時を刻む音...『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』

最近観てすごく刺さった映画。
彼の人生があって、だからこそ彼の作品があるのだろう。

ぜひ観てみてください。

【あらすじ】
名作ミュージカル「RENT レント」を生んだ作曲家ジョナサン・ラーソンの自伝ミュージカルを映画化した。1990年のニューヨーク。食堂のウェイターとして働きながらミュージカル作曲家としての成功を夢見るジョナサンは、オリジナルのロックミュージカルの楽曲を書いては直しを繰り返していた。もうすぐ30歳を迎え、これまでともに夢を見てきた仲間たちも現実に目を向け始め、焦りを覚えるジョナサン。自分の夢に価値はあるのか、時間を無駄にしているだけではないかと自らに問いかけながらも、時だけが過ぎていき……。(映画.comより引用)

※以下ネタバレを含むので作品を観ていない方はご注意ください。





◯夢と現実と日常と
30歳の誕生日を目前に、まだミュージカル作家として大成していないことに焦る主人公ジョナサン。彼の焦りと、それでも平然と過ぎていく日常との板挟みが苦しかった。
有名なあの人は自分の歳にはもうとっくに成功していた。そんな誰かと自分を比較して焦りは募るばかり。

ニューヨークにやってきた多くの人が何かしらの夢を抱えて、特別な何者かになろうとしていたはず。でもみんな次第に夢を諦めて堅実な人生を選んで歩んでいく。親友のマイケルは収入のいい職に就き、彼女のスーザンは現実的な職を選ぼうとしている。ずっと夢を追い続けることが間違っているかのように感じてしまう。観ていて苦しかった。
周りの人たちがみんな口では応援している。でも本気じゃない感が漂っていて悔しくなった。

そんな中で直面する日常のあれこれ。
入院するバイト先の友人
将来を相談する彼女
大事な相談があると言う親友
客で賑わうバイト先

どうしてこうタイミングが重なるものなのか。
忙しいバイト先で「曲も書かないといけない、お見舞いにも行かないと…でも実際はどちらもすることができない。」そう嘆く彼の無力感がすごく伝わってきた。
入院してる友人よりも曲のことを考えてしまう自分はなんて最低なんだと自分を責める気持ちも痛いほど共感した。


◯自分のことを本当にわかっていたのは
親友や彼女から相談の電話や催促をされるたび、ジョナサンは、みんな僕の忙しさや今の大切さをどうしてわかってくれないんだ!そう思っていたと思う。
でも、それは違った。
喧嘩して別れたマイケルが、それでもミュージカル曲の試聴会に来たこと。別れたスーザンが誕生日にこれからも曲を作ると思ってと五線譜のノートをプレゼントしたこと。それらの出来事から、彼らが本当にジョナサンの成功を願っていたし、彼の才能を信じていたことがわかった。むしろ、30歳までに成功できないと終わりだと思っていた、ジョナサンの方がきっと自分自身のこと、自分の才能を信じきれていなかったんだなと思った。みんなの方がジョナサンのことを深く理解していたんだなと思うと胸が熱くなった。


◯時を刻む音
チック、チック、ブーン!それは時限爆弾が時を刻み爆発する音。でもそれはジョナサン自身が作った爆弾に過ぎなかった。
ジョナサンが時間がないと嘆いていたが、後半のマイケルの告白によって残り時間の捉えがぐらりと変わった。作品を書く時間はまだまだある。本当に限られているのは大切な人と過ごす時間なのかもしれない。


思えばこの作品はたくさんの時を刻んでいる。
30歳までの限られた時間、
彼女や友人たちと過ごすひととき、
マイケルとの幼少期からの繋がり、
ジョナサンの人生、

万人にとって平等に、そして無情に流れていく時間ではあるが、その時間をどこで誰とどのように過ごすかによってそれぞれの時間の価値は変わってくる。
ただの秒で数えるか、成してきたことで数えるか、大切な人と過ごした数で数えるか、時の刻み方は様々だ。

そう考えた時、ふと頭の中に
『RENT』の「Seasons of Love」が流れた。

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