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人を信頼するのが怖い

と思って、咽び泣いていた。
1年くらい前のことだ。
今付き合っているパートナーと、付き合い始めて少し経った頃。

* *

私は基本的に人間不信だった。
人見知りも激しい。
根底に「人間は怖い」という意識がある。
それは、基本的人間関係である親との関係が、恐怖と支配だったからだろうと思う。
いつも人前では緊張してしまう。

人間不信に拍車をかけたのは、
性犯罪の被害に遭ったこと、
初めて付き合った男性から手酷い裏切りを受けたこと、もある。
男性不信が特に強くなった。

性犯罪被害は孤独感を強くする。
人になかなか話せることではない。
話してみて、誤解される、傷つく、という経験をしているうち、話さないのが一番だという気持ちになった。
それでも苦しみはマグマのように溜まっていき、ストレスから日常は重苦しく、灰色になっていく。
友人とも壁を感じ、疎遠になった。
誰とも、本音で話せることはない、と感じた。

こうして書いていても、このような人間がよく男性に恋をしたものだと思う。

今のパートナーのことは、会ってその日のうちに好きになった。
男性を好きになったこと自体、7~8年ぶりのことで、自分でも驚いた。
何かの間違いだと思ったので、早く相手に幻滅してしまいたいと思いながら、相手のことを知れば知るほど好きになった。
そしてとんとん拍子にお付き合いすることになった。
その展開の早さにも、我ながら驚いた。

ところが、付き合うことになって浮かれたのは、最初の1日くらいだ。
ふいに、自分はとんでもないところに来てしまったと気が付いた。

あんなに恋愛で傷ついて、男が嫌いで、もう懲り懲りだと思っていたのに、また恋愛のスタートラインに立ってしまった。
他人と親密になる世界に。
下手をすれば深く傷つく世界に。
恐ろしくて慄いた。

私は、人間が怖い。
人の信じ方なんて、知らない。わからない。
人を信じることを考えただけで、吐き気がした。
何度も嘔吐反射が起きて、嘔吐反射と共に声をあげて泣いた。
怖い。怖い。怖い。
悲しい。こんな自分が。

正直、心は折れそうだった。

自分に恋愛はむりだ。
恋愛不適合者で、諦めたほうが良い。
別れようか。
悩みに悩んだ。

それでもやってこられたのは、
パートナーのことが、どうにも私は好きだった。

理由はわからないが、
姿を見ると幸せだ。
いくらでも話していられる。
ひとりでいる以上に、一緒にいると落ち着く。
知れば知るほど、尊敬する気持ちが深まる。
いつも「会いたい」と思う。 

その気持ちは本当だった。

あ、そうか、と思った。

相手のことを信じられなくとも、
自分の感じている気持ちのほうを信じればいいのか。

ある日、すとん、とそれが落ちた。

私は人間不信が強くて、人の信じ方がわからなかった。
だけど、相手に不信感を抱いたら、心地よくはいられないはずだ。
逆に、一緒にいて心地よさを感じれば、それだけで一緒にいる理由になるのではないか。
「相手を信じているか・いないか」はこの時関係がない。
それで良いのではないか。


この「自分の気持ちを信じる」という基準は、
静かに、私に変革をもたらした。
それまで、「自分の気持ちは抑える」というのが私の生存戦略で、生き方だった。
そして、その生き方は私をうつ病にしたのだ。

私はパートナーとの関係性のために、
何よりも自分のために、
自分の感情に注意をはらった。
いま、どんな気持ちか?

そして、自分の気持ちはなるべく素直に表現した。
楽しかったら「楽しい」、悲しかったら「悲しい」と、相手に伝えるようにした。
「嫌だった」ということも、身投げをするくらいの勇気を要したけど、伝えるようにした。
パートナーはいつも私の気持ちを受け入れ、尊重してくれた。(そのことにとても感謝している。)

そして、このことは、べつに特別な人だけじゃなく、
どの人間関係にも当てはまることじゃん!
と、ある日私は気がつく。

自分の気持ちに素直になる。
必要だと思ったことは伝える。
お互い気持ちよく過ごせない人間関係ならば距離をとる。
お互い心地良く感じる人間関係は心から大切にする

少しずつ、それを実践しているうちに、人付き合いは格段に楽になった。
少しずつ友人も増えた。

* *

「人を信じるのが怖い」
と泣いていた日々から気づけば1年経った。

現在パートナーとは同居しており、同居する程度にはかなり信頼していることになる。
自分の変わりようにびっくりしている。
それだけでなく、生きることも随分楽になった。
うつ病も軽くなり行動範囲が広がった。

人を信じられない人生はしんどかった、
と振り返って思う。
誰も彼も信じていたら騙されてしまうが、
誰のことも信じていない人生は孤独の牢獄のようだ。

この先、どんなことがあっても、
自分を信じていること、
自分の感覚や気持ちを信じていることは、
心強い希望になる。

そうしている限りきっと、
信じるに足る人と出会い、
良い関係を作り、
生きていけるだろう、と思う。


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