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シネマ06

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“シネマ06”。ここは、映画館?いや…。「大切な人を“主人公”に」そんな思いで、身近な人たちをモデルにした物語を紡いでいます。あなたも、“シネマ06”で不思議で、なんだかあたたか… もっと読む
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記事一覧

シネマ06 素直な心

シネマ06 素直な心

 意味もなく進むのは、久しぶりだ。
 鋭さを感じる風。透き通る空。
 パラパラと、脳内の古語辞典が捲られる。
 「冴ゆ」

 左に行こうか。右に行こうか。いや、真っ直ぐか。
 はらり。今度は、国語辞典の出番。
 「…揺蕩う」

 夜を歩くと、言葉たちの囁きが聴こえてくる。
 言葉たちは、風や草木など色んなものの影に隠れている。「見つけてよ」と手を振るもの。「ここだよ」と、か細い声を震わせるもの。五

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シネマ06 あなたを想って

シネマ06 あなたを想って

 「やばい、もう五十分!」
 「大丈夫でしょ。まだ十分もあるし…」
 「それね、大丈夫。大丈夫〜」
 「もー、ふたりとも。のんびりしてないで!」

 いつの間にか、ポストに投函されていた、褐色の封筒を手に、雨上がりの街を行く。水溜りに映るもうひとつ街に、小さく「せーのっ」。水溜りとつま先が触れ合って。揺れ動いた世界に、月が顔を覗かせる。視線は、空へ。今度はちゃんと。月と目線を合わせて「こんばんは」

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シネマ06 感じるままに

シネマ06 感じるままに

 「どんな足枷があったとしても。私たちなら……」

 水溜りに映る月を見ていた。色なき風が通り過ぎて、月が揺れ動く。
 時計の針は、駆け足で進む。二十三時五十分。ちょっと、散歩にでも、そう思って出てきて、もう一時間。……そろそろ、帰ろうかな。と、もう少しだけ、がぶつかり合う。あっ、私。こんなことでも、迷ってる。ここのところ、迷ってばかりだ…。
 思い返す。ちゃんと、目標だってあった。やりたいことも

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シネマ06 夢の途中

シネマ06 夢の途中

 「おーい、すみれ。こっち、こっち!」
 ずっと、ずっと遠く。道の向こうで、私を呼ぶ声がする。私は、その声を知っている。あたたかくて、懐かしいその声を。

 路地裏を行く。まん丸や楕円。色んな形の水溜りたちが、道に装飾を施している。…やっぱり、あのスカートを買おうと、買うか迷っていた水玉模様のスカートをお迎えするために、立ち止まる。ほしい物リスト、カート、と進んで…決済へ。思い立ったら即行動なのが

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シネマ06 素敵な笑顔

シネマ06 素敵な笑顔

 「あ~、楽しかった~」
 「ほんと、ほんと。笑いすぎてお腹痛い」
 “八月会”。そう名付けたのは、どちらだっただろう。八月十七日生まれの私と、八月二十日生まれの葉月。八月になると、なんとなく集まって互いの誕生日を祝う。名前の由来は覚えていない。
 ふたりで歩く二十三時五十分の街並みは、高校生の頃よりも大人になったことを教えてくれているみたいだ。服装も、髪型も。あの頃はしていなかったメイクも…私た

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シネマ06 祝福

シネマ06 祝福

 「一緒に行きたいところがあるんだ」
 「え、もう零時過ぎてるのに?」

 雨上がりの街を歩く。肩が触れ合うたびに、ほのかに溶け合うホワイトリリー。隣の君は、「ねえ、どこに行くの?」と首を傾げている。その顔。その顔は、ズルい。真っ白な君の頬には、“ワクワク”とはっきりと書かれている。そして、君の目は、水溜りに映る月の光のように、“キラキラ”と輝いている。
 「ねえ、ねえ…」
 不意に、ジャケットの

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シネマ06 永遠の感謝

シネマ06 永遠の感謝

 いつの間にかポストに投函されていた、褐色の封筒。開けてみる。すると、そこには“招待状”?

 日時:2021年8月〇〇日 午前零時
 場所:〇〇六丁目〇‐〇‐〇〇

 宛名もない。ただ、日時と場所だけが書かれている。だけど、差出人は明らかで。隠したいのか、そうじゃないのか。どっちなんだ。……ん?もう一枚、紙が入っている。映画のチケット?

 午前零時、路地裏。
 こんな時間に呼び出して…。一体、

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シネマ06 色褪せぬ恋

シネマ06 色褪せぬ恋

 「一緒に行きたいところがあるの」
 「え、もう零時過ぎてるのに?」

 雨上がりの街を歩く。肩が触れ合うたびに、ほのかに香るホワイトリリー。穂乃歌だけに、なんて。今宵の君は、今までにないほどご機嫌な様子。少し早口で、そして身振り手振りしながら、俺に話をしてくれる。さっきまで、「あ!あの雲、竜みたいだよ」ってはしゃいでいたのに、今はもう最近見た恋愛ドラマの話。ころころと変わる表情。あー、ホントかわ

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