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金木犀の花言葉

 金木犀の匂いをすーっと抱き締めたとき、小学校の校庭がぼんやりと。思えば、学校は大嫌いで、教師なんかもっと大嫌いで。なのに私は学校の先生になった。きっかけになった先生の背中を思い出して、くすり。理科室に吹き抜ける朝の風とニカッとする先生を思い出す。そういえば、あの人も理科の先生だ…先生との共通点を見つけて金木犀がまたゆらり。

 金木犀の匂いを身体いっぱいに取り込んだ私は、ぼーっと空を眺める。南のほうを見ていたくて、方位磁針で南を探してみたりする。なぜ南?今度ははっきりと、ぎゅーっと抱き締めたいあのひとの笑顔が浮かぶ。……彼は私とは正反対。優柔不断な私と違って、“きっぱり”や“はっきり”が似合う人。私はそんな彼の“目”が好き。何もかもお見通しのようで、あぁ彼に嘘なんて付けないと乾いた風が私の頬を撫でていく。もしも私が嘘を溢したのなら、彼はきっとそれをそっと掬って、全部わかってますよという目で馬鹿だなぁって微笑うだろう。まぁ、ずっと一緒にいるためにそんな嘘など必要ないのだけれど…。

 会いたいって気持ちと。寂しいって気持ちと。不安な気持ちで三つ編みをする。やっと肩にかかるくらいになった髪では難しくて、なんだか泣いちゃいそうになって。続きを書くのをやめた。そして、パンを作るみたいにこの気持ちを寝かせてみた。一日経って、もっと会いたいって気持ちが発酵した気がするけれど。その代わりに、不安じゃなくて“きっと大丈夫”って気持ちが膨らんでいた。だって、彼は。私が不安になって一歩できずにいたら、私の手をぎゅっと握って「ほら行くよ」って必ず言うだろう。自惚れかもしれないけれど…いや、絶対にそうしてくれる。

 そういえば、この前母の車で耳にしたのは金木犀の花言葉だった。「謙虚」や「謙遜」のほかにも違う言葉が隠されているそうで。それに気付かされたとき、私は彼を思い出した。南を向いてそっと呟いてみた。
 「真実」
 私はものすごく悲観的な人間で。「私なんて」と溢しては、彼によく諭されている。心の窓が閉じてしまったとき、私は下を見がちになって時に私を傷つける言葉を吐くけれど。いつだって、彼は私をぎゅっと抱き締めて「俺“は”大好きだからね」と囁く。彼が私を好きでいてくれるように、私も彼のことが大好きで。それは紛れもない「真実」で…。「今は右手ね」っていたずらに笑いながらくれた約束。いつか反対の指にもぎゅっと、約束が結ばれますように。

 「あなたと以外もうどこにもいけない」
 ふと口ずさんでいて。また彼を思い出す。ちっちゃな金木犀の花びらで、花占いでもしてみようか。手を伸ばしてやめた。だって、「なにしてんの」って微笑う声が聞こえた気がしたから。あー、もう!何処に行っても貴方を思い出しちゃう。こんなに私を「陶酔」させてどうするつもり?次に会ったときは、大好きな二十センチ高い背中に片仮名二文字で想いの丈を思う存分刻んでやろう……。
 取ってつけたような笑顔じゃなくてね。心からの笑顔で彼との日々を楽しみたいから。ちょっとだけ遠い恋。次に会ったときは、いっぱい抱き締めてね。だからどうか無理せず元気でいてね。


 ぐっと背伸びをしてみる。もうすっかり寒くなった風が金木犀を全身で吸い込んでいく。…ねぇ、彼の元にもこの香りを届けて。そして、私を思い出させて。


引用 Vaundy「花占い」

あとがき
 貴方がいなかったら、私はこうやって再び書くことはできていなかったです。「たわいない話を2人でしよう」って口ずさむ、貴方に早く会いたいものです。こんなThe恋。なんて書いたことなかった。私にこんなのを書かせるなんて、貴方はすごいなぁと感心しながら…。気づけばまた、貴方を想っているのです。
 気ままに。大好きな日々を綴っていけますように。また、お会いできたら幸いです。

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