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【人生で一番初めの記憶】

「お父さんとお母さんどっちが好き?」

母親の膝の上に乗せられた僕は、母親から"どっちが好き"なのか聞かれた。僕はその時「お父さん」と答えた、そんな記憶。

僕の記憶の中で一番古く鮮明に思い出せる。3歳の僕はリビングの壁際で母親の膝の上に座らされて。僕達がいたその空間は静まりかえっていた。

なぜ、こんなにも記憶が鮮明に残っているのか、それには理由があった。

母親の質問に対して、僕が「お父さん」と答えた日。それから、しばらくして母親は僕達家族を置いて、僕の前から姿を消した。

たぶん、家に帰って来なくなった母親を僕は探すように。僕の記憶の中の、いなくなった母親を引き出してきて。きっと「どっちが好き?」の質問に対する僕の回答は間違っていたんだと思ったから。

後からおばあちゃんに聞いたけど。僕は子供ながらに自分の発言に対して、ひどく後悔して責任感を重く感じ、泣いていたらしい。泣いた、その記憶は僕には無かった。

当時の僕には母親がいなくなる事が、強烈な事だったんだろう。今はこんな記憶を思い出したところで「そんな事もあったな」って思い出せるだけで。悲しくはならないし、涙が出ることもない。

あの時、僕が「お母さんが好き」と答えても、きっと母親は帰って来なかったと思う。だから僕が責任を重く感じる事は無い。

ただ、母親がいなくなった後の、
父親の生活は相当苦しかったそうだ。


母親が居なくなった後の記憶がある。

僕の家にはサンタクロースが来ない。
僕にとっては、クリスマスはいつもと変わらない平凡な1日だけど。なぜか仲の良かった近所の子供達に、保育園の同級生は、クリスマスをとても楽しみにしているように見えた。

「今年のプレゼントはなんだろう!」僕以外の人には、何やら12月24日の夜に眠れば、25日の朝、目が覚めると枕元にプレゼントが用意されているらしい。

いい子じゃないと貰えない、
僕はきっといい子では無かったから、プレゼントが貰えてないのだと思っていた。

僕はどうしても欲しかった物がある。みんな持っていたから「ゲームが欲しい」そう思っていたけど。サンタは来ない。

だから、もしもサンタの話を振られたら
「僕にはサンタクロースは来ないよ」ってちゃんと事実を告げた。

「来ないわけないじゃん!紙に『欲しいもの』を書いて、それを見たサンタさんは、欲しいものをくれるんだから!」

僕はその話を聞いて、信じられない夢のような話だと思った。でも、みんなは貰ってる。

僕はその日はすぐに家に帰って『欲しいもの』を一つだけ書いた紙を部屋に飾った「きっと、来てくれるんだろうな」友達はみんな貰っている。だから僕だって貰えるはずだ。信じて疑わなかったけど。

25日の朝、そんなプレゼントなんて届いてなくて。ただ、部屋には、僕が書いた『欲しいもの』が一つだけ書かれた紙が飾られていた事を覚えてる。

その日は平凡な日常だった。当時の話を、大人になって父親から聞かされた。母親がいなくなってから、お金に悩んでいて。父親は散髪する金もないから、伸び切った髪を後ろでくくって。僕達兄弟を不自由させる事が無いように必死で働き。疲れている中でも毎日食事だって取らせていた。

ただの平凡な日常。それだけで十分だったのに。僕はそんな親に恵まれていたのに、それ以上欲張ってしまったから、きっと僕は悪い子だったんだろう。

僕の書いた『欲しいもの』を一つだけ、汚い字で書かれた紙を。どんな気持ちで父親は見ていたのかと思うとゾッとする。

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