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【分析】史実の中に創作あり~時代劇はフィクションの塊~

脚本家・壽倉雅(すくら・みやび)でございます。

脚本を書くにあたり、中でも時代劇というのは、歴史上に起きた出来事や史実をドラマにしています。
例えば江戸時代だけでも、『大坂夏の陣・冬の陣』『忠臣蔵』『大奥』『桜田門外の変』『無血開城』など、様々な出来事が実際に起こっており、これらをテーマとした時代劇作品も数多くあります。

同じ出来事を描いているにも関わらず、キャラクターやストーリーの展開、その作品ならではの独自の考察や筋書きは異なります。
それは何故か……当然、脚本家による創作が含まれているからです。

本日は、既存作品から史実の中にある創作について、分析していきたいと思います。


様々な視点で描かれてきた大河ドラマ

約60年近く前からNHKで放送されている『大河ドラマ』。60年も放送していれば、当然年代が被る作品や、同じ歴史上の出来事を描いた作品や、主人公が同じという作品は数多くあります。

以下に、参考例をまとめました。
・徳川家康をメインにした作品⇒1983年放送『徳川家康』、2023年放送『どうする家康』
・豊臣秀吉をメインにした作品⇒1966年放送『太閤記』、1981年放送『おんな太閤記』(秀吉の妻・寧々視点)、1996年放送『秀吉』
・本能寺の変を作中で描いた作品⇒1992年放送『信長 KING OF ZIPANG』(織田信長視点)、2020年放送『麒麟が来る』(明智光秀側視点)
・幕末を描いた作品⇒1990年放送『飛ぶが如く』(西郷隆盛・大久保利通主役)、1998年放送『徳川慶喜』(徳川慶喜主役)、2008年放送『篤姫』(天璋院篤姫主役)

このように、同じ歴史上の人物を主人公にした作品がいくつもあったり、同じ年代や出来事ではあるものの描いている視点が違うという特徴が、大河ドラマでは見受けられます。

独自性と、資料からの創作

1979年にTBS系列で放送された、日曜劇場1200回記念番組『女たちの忠臣蔵~いのち燃ゆる時』。脚本・橋田壽賀子氏、プロデューサー・石井ふく子氏という黄金コンビによって制作された、3時間の大型時代劇でした。
『忠臣蔵』を題材にした作品は、戦前から数多く制作されており、大体の作品が赤穂浪士を主人公にした作品です。しかし、ここで作家の独自性、つまりオリジナリティが出されました。

それは『女性視点で描いた忠臣蔵』であるということです。

既存作品では赤穂浪士にスポットを当てていますが、今作では赤穂浪士の妻や姉・妹、恋人といった、赤穂浪士に関わる女性たちが主軸になっています。また、忠臣蔵作品では必ずといっても良い浅野内匠頭や吉良上野介も一切出演しないという特徴があります。

『忠臣蔵』に限ったことではありませんが、歴史上の人物は男性の名前や資料は残っていても、女性の資料はあまり残っていないことが多いのです。
生没年が不詳であったり、『妻』『姉』『妹』という存在が確認できていても名前が不明であったりというケースはよくあります。

この『女たちの忠臣蔵』も同様で、赤穂浪士の名前や人物像が分かる資料は残っていても、その家族、特に女性に関する資料はほとんど残っていません。当然名前も不明ですし、生没年も不詳です。
今作の中で、香川京子さんが演じている”つね”は、赤穂浪士の一人・大石瀬左衛門の姉で、盲目という役柄です。
実際、資料の中で赤穂浪士の誰かの姉が盲目という資料は残っているそうです(石井プロデューサー曰く)。しかし、それが誰の姉で、何という名前なのかは不明です。

こういった一行しか書かれていない資料から、キャラクターを創り上げ、独自性を出すことも、脚本家の大事な仕事なのだと実感します。

(余談ですが……私は、以前吉良上野介視点の忠臣蔵の朗読劇の脚本を担当させていただいたことがあります。)

その時代なんて、誰も見ていない

ドラマというのは、『フィクション』なのです。中でも「時代劇はフィクションの塊」と言っても過言ではないでしょう。

例えば『桜田門外の変』の物語を脚本にしたとしましょう。ですが書いている本人は、江戸時代に生まれていませんし、その桜田門外の変の実際の様子を見ているわけではないので、事件そのものを再現することは当然無理なのです。

『桜田門外の変』に限らず、また大河ドラマでも同様ですが、実在する人物だけを登場させて物語を描くことには限界があります。
「こういうキャラがいたかもしれない」「こんなやりとりがあったのかもしれない」「こういう事実はあった」という、史実と創作を織り交ぜて、時代劇ができあがります。
史実を基にしたドラマは、全て脚色や仮説で成り立っているのです。

『大奥』でも同じことが言えます。1000人以上の女たち一人ひとりの生活なんて、誰も分かりません。でも「意地悪なお局様」「権力が欲しいと思っている側室」といった人物は、いたかもしれませんが、それがどんな人で、どんな名前かまでは分かりません。これも結局は、創作の域なのです。

史実と違っても良いじゃない

ネットが普及した今、視聴しているドラマの展開を考察したり、持論をSNSで語る方が多くいらっしゃいます。大河ドラマや時代劇等の感想でよく見受けられるのが、

『史実と違う』

という言葉です。
先ほど紹介した『女たちの忠臣蔵』をまた例にあげます。
こちら42.6%の高視聴率を取った名作ドラマと言われていますが、ある大きな嘘(史実と異なること)が、本編中に起きているのです。

それは、『但馬の郷に帰っているはずの、大石内蔵助の妻・りくが、江戸にやってきて、名前を偽って料理屋で働く』ということです。
当然、史実ではそんな出来事は起こっていませんし、そもそも離別した後、りくが江戸に来たという資料もありません。ですが、こちらも石井プロデューサー曰く、「りくが但馬から江戸に来ないと物語が成立しない」とのこと。
そりゃ当然ですよね。主人公が討ち入りの前後に江戸にいて、事件に遭遇しなければ、ドラマとして成り立ちません。

また、映画『柳生一族の陰謀』(1978年公開)や、ライオン奥様劇場『徳川の女たち 第一部』(1980年放送)では、2代将軍秀忠が亡くなった後、春日局(おふく)やお江与といった女性を中心に世継ぎ争いをする描写がありますが、史実ではお江与のほうが秀忠よりも六年先に亡くなっていますし、おふくが春日局に名前を変えたのは秀忠が亡くなった後なのです。

結局、ドラマとして成立させたり、展開として盛り上げるためには、史実と違っても良いということが言えます。


最後にもう一度言いますが、「時代劇はフィクションの塊」です。

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次回もお楽しみに!

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