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少年を大人にするもの

夜遅くにオシムさんが亡くなった速報を見た。
今思えばオシムさんが日本代表監督を辞めた後、もうあまり日本代表に興味がなくなったような気がする。
オシムさんと、南アフリカに行ってみたかった。

4月が忙しかったのは我が家に新しいメンバーが加わったからだ。
おにいちゃんが入籍した。
社会人になるとともに独立し、もう8年が過ぎたし、彼女とはもう2年以上一緒に暮らしていたし、式はまだ挙げていないので、こちらとしてはコロナ禍でもあり特別変わったことはないのだけれど. . .。
それでも両家顔合わせをしたり、お祝いを送ったりして、あたしもそれに向けてワクチンを接種したり、久しぶりに容姿を整えて(笑)外出したりとあわただしく過ごした春であった。

そんなこんなでいろいろとここしばらく「わが家の歴史」をお兄ちゃんの成長とともに思い返す日々だったのだが、そこへきてのオシムさんの訃報である。
2007年11月にオシムさんは脳梗塞に襲われ、結果としてそれが原因で前年に就任したばかりの日本代表監督を辞任することになった。
15年前。
あたしは兵庫県加古川市に住んでいて、おにいちゃんは高校1年生だった。
思えばあの年が我が家にとって未来に希望をもって家族が一緒に暮らした最後の年になった。
相方は10月に本社転勤の辞令が出て、10年ぶりに転勤生活が終わることになった。
おにいちゃんは入った高校でテニスを続けてインターハイに出たいと、家を出て寮に入ることになった。
関西は地元であるあたしには「単身赴任」という文字が頭にちらついたときもあったが、当時中学2年生の娘と小学4年生の末っ子は「お父ちゃんと一緒に関東に行く」「転校してもいい」ということだった。
翌年春に我々はおにいちゃんを残して神奈川に引っ越したが、翌年相方はリストラされ、そのまま西日本の大学に進学を希望していたおにいちゃんに自宅から通える関東の大学に志望を変えてもらい、2年後また家族は一緒に暮らすことになったが、相方は病魔に襲われ、おにいちゃんが成人するのを見届けると亡くなってしまった。

ただでさえ物心ついた時からずっと親の都合で転居を繰り返し、将来の進路を定める大事な時期に色々我慢してもらわなければならなかったおにいちゃん。
3人兄弟の長子として、いつも母とともに知らない土地で緊張を強いられる日々であったと思うし、父亡き後は腐りもせず家族に迷惑をかけることもなく、どんどん大人になっていったのであった。
社会人となっても母と暮らしている妹や弟と違い、おにいちゃんはこども、という感覚よりも仲間という感覚が強い。
転勤生活の中で出会ったサッカーも、おにいちゃんだけが部活で忙しくなるまで一緒に観戦したり、時には一緒に応援したりしてくれた。
父が病気になってからは免許を取って通院を手伝ってくれ、余命告知を受けた時は母はおにいちゃんにだけなんとか話すことができた。
シングル・マザーになってからは何かと気遣ってくれ、感謝している。

ドイツ大会がとても悲しい形で終わってしまい、もう、鈴木隆行選手も代表に呼ばれることもないだろうと思って(日本代表は卒業かなあ)と思いかけていた時、オシムさんが監督に就任してとてもワクワクした。
2017年、あたしは人生で最も充実した1年を過ごしていた。
「サッカー批評」からオファーをいただき、連載コラムの挿絵を1年間担当することになった。
長年の夢がかない、天にも上る気持ちだった。
その掲載第1回目の表紙に大きくこう記されていた ー 「オシム改革の未来~サッカーの「日本化」を止めるな」
そう、オシムさんの記事とあたしの絵が同じ雑誌に載っていた。
同じ年にあたしは地元の地域リーグチームの応援も始めていた。
11月には地域決勝大会出場も決まっており、神戸で試合が組まれていた日本代表の練習相手にそのチームが呼ばれていると知り、絶対オシムさんに掲載誌にサインもらいたいと思っていたのだが、オシムさんが倒れてTMも流れた。
高校で軟式テニスに打ち込んでいたおにいちゃんはもう一緒にサッカーを観に行ったり応援したりはしてくれなかったけれど、応援だ、遠征だとサッカーに夢中の母を温かく見守りながら母の留守を預かり、妹や弟や犬の面倒を見てくれた。

おにいちゃんが就職して家を出ることになった時、(あたしはまだなにもしてあげられてないのに、もう、出て行ってしまうのか)と思ったものだ。
でもこうしてあたしの戸籍から抜けて自らの籍の筆頭者となったおにいちゃんを見て思う ー 親は無くとも子は育つ。
おにいちゃんは第一子として緊張感いっぱいに育てたのだが、それがもう生まれ合わせの運命であり、もう彼にもあたしにもどうしようもない。
もっとああできたのではないか、こうしてやれたのではないか、と残念がることは果てしがないが、もうそれはきりがないことなのだ。
こどもというものは、思い通りに育ちはしないが、育てたようにしか育たないのである。
おにいちゃん、結婚おめでとう。
今まで本当にすみませんでした。
産まれてきてくれて、ありがとう。



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