>を読めなくなりました。その代わり、<落とし穴の中で幸せそうにしている人>が描かれた物語を好むようになりました。僕は思ったのです。暗く深く狭く寒い穴の中で、強がりでなく微笑んでいられる人の話が聞きたい。多分、今の自分にとって、それ以上の慰めは存在しないだろうから。
『いたいのいたいの、とんでゆけ』は、二度と抜け出せない穴に落ちた人の物語でした。しかし僕はそれを単に薄暗い話としてではなく、元気の出る話として書いたつもりでいます。とてもそうは見えないかもしれませんけれど、でも、そうなのです。(三秋 縋,『いたいのいたいの、とんでゆけ』,メディアワークス文庫,2014)





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