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【日記】ワーニャ|こどもの頃の日記から 18

197X年1月X日 Y曜日

学校が今日から始まる。

みんな元気で登校してきた。

おひる休みフットボールをしてころんだ時、Terry と Shahin がおこしてくれた。

1月Y日 Z曜日

休み時間 Vanya が来て "Terry と Shahin が、今日、君は football にくるかってきいてたけど" といった。

私はどうして自分たちでいいにこないのかな、と思ったけれど、
いまはいちばんはずかしいときだなと思った。

公園で Vanya とおしゃべりをしたのがうれしかった。

1月Z日 A曜日

きょうで Vanya とおわかれ。
急にしってびっくりしたが、あとからかなしくなった。

よる、コンサートにいった。チェロのどくそうにピアノばんそう。
とてもきれいだった。

あとで、こうちゃ2はいのむ。

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Terry は Eleftherios の愛称でギリシャ国籍の男子。
Shahin はイラン国籍の男子で、この2人はいつも一緒に行動していた。
Terry と Shahin の2人の連名で Dear Sumi, We love you! というラブレターをもらったのが、この日記の少し前の秋だった。
薄いペパーミント色の紙に万年筆で書かれていて、赤くぬったハートのマークも付いていた。連名のラブレターっていかにも小学生だが。

フットボール football は日本で言えばサッカー。
昼休み、ダイニングホールで日替わりの温かいスープをいただいて、
それぞれの親が持たせてくれたサンドイッチでランチを済ませると、
私はよく男子たちにまじって football 遊びをするのが好きだった。

Vanya は、ソ連国籍の男子。日本式に発音すればワーニャ。
当時は便宜的に Russian と自分でもみんなも先生たちも言っていた。
Soviet という単語を会話では一度もきいたことがなかった。

今思えば、ワーニャはウクライナ人だったかもしれないし
グルジア人だったかもしれないが、もう確かめようがない。

クリスマス休暇明けの学校で、ワーニャが転校することを知った。
インターナショナルスクールでは毎学期、転校生がいる。
入る方も出る方も。
休暇中に帰国してしまって good bye を言えなかった子もいる。
ワーニャのように、たった数日でも来てみんなと握手したりハグしたりできたのは、きっと両親の配慮だったのだろうなあ、としみじみ思う。

ワーニャは今頃、どうしているだろう。

最近は Vanya の金髪ときれいな緑色の目を思い出しては、
彼の無事を祈っている。

彼が、ロシアにいようと、ウクライナにいようと。