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映画「ミッション・インポッシブル/フォールアウト」2018年アメリカ

トム・クルーズ製作主演による、人気スパイ映画シリーズの第六作目です。

本作の売りは、危険なアクションを、スタントを使わずに、すべてトム自身が演じるというもの。
しかも、そのトムは、本作公開時56歳です。
いまや、特撮シーンは、CG全盛の時代です。
しかし、これをすべてナマで演じるという彼のこだわりが、このシリーズの人気を支えていることは明白。
もちろん、彼もそれは百も承知で、加齢による身体能力の劣化に抗うように、今回もまたまた危険なスタントに果敢にチャレンジ。
製作権を持つ彼が、「自分がやる」と言っている以上、もはや「やめて」という人は、誰もいないのかもしれません。

ちょっと気になって、彼のことをWiki してみたのですが、三人目の妻であるケイティ・ホームズと協議離婚した後はずっと独身。
愛娘の親権も母親に持って行かれたようで、今は養育費だけを払っているようです。
つまり、彼の危険極まりない映画撮影を、心配して止める家族はいないという状況。
通常なら、守りに入ってもいい年齢にもかかわらず、彼がいまだこれだけ危険な映画作りにのめり込むのは、このプライベートの影響もあるのかもしれません。
まあ、ゲスの勘ぐりということで。

ハリウッドは、スタントマンの地位が高いことで有名です。ギャラを比較してみても日本映画と比べると雲泥の差があるそうです。
スタントマンの労働組合もあって、撮影時の待遇もいいと思います。
怪我や、時には死亡するリスクを背負って、カメラの前に立つわけですから、例え数秒のカットでも、映画への貢献度が大きいのは納得するところ。
また映画を作る側も、主演俳優の怪我によって、莫大な製作費をつぎ込んだ作品が製作不能になるリスクを避けたいという事情があります。
アクション映画に主演する俳優の多くは、撮影に入る前には、危険な撮影はスタントマンに任せるという契約にサインをさせられるそうです。

危険なスタントを売りにしていたアクション俳優というと、まっさきに頭に浮かぶのはジャッキー・チェン。
彼も、ハリウッド進出を果たした際には、この契約書にサインをさせられたそうです。
しかしそのために、自分が思うようなアクション・シーンが撮れなかった彼は、結局一度は香港へ撤退することになります。

そんな映画文化が基本のハリウッドで、主演俳優自らが、スタントマンを使わずに、危険なシーンを演じるというスタイルは異彩を放ちます。
もちろんそれが可能なのは、主演であるトム・クルーズ自身が、映画の製作権を持っているからこそできること。
そして、そのシーンを決行するための、莫大な保険料も支払える財力が彼にあるからです。
普通の映画俳優ではそうはいきません。

とにかく、観客の度肝を抜くアクション・シーンありきで撮影は始まります。
トムが、こんなアクション・シーンを撮りたいと決めた時、まだシナリオは何も決まっていないそうです。
そして、どんどんとアクション・シーンだけが撮られていき、シナリオ作成は、後からそれを繋いでストーリーにするというスタイル。
ですから、このシリーズの脚本作りには、与えられたアクション・シーンという素材を上手く使う「つじつま合わせ」の才能が問われるわけです。
トムが、前作から引き続きクリストファー・マッカリーを監督に指名しているのも、彼にこの才能があるのを認めたからなのでしょう。
予告編にはあった、前方からくる大型トラックとあわや正面衝突というシーンが、本編にはありませんでした。
これは、迫力あるシーンではありましたが、残念ながらシナリオには上手く組み込めなかったのでしょう。
こんなもったいないアウトテイクが、本作には他にもまだありそうです。

「つじつま合わせ」ということなら、今回はかなりその要素が濃厚なストーリーになっています。
まずイーサン・ハントをめぐる女性たち。
本作には、前作に引き続き、実力派エージェントとしてイルザ・ファウスト(レベッカ・ファガーソン)が、組織から新たな任務を与えられてイーサンの前に現れます。
そして、三作目で大活躍をし、前作にもチラリと登場した、イーサンの妻ジュリア(ミッシェル・モナハン)も登場。
加えて、本作でのヒロインとして新たに登場するのが、ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)。
彼女の役どころは、美しき武器仲買人。第一作目で、登場したマックス(ヴァネッサ・レッドグレイブ)の後を引き継いだ娘という設定です。
加えて、黒人女優のアンジェラ・バセットが、CIA長官として登場。
彼女たちが、誰が味方か敵なのかわからないような展開でストーリーが進行するので、話はかなりややこしくなります。
そして、今回スパイ映画おきまりのマクガフィンとなるのは、プルトニウム。
これを巡って、様々なアクションが展開されます。


ちょうど「ゴースト・プロトコル」と「ローグ・ネーション」を合わせたようなお話になっていますね。
このブログを書くのに、本作を都合二回見たのですが、ストーリー展開は正直よくわかりませんでした。
でも、楽しむにあたっては、それで問題がないのがこのシリーズのすごいところ
まあ、どうしても、「つじつま」が気になる方は、Wiki でも読んでみてください。
僕の場合は、一作目を見た後、シリーズの途中をすっ飛ばして、いきなり本作を見てしまったので、人物相関が理解できず、結局シリーズを最初から見直してしまいました。
恥ずかしながら、本作登場の謎の男ジョン・ラークの正体がめまぐるしく変わって、結局彼が誰なのか、いまだにわかっていません。

というわけで、まずは本作の目玉となるアクション・シーン。
映画の冒頭で、トム・クルーズは、いきなりヘイロー・ジャンプに挑んでいます。
ヘイロー・ジャンプというのは、高高度降下低高度開傘のパラシュート降下のこと。


AI に聞いてみます。

航空機で高度約30,000フィート(約9,000m)から自由落下し、高度約300~200フィート(約90~60m)でパラシュートを開傘する降下方法のこと。
HALOは、主に特殊部隊が敵地に極秘潜入する際に用いられる戦術です。
高度の高い空気抵抗により、降下速度が約200km/hにも達します。
また、気圧が低いため、酸素マスクや防寒着などの装備が必要となります。そのため、HALOを行うには、高度な技術や体力が求められます。

このジャンプを習得するために、トム・クルーズは100回を超える降下訓練を実施したそうです。
本当にスタントなしかと疑って、このシーンには目を凝らしましたが、彼の顔がはっきりとわかるカットから、空中への飛び出しまでは間違いなくワンカットでした。
彼のアクションにスポットがあたりがちですが、その彼の表情をファインダーに捉えながら、トムの前を後ろ向きで降下しているカメラマンが、考えてみればスゴイ。
このジャンプで着地したのは、パリのナイトクラブのあるビルの屋上でした。
見ている時は気になりませんでしたが、見終わってから、ふと我に返ると、ただのナイトクラブなら、わざわざこんな方法でなくても、もっと違う潜入方法はいくらでもありそうです。
ヘイロ・ジャンプで、潜入する必然性は皆無。


潜入したナイトクラブでイーサンは、得意の変装で、プルトニウムの買い手であるジョン・ラークになりすますべく、彼を待ち伏せてトイレで格闘。
しかし、この東洋人(リャン・ヤン)がめっぽう強くて驚きます。
トイレ内部を破壊しまくって、二人かがりでかかっても、ノックアウト寸前。
そこに、銃声一発。このピンチを救ったのが、イルサでした。


もちろん・イーサンは今回もロンドンを全力疾走します。
そして、その勢いで、ビルからビルも大ジャンプ。
しかし、メイキング映像によれば、トムはこの着地で、右足の足首を骨折。
それを瞬時に悟った彼は、同じジャンプは二度と出来ないと判断し、ビルからよじ登り、走り出すまでをそのまま演じています。
クルーズはすぐに病院に搬送され、手術を受けます。
医師からは「6か月から9か月の休養が必要」と診断されたそうですが、クルーズは「6週間で撮影現場に戻りたい」と強く希望。
リハビリに励みました。
映画では、足を引きずっているカットから、何事もなかったように、全力疾走のカットが続きますが、撮影は結局4ヶ月間中止されたそうです。


映画のクライマックスは、ヘリコプター二機による空中決闘。
イーサン・ハントは、核爆弾の起爆装置を起動させたまま逃亡しようとする敵のヘリコプターの吊るした荷物に飛び移ったまま、カシミールのシアチェン氷河の上空に舞い上がります。
そして、振り落とされそうになりながらも、乗組員二人を蹴散らし、操縦桿を奪って敵を追います。
このシーンのために、トムはヘリコプターの免許を短期間で取得していますね。
そして、まだヘリ操縦初心者にもかかわらず、きりもみ落下や、超低空飛行などの危険な操縦をこなしています。
それだけではなく、役者として演技をしながら、しかもカメラの操作まで行っていると言いますから、驚きます。
トムは「トップガン:マーヴェリック」では、アメリカ軍の戦闘機 スーパーホーネットを、実際にパイロット・ライセンスを取得して操縦しています。
ヘリコプターならわけはないかもしれません。


ラストは、断崖絶壁での、タイマン一騎打ち。
起爆装置の解除ははたして、間に合うのか・・(間に合うに決まっていますが)

というわけで、CG映像全盛の昨今の目の肥えた観客に、あえて、本物のアクションの重量感やリアルさで挑んでいる本シリーズ。
確かに、本物のアクションの迫力は、本作でもヒシヒシと伝わってきます。
もちろん、それをトム自身が演じていることが観客に伝わるようなカットが多用されているわけです。
観客がこれを望んでいることを、トム・クルーズは、確実に理解しています。
トム・クルーズ自身も、本気かどうかは知りませんが、こんなことを言っていました。

「ハリソン・フォードを見習って、80歳になっても、このシリーズを続けていきたい。」

しかし、普通に考えて、CGに頼らないナマのアクションをこなすのは、如何に身体能力に優れたトムというども限界はあります。
そして、加齢による肉体の劣化は避けられるものではありません。
前作までは、鍛え上げた肉体を惜しげもなく晒していましたが、本作ではそれがなかったのもやや気になるところ。
いやでも刻まれる顔や筋肉のシワをCGで消して、スクリーン上で、若々しいイーサン・ハントを演じ続けることも、今後の映画技術では可能なのかもしれません。
しかし、そこまでして、彼がこの役にこだわるかどうかは悩ましいところ。
その限界を感じているからこそ、今年公開された新作の「ミッション・インポッシブル」は、二部構成で、撮影期間を空けずに来年パート2が公開されるということなのでしょう。

これは「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のパート2と、パート3の撮影が同時に行われたのとほぼ同じ理由のはず。
そう考えれば、このシリーズもいよいよ来年で打ち止めということかもしれません。

気になることが一つ。

前作の感想で、旧オリジナル・ドラマ「スパイ大作戦」の丁々発止の総合頭脳戦のテイストが戻ってきたと述べました。
しかし、本作では、再びスーパー・ヒーロー、イーサン・ハントの超人的活躍が前面に押し出された、それ以前の路線が完全復活しています。
映画の中で何度もイーサンが言うセリフがあります。

「なんとかする。」「やり遂げてみせる。」

要するに、そこには勝利から逆算した綿密な計画性はなく、あるのは気合と、いきあたりばったりの偶然の結果だけということになるわけです。
普通のアクション映画ならそれでいいのかもしれません。
しかし、「スパイ大作戦」のファンだった身からすれば、それだけではやはり消化不良です。
とれだけ、脚本のつじつまがあっていようと、アクションだけでは、スパイ映画の王道ではないだろうというのが、クラシック映画ファンとしての偽らざる気持ちではあります。

本作にも、敵を欺くトリックがいくつか登場します。
相手からプルトニウムの情報を引き出した瞬間に、合図とともに病院の部屋の壁が倒れて・・・。
確か、今村昌平のセミ・ドキュメンタリー映画「人間蒸発」でも同じようなシーンがありました。
トムの迫力あるアクション・シーンに比べれば、実に地味なシーンではありますが、こんなサプライズが、個人的にはけっこうポイントが高かったりします。
とにかくイーサンの活躍が、映画の中で、超人的になればなるほど、なぜか覚える一抹の不安があります。
気合はわかるんですが、どこか意地になっているようで、痛々しいんですよ。

例えばですよ。
今はもう、還暦も超えてきたトム・クルーズが、自分の肉体の衰えを自覚し、その年齢に見合ったスパイ像を演じるようになったとします。
演技力もあるトム・クルーズですから、老スパイの悲哀だって、ちゃんと演じられるはず。
肉体アクションから、過去の経験を生かしたいぶし銀の頭脳派になるわけです。
要するに、イーサン・ハントは、「刑事コロンボ」にキャラ・チェンジが出来るかという話です。
当然、彼ならそれはできます。
やろうと思えば、そんな設定の単発映画なら、普通に作ってしまう気がします。
しかし問題なのは、そうしたら、このシリーズの、イーサン・ハントを見たい観客は、果たしてついてくるのかということ。
いやいや、そんなイーサン・ハントは見たくない。やはり、いくつになっても現役感バリバリのスパイ像を演じてほしい。
シリーズのファンたちが実際どう思っているのか。これは悩ましいところですね。

やはりその答えのカギを握るのは、興行成績ということになるのかもしれません。
しかしながら、本作「フォールアウト」は、イーサンの超人的活躍大復活で、めでたく前作までの興行成績を塗り替えています。
であれば、この路線のまま、突っ走っているはずの「デッド・レコニング」の観客動員数はどうなるのか。
これは興味のあるところです。

56歳といえば、黒澤明の「生きる」の志村喬よりももっと上。
笠智衆は、「東京物語」の時の実年齢は49歳です。
「宇宙戦艦ヤマト」の沖田艦長の当初の年齢設定は52歳。
普通に生きていれば、誰もが枯れてきて当たり前の年齢です。
かくいう自分も、老後のために、野菜作りの修行を始めた年齢が56歳であります。
そう考えれば、とにもかくにもトム・クルーズの現役感は恐るべし。

まさに彼の映画製作そのものが、「ミッション・インポッシプル」です。

もはや、止まらない列車に乗ってしまった感のあるトム・クルーズ。
40代の頃から始めた山登り上りの経験を思い出します。
最初は低い山から始めるわけですが、その頂上に立った達成感は心地よく、体中をアドレナリンを駆け巡るんですね。
そしてこう思うわけです。
「今度はもっと高い山を。」
要するに、快感なんです。気持ちいい事は人間はそう簡単に止められない。
その意味では、トム・クルーズは、危険なアクションの中毒患者なのかもしれません。

ここまでの6作は、すべてAmazon プレミアムで鑑賞しました。(DVDも持っていますが)
新作は、まだ有料なので、いずれ無料配信になったら、ゆっくりと鑑賞させていただきます。セコくて申し訳ない。
還暦越えのトムの活躍は、いずれまたじっくりと鑑賞いたします。

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