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企業再生メモランダム・第49回 中長期的に大事なこと

「企業再生メモランダム」では、私が、20代の時に、複数の会社の企業再生に従事する過程で作成したメモを題材として、様々なテーマについて記載していきます。

メモの39枚目は7年前に作成した「中長期的に大事なこと」と題したメモです。

メモの背景

前回の続きです。「何もしない。」という経営方針の社長の顛末についてお話しします。

ある日、その社長は会社に来なくなりました。私は、その日以来、彼の姿を見ていません。

小説や映画の世界のような話ですが、彼は、対象会社の代表取締役社長でありながら、自分の考える経営が出来ないという虚偽の情報を週刊誌にタレコミ、当時、対象会社の裁判になっていた相手方に駆け込みました。

社長は、自分で職を辞する勇気もないような弱い人間だったのです。

後日、裁判の過程で明らかになったのですが、彼は、裁判の相手方から命じられ、取締役会の様子を隠し撮りをさせられ、虚偽の陳述をさせられていました。しかも、その行為もむなしく、その裁判では、裁判長から、虚偽であることを看破され、判決文で完全に否定されていました。

さらに、非常に残念なことに、彼は、当時、可愛がっていた数人の取り巻きの部下まで、巻き込んでいました。結果として、その部下らも対象会社の中に居場所を失ってしまいました。部下らは、社長に引っ張られて、人として正しくない行為をしてしまったことを、とても後悔をしているようでした。

一人の人間の能力を超えた野望が、可哀そうなことに、結果として、多くの犠牲者を生んでしまいました。

その人の才覚や人としての器を超えて役職を望むこと、役職を与えることは不幸でしかありません。「役職が人を育てる」ことがないとも言えないのですが、多くの場合は、当人も周囲の人も苦労することが多いように思います。

このように、企業再生の仕事をしていると、企業再生の仕事とは「際(キワ)」の仕事だと思います。

倫理観や人間としての正しさなどを放り投げて、どうにか自分の居場所を作ろうとする人間の浅ましさ、自己中心的な生き方には慄然とします。

図らずも、この社長が対象会社から去ったことによって、会社は急激に雰囲気も良くなり、一気に「普通の会社」への道を歩み始めることになります。

メモ「中長期的に大事なこと」の中身

1.透明性のある会社へ(「情報開示の重要性」の周知徹底)

対象会社では、過去において、経営者が業績悪化を隠蔽する、私欲のために意思決定するなどがありました。

会社とは、法的には株主のモノであり、社会的にはスタッフ、取引先や地域社会のモノですから、全ての経営者やスタッフは、会社のためにならないことはしてはなりません。

2度とこのようなことが起きないように、透明性のある情報開示の徹底をしなければなりません。

情報開示がなされていれば、不正の抑止になりますし、不正の発見を容易にすることができます。

2.「職位」は会社における「役割」

対象会社では、過去において、部長、課長・・・など職位ある管理職が、会社における本来の自分の役割を果たさない事例が多くありました。

管理職は、部署を管理する職であって、管理しない・できないスタッフは管理職ではありません。上司・部下も同じです。上司は、会社において上司としての役割が求められていますが、その役割を果たさない人は上司として失格です。

管理職や上司であるというだけで、決して偉いなどということはありません。

3.仕事(会社における貢献度)に応じて対価は決まる

本来、仕事、もっといえば会社に対する付加価値・貢献度に応じて、その人への対価・報酬は決まります。

しかしながら、対象会社では、過去において労働組合が強かったためか、合理的な説明なく、昇給したり多額の賞与支給がなされたりしてきており、社会人としてごく当たり前である前述の「(給与や賞与の)報酬」に対する認識が甘いです。

4.自分の居場所を作らないこと

皆さんに理解して欲しいことがあります。短絡的に、自分の居場所の確保に動かないでください。自分たちがいなくても、勝手に良い会社になることを目指しましょう!

会社として一番望ましい姿は、自分がいなくても、自律的にまわる組織を作ることです。

何か問題が生じた時や、さらに企業価値を上げる場合に、自分の活躍場所があると考えて下さい。自分ありきの組織や自分の居場所作りをしないでください。

また、そう考えると、自分よりも優秀な人を採用することが大事になってきます。組織を守るため、組織を運営するためには、優秀な人材が欠かせません。



本連載は事実を元にしたフィクションです。

株式会社スーツ 代表取締役 小松 裕介
 2013年3月に、新卒で入社したソーシャル・エコロジー・プロジェクト株式会社(現社名:伊豆シャボテンリゾート株式会社、JASDAQ上場企業)の代表取締役社長に就任。同社グループを7年ぶりの黒字化に導く。2014年12月に株式会社スーツ設立と同時に代表取締役に就任。2016年4月より総務省地域力創造アドバイザー及び内閣官房地域活性化伝道師。2019年6月より国土交通省PPPサポーター。

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